5 君子不器って字面が悪い
12月31日
今年最後のイベントに5歳になった子供達が、教会に集まっていた。
どの子も表情が硬く少し緊張している。
希望に沿ったスキルを授かった親子は、歓喜し逆に思惑が外れた親子は、痛恨の極みの面持ちで項垂れていた。
ボクの順番になり、中央に佇む司教様の前に進む。
そして、緊張した顔つきで大きめの水晶玉に手をかざした。
「ん~はて?これは、珍しい。ノア君あなたのスキルは『君子不器』と出ました」
「司教様それは、どういう意味なのでしょう?」
父様が訝し気に聞いたが、司教様も聞いたことが無い言葉だと首をかしげるばかりだ。
ボクは、勿論知ってる。
何で4文字熟語?しかもメジャーじゃ無いし…
簡単に言えば優秀で様々な事に才能を発揮するって意味なんだけど、その知識が無いと真逆の意味に思える字面だ…
後ろが詰まっている事に気付き、早々ミアに場所を譲った。
「ミアさん、あなたのスキルは『ネゴシエーター』です。人との出会いを大切にして絆を結ぶと良いでしょう」
今度は、聞き覚えのあるスキルなのか司教様もホッとしたご様子だ。
父様と母様も胸を撫で下ろしていた。
「はい!司教様。ありがとうございます」
ミアは、セルジュ兄様の助けになるスキルを授かり嬉々としていた。
教会からの帰り道、父様と母様の口数が少ない。
帰宅して居間に落ち着いてから、まずミアに語り掛けた。
「ミアおめでとう。ネゴシエーター交渉人だね、きっとトーマス・モリャティ商会にとって大きな力になると思うよ。セルジュと一緒に店を盛り立ててくれたら嬉しいな」
「そうね~もう少し大きくなったら、セルジュと一緒にお店の手伝いをしてみる?それまでは、時間があるからたくさん本を読むといいわ。あとは、お友達を作って人との繋がりを大事にね」
「セルジュ兄様お手伝いするね~」
大好きなセルジュの役に立てると考えたミアは、満面の笑みをセルジュに向けた。
「うん、ミアよろしくね!」
セルジュも嬉しそうだ、そしてボクの話題になった。
「君子不器って、どういうことなんだろうね」
父様は、顎を弄りながら考え込み母様も困った様子だ。
「聞いたことが無い言葉よね…」
「君の子は、不器用です。と宣言された気がして不愉快だったよ」苦笑いする父様。
「でもノアは、読み書きも計算も早い時期にマスターしたわ。寧ろ覚えは、良い方だったわよ?」
「成人する15歳までに、何か道が開けるといいのだが」
あれこれ悩ませて悪い気もするが、ここでボクの知識を披露すればなぜ知っているのかを説明しなければならなくなる。
そうなると色々具合が悪いよね…
少々居心地が悪くなったので、早々部屋から退散した。
5日後
父様と母様に呼ばれ居間に行くと、二人が並んでソファーに座りボクとミアに向かいに座るよう促した。
「ミアまずは、この本を読んで人について学んでごらん。人の考えは、見方や立場によって変化する事もあるんだ。だから漠然と意識するので無く知識を言語でしっかり憶えておくといい」
「今までは、私達がミアの事を誉めたり叱ったりしてたでしょ?今度は、ミアが自分で人との関わり方を深く考えてほしいの。まだ難しい言葉も多いでしょうし本を読んでみて分からない事は、どんどん質問してね?」
「はい、父様母様ありがとう。ミア頑張るね!」
ミアは、本を受け取り素直に返事をした。
どうやら父様母様は、ネゴシエーター交渉人というスキルに備え、道徳のような本を探して来たようだ。
まずは、と言っていたので善悪の大切さを先に教えるのだろう。
ミアの様子を満足げに眺めたあと二人は、ボクに向き直った。
「ノア、君子不器の事を色々調べてみたんだが分からないんだよ。すまない」
「なので私達は、ノアが何に興味があるのかを聞いてみようと思ったのよ」
「うん…ボクね、まだよく分からないから、また今度で良い?」
「そうだね。今すぐじゃなくてもいいよ、よく考えておいてくれないかい?」
「はい」
話は、ひとまず終わり二人は、仕事へ戻った。
早速本を広げているミアに一声掛けてから外に出る。
5歳になったので、近所なら一人で表に出て良いと許しが出ていた。
噴水広場の椅子に座りボクは、これからの事に思いを巡らす。
これまで、コッソリ隠れて色々な魔法の練習をしてきた。
出来る事は、多岐にわたる。
今も暖めた魔力を体に纏って寒くないように工夫をしているし、何度か失敗を重ねたアイテムボックスもすでに成功して所持している。
時空間を歪ませて作るディメンションルームも作成済みだ(まだ狭いけどね…)
それに、まだ外で試していないが部屋から別の部屋へと移動する空間移動も短い距離でなら難なくこなすようになっていた。
いきなりこんな事出来ちゃいました。
なんてお披露目したら大騒ぎになるだろうし、少しづつ小出しにしておけば良かったのかな…
ここにきて、今まで用心し過ぎて隠していた事をちょっと後悔した。
「ノア難しい顔して、何考えているんだよ!」
最近仲良くなったラグロスが、ボクの傍まで来ていて軽く肩をこづく。
ラグの両親は、冒険者だ!
「あ~ラグか、何に興味があるか考えておけって父さんに言われてね」外では、父さんと言っている。
「そうか、ノアのスキル変わってたもんな」
因みに、スキルの詳しい説明をラグロスにもしていない。
「うん、でもボク魔法に興味があるから…」
「ノア、何か魔法できるのか?」
「うん…まぁねぇ」
どの程度の魔法なら騒ぎにならないのかが判断がつかないので、ラグにも打ち明けていないから言葉を濁した。
「属性の相性は、調べたのか?」
「何それ?」
「そんな事も知らないのか?得意な魔法は、人それぞれ違うんだってさ。だから最初に調べるって父ちゃんが言ってたぞ!冒険者ギルドや教会でステータスを調べれるって聞いたよ」
「そうなんだ、それってすぐ出来るの?」
「ステータス見るだけなら出来るよ!100シリ必要だけどな」
「大銅貨一枚か、なら父さんに聞いてみるよお金持ってないし」
それからラグともし魔法が使えたらなんて話で盛り上がったが、お昼時になりセルジュに呼ばれて帰宅した。
魔法が使える事を秘密にしたままで、ラグを騙しているみたいな罪悪感があったけど、仕方ないよね。
お金の価値と物価は、前世と似ていたので混乱しなくて助かった。
単位は、シリ。
小銅貨一枚 1シリ 中銅貨1枚 10シリ 大銅貨一枚 100シリ
小銀貨一枚 1,000シリ 中銀貨一枚 5,000シリ 大銀貨一枚 10,000シリ
金貨一枚 10,000,000シリ
白金貨一枚100,000,000シリの8種類だ。
単位が大きくなるほど大雑把なのは、平民の生活に関係無いからだろう。
帰宅して手を洗ってからテーブルに着く。
家族が揃い食事が始まったので、早速さっき聞いたばかりのステータスの話題を振ってみた。
「父様、ステータスを調べてみたいのです」
「急にどうしたんだい?」
「前に父様が興味のあることを聞いたでしょ?ボク魔法に興味があるんだ。だから素質があるか調べてみたいんだ」
「ふむ…魔法は、職業じゃないが何が出来るか知った方が、選択肢が増えるかもしれないね!いいだろう。明日いっしょに教会に行ってみよう」
「ありがとう父様」
「ノアが将来の事を真剣に考えてくれて嬉しいよ。ありがとうノア」そう言って父様は、静かに微笑んだ。
一緒に教会へ行ったら全て知られてしまうかもしれないと不安に思ったが、なるようにしかならないと腹を決める。
遅かれ早かれそのつもりでいたんだから、いい機会だと思う事にした。
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