46 勝鬨
朝、目覚めて真っ先に、シャーに連絡をとる。
何の問題もなく、朝を迎えたと聞いて、とても安心した。
詳しい話は、皆が居る時に聞くとしよう。
急いで朝食を済ませ、溜まり場に向かう事にした。
外に出ると、雨は上がり薄い雲がたなびいていた。
前を見るとラグが歩いている。ボクは急いで後を追った。
「ラグー、おはよう。」「おはよう。昨日の事聞いたか?」
「昨夜ボクは、魔力の供給をしたので、眠っていたから知らないよ。
でも、今朝シャーが、問題無かったって言ってたけど、違うの?」
「問題は無かったな。アッシュが敵の巣を見つけただけだ。」
「本当!アッシュ凄いや。」「だろ!流石アッシュだな。」
ラグも岩場が気になって、ムーンと連絡を取っていたんだ。
なんだかんだ言って、ボク達って
他の人と比べたら、結構綿密な連絡を取れる環境なんだな。
建物に入ると、部屋の前でスミスがドアを見て、満足気に立っていた。
何をしているのかと思い、近くまで行って見る。
するとドアに、三日月と崖の上に佇む一匹の狼の絵を焼き付けた、
大きさ40㎝×30㎝の板が張り付けてあった。
「どうかな、これ。」「良いんじゃない。」「かっこいいよ!」
「本当!どれも同じ様なドアだったから、一目でわかるようにね。
あと、泥棒除けの魔法も付与してあるんだ。」
いつからそこにいたのか、背後からトリルが声をかける。
「それは、気が利いてるな。」
部屋に入る前に、
ボク達の事を認識する魔法を施すので、少し待つようにスミスに言われた。
因みに、泥棒が入ろうとすると足元の床が、底なし沼になって沈むそうだ。
「殺しちゃ不味いので、首までだよ。1階で良かったよ~。」
嬉々と語るスミスを見て、4人の中で、
一番おっとりしているのに、怒らせたら怖いタイプだと、確信した。
知り合いが来た時も、ノックをして、中からドアを開けないと駄目らしい。
何故、そんな仕様ににしたのか聞いたら、
ノアのディメーションのためだよと、言われた。
確かに、勝手にドアを開けられて困るのは、ボクだけだ。
「ありがとう、スミス。」「協力出来て、嬉しいよ。」
スミスの準備が終わり、部屋に入ろうとして、トリルの手が止まった。
「スミス、失敗してないよな?入ろうとしたら沈むなんて御免だぞ。」
「信用無いな、安心してトリル。何なら僕が先に入るよ。」
「ジョークだよ!ジョーク。」
賑わいながら部屋に入り、ボクは庭にいる、ワン達の様子を見に行く。
「プッ!アハハハハ。」「どうした?ノア」
「ぶぶぶぶ。」「えええ!あはははは。」「うははは!腹いて~」
昨夜の雨でびしょ濡れのツオーネが蔓に絡まれ動けなくなっていた。
ドライが言っていたのは、この事だったんだ。
「取り敢えず、勝手に忍び込もうとした事は、明白だな。」
「そうだな。泥棒だ。」
ラグとトリルが、楽しそうに話す。
ツオーネは言い訳を思い付かないのか、話す気力も無いのか、黙っている。
このまま見過ごす訳にいかないので、
門番を呼びに行くか、ギルドへ報告に行くか相談した結果。
門番は騎士団と通じているから、さすがに可哀想なので、ギルドにした。
ラグがギルドの人を、呼びに行っている間、
何故こんな事をしたか、ツオーネに聞いたが、口を開かなかった。
ボク達は諦めて、そのまま放って置く事にする。いい薬だよね。
ラグと一緒に来たのは、バスターだった。
バスターはツオーネの場所を聞いて、庭を見に行った。
そして、庭の状況を見て目を泳がせる。
暫く止まったままだったが、溜息をつき笑いを堪えていた。
「やれやれ、これは一仕事だな、蔓を剥がさなきゃ連れ出せない。
何をどうしたら、こんな状態になるのかね。」
バスターがナイフで、蔓を切り裂こうとしたが、ドライが止めてと叫んだ。
「バスターさん、少し待って下さい。」
ボクを見て、何故と聞かれたが、待てば分かると言ってごまかした。
その時、ドライ達が燥ぎながら空を舞う。
バスターの目には、小鳥達がさえずり、ツオーネの周りを飛び交うと、
蔓が勝手に緩んで、ツオーネを解放したように見えただろう。
「全く、お前等が問題を起こした訳じゃ無いが、
お前等の周りには、騒動が絶えないな。」
笑顔で溜息を吐き、そんな言葉を残して、ツオーネを連行していく。
いや、こっちは被害者だし、溜息をつきたいのは、こっちの方だから。
って言い返したいところだが。
ボク達は、顔を見合わせて大爆笑中なので、反論は出来なかった。
ツオーネの情けない姿は、暫く笑いの種になるだろうな。ツオーネに感謝。
「ノア、楽しそうですね。」
庭の方から声がして、そっちを見ると、シャー達とロック達の姿があった。
今あった事件を一通り話してから、シャーに昨夜のあらましを聞く。
「アームモンチの巣に、案内してから帰ったので、少し遅くなりました。」
「えっ、じゃ~直ぐ討伐なの?」
「いえ、一度ギルドに帰り、人を集めてから向かうそうです。」
激昂と行動を共にするロックウルフは、討伐に加われるが、
他のウルフが参戦できない。一緒に戦いたいからボクの所に来たのに。
何とかならないかな。ラグ達にも相談したが、いい案が思い浮かばない。
「俺達は無理でも、ロッキー達だけでも手伝っていいか、聞いて来るよ。」
そう言い残し、ラグがギルドへ向かった。
暫くすると、チムニー、ドアロス、ハーネルと共にラグが戻って来た。
ラグが話を持って行った時、ボクの話が出たところだったそうだ。
「ノア、盗賊を吹き飛ばしたアレ何ってたかな?」
「トルネード雷神のこと?その場のノリで言っただけだから。」
「名前なんかどうでもいいんだ。その魔法は、使えるのか?」
「はい。多分…。」
何故、今更そんな事聞かれるのか、何と無く分かるけど分かりたくない。
どうやら、アッシュに連れられ巣を確認したら、3倍どころじゃなく
ざっと見積もっても5,000匹は下らない数だったらしい。
そうなると、どうしても広範囲魔法を使える人手が欲しくなる。
なのでボクにも、参加して欲しいと頼まれた。
手伝うのはいいが、人目に付くのは嫌だ。我ながら我儘だなと思う。
話を聞いていたラグ達は、ノアが行くなら俺達も行くと、皆で詰め寄る。
大人達は悩んでいたが、ボク達がいればウルフ達の協力も得られるので、
クレッセントは参加できる事となった。
これで、リリとララ以外は参戦できるが、あの2匹はどうしたいのかな?
シャーにそれとなく聞いてみる。
シャーは座ったまま、遠くを見るような目をして、動かない。
多分交信で、リリとララの気持ちを聞いているんだろう。
「リリとララは、参戦しないと言っています。
ミアを悲しませたくないと。」
「そうか、ミアが反対しているんだね。まぁ~当然かな。」
リリとララを、無理やり連れ出すわけに行かないので、
そっとしておく事にする。
そしてボク達は、必要な装備や食料に薬を、それぞれ鞄に詰めて準備し、
ギルドに向かった。
ギルドの中に入ると、チムニーが指示を出し、
組み分けをしている最中で、大勢の冒険者が集まっていた。
ボク達を見た冒険者の中には、何でこいつ等が?と睨み付ける奴、
そして、まぁ~頑張れと好意的に、声援を送ってくれる人がいる。
好きで来ているんじゃないと叫びたいが、我慢だ。
「激昂とクレッセントは、ウルフ部隊として、
ドアロスとハーネルの下で参加する。いいな!」
チムニーが大声で、不満気な冒険者の牽制をした。
全ての組み分けが終わり、アームモンチの巣を目指す。
岩場を通り過ぎ、火山の右裾の際を歩き川を渡る。
暫く先に行くと、広大な森が見えて来る。その森の手前に巣があった。
目的地が近くなり、それぞれの持ち場に散って行く。
「坊主ども、懐かしい顔ぶれだな。」
ドアロスがニヤリと笑った。
「俺達は、右側から攻めるように指示されている。
まずは、敵の意表をついて、一斉に広範囲魔法を打ち込む手筈だ、
合図があるのでノア見逃すなよ。」
「はい。」「よし、持ち場に行くぞ。」
持ち場について合図を待つ。緊張して心臓がバクバクするよ。
すると、<ドドーン> 合図の爆音が響いた。
魔導士が一斉に魔法を放つ。
火を纏った竜巻や、雷の竜巻、氷の竜巻ありとあらゆる竜巻が乱舞する。
アームモンチは木の葉のように、空に舞いもみくちゃになっていた。
そして、<ドドーン>終了の合図。
空に浮いた5,000のアームモンチは、ぐしゃっと地に叩きつけられた。
少し遅れて、アームモンチの流した血の雨が降る。
血塗れになり、内臓が飛び出し虫の息の奴もいれば、まだ動ける奴もいる。
手足が引きちぎれ、這いずっている奴も…。
それを待ち構えていた冒険者達が、息の根を止める。
地上に転がるアームモンチに襲い掛かり、次々とどめを刺す。
その様は、さながら善悪関係無く地獄絵のようだった。
膨大な死体を数か所に分けて、火をつけて焼却する頃。
ボクは訳も無く、泣いている事に気付いた。
悲しい訳じゃ無い、只々涙が溢れて止まらなかった。
ラグ達を見るとやはり同じ状態で、呆然と涙を流していた。
ボク達は無言で頷き、その場を後にした。
遠くで聞こえる、冒険者たちの歓声が虚しく聞こえる。
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