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21 一日目 ストラダム村 3


扉の中は、3人並んで通れる幅で下向きに緩く傾斜が付いた通路があり通路には、轍の跡も付いていた。


「それにしても臭いな、奥に行くほど酷くなる一方だ」


ドアロスが呻き、ハーネルも臭いに顔を顰めながら前を睨む。


「徐々に空気が冷えるし、荷を運搬した様子も伺える…氷室かな?」


ある程度進むと広い空間に出たが、そこで二人は驚愕する事となる。

累々と死体が積み上がり、そこは地獄絵図のような有様だった。


「こりゃひでぇ…」


ドアロスは、ごくりと生唾をのむ。


「これ、全部死体か‥‥?」


うわ言の様に呟いたハーネルは、慌てて生存者の確認をしだした。


「おい!誰か、生きているか~?」「お~い、無事なら声を上げてくれ!」


ドアロスも死臭を気にしている場合じゃないと、絶望的な気持ちを鼓舞し声を張り上げ生存者を探しだす。

打ち捨てられた死体を一つ一つ確認しながら、徒労に終わるのかと諦めかけた頃、微かな呻き声が耳に届いた。


「ハーネルこっちに来てくれ、声がするぞ」


慌てて駆け寄ると、幼い少女が酷い傷を負い亡骸の下敷きになっていた。


「おかあさん・・・・おかあさん・・」


仰向けに倒れた少女から小さな呻き声が漏れ、上半身に覆い被さる女性に弱々しく手を伸ばす。


「君は、助かったんだね。今出してあげるからもう少し我慢して」


「嫌だ・・おかあさん」


優しく語りかけながら小さな手を剥がし、ドアロスが抱きかかえると少女は、身じろぎをして母親に手を伸ばす仕草をした。

ハーネルが屈み込み母と呼ばれた女性の生死を確認するが、致命傷を負った母親は、既に息絶えていた。


「子を庇ったのか‥‥」


ハーネルが呟き、目を瞑り落胆した。









「みんな、聞いてほしい事があるんだ」セルジュが突然、真剣な面持ちで話を切り出した。


「ん?どうした」リーダーのサザンが問い返す。


「本当は、旅が終わってからと思っていたけど、思いがけず時間が出来たので、これからの事を話しておきたい」


「何だよ改まって」スターリーが身構える。


「この一年僕は、中途半端な状態だった。だからランクも上がらなかったし、みんなにたくさん迷惑を掛けていたと思う、本当にごめんね」


「そんな事気にするなよ!わかってて一緒に組んだんだから」オルムがおどけて今更何を言うのかと…口をとがらせた。


「ありがとう。今までは、成人する15歳まで冒険者と商人を続けるって言ったけど…」


「まさか、辞めるって言うんじゃないだろうな!」スターリーが睨んだ。


「違うよ!いや違わないか…少し前まで悩んでいた。だけど今は違う!暫く冒険者に集中するって、父さんに宣言したんだ」


「え?どういう事だよ」拍子抜けしたスターリーが、聞き返した。


「僕ね、ノアが冒険者になって一緒に狩りに行きたくなったんだ」


「あ~いいな、それ!」「いいじゃん!」「ノア、面白いもんな」


「うん。だからノアが成人するまで冒険者でいたいって、宣言したんだ」


スッキリした笑顔のセルジュを、みんな好意的に受け止めた。


「じゃ~あと5年、冒険者でいられるんだな!」


「やったな、嬉しいよ!」


「あと2年で、このパーティーも終わりかと思って寂しかったんだ」


「ありがとうみんな。いつも僕の都合ばかりでごめんね」


「お前の家、商家だしな」「跡取りだもん」「大丈夫わかってるって」


穏やかな空気が流れ、良い友達に巡り合えたと感謝していた。


「俺セルジュのランク上げ手伝うよ」「ぼくも!」


これからの活動に向けて楽しく語らっていると、扉の向こうから光と足音が近づいて来た。


「戻って来た!」「何かありましたか?」


セルジュ達は、笑顔で走り寄ろうとしたが…傷付いた少女を抱きかかえたドアロスと、暗い顔をしたハーネルを見てその場で凍り付いた。


「!!!!」


二人の疲れ切った様子を見て、息を飲み込む。


抱きかかえられた少女は、気を失っていた。

傷口の止血はしてあったが、多くの血を流した後なのか顔が青白い。

セルジュ達は、少女の為に鞄から毛布と薬を取り出し、急いで休む場所を用意した。

少女の手当てをしながら、父達の顔をチラチラ盗み見し探っていると、水を一口含んで重い溜息を吐き出したハーネルが、気持ちの区切りをつけ中の様子を語った。


「中は、地獄だ!無残だった…死体が山積みだった」


「後で弔ってやらないとな」


ドアロスも重々しく口を開く、そこへノア達が息を切らし駆け込んで来た。


「大変だ!村が…」


ボクは、息が切れて言葉が続かない。

トリルが色々端折って一気にぶちまける。


「この村、盗賊の住処だったんだ!」


静寂から、驚きが押し寄せるまで数秒間だった。

お互いの情報を共有する為、ボク達が拠点に戻ってからの状況を説明した後、ドアロスから扉の中の惨状を聞いた。

暗澹とした気持ちになり、俯き唇を噛みしめる。

そして誰となく呟いた。


「皆殺しか…」「酷い事しやがる」


だが、すぐさま気持ちを切り替えたドアロスが、ノアに訊ねた。


「シャーが傍に居るんだな、今どういう状況か聞けるか?」


「はい、聞いてみます」


((シャー、聞こえる?))


((はい、主))


((今どうなっている?))


((盗賊の首領が来ています))


((え…何で?))


((別の場所に、移動させるようです))


((別って…))


((ひむろ…?へ…と言っていますが、ひむろが我には理解できません))


((分かった、直ぐに動きそう?))


((はい))


((シャー、見つからないように後を付けてね!))


((了解))


((ありがとう、宜しくね))


「おじさん、父さん達を氷室に移動するって、ここの事?」


「多分そうだ。中は、寒かったからな」ハーネルが答える。


「敵は、何人いるか分かるか?」


「聞いてみます」


((シャー、盗賊何人いるの?))


((全体数は、計りかねます。ただ…今は、4人です))


((ありがとう))


「今ここに向かっているのは、4人です」


「ほぉ~それならどうにかなるな」


ニヤリとドアロス笑い、顎髭を弄りながらハーネルが作戦を練り出す。

やる気満々だ。


「俺とドアロスで一人ずつ、傭兵組で一人、ひよっこ冒険者達もウルフの手を借りれば一人いけるだろ。余裕だな」


「そうと決まったら身を隠すんだ。あの娘は、小山の裏側に寝かせて置け」


二人の指示に従い、ボク達も動く。


「俺達は、正面で堂々と待つとするか」


ハーネルが怒気を含んだ声で断言し、呼応するようにドアロスも凄む。


「話を聞きたいしな!」


指示に従い身を潜めたボクは、シャーに行先を教え合図があったら5匹で大きいサイズに戻り、飛び掛かるようにと、指示を伝える事も忘れない。


少しすると、乱れた足音と嘲る声が近づいて来た。


「ひっひっひ…お前らも運が悪い」


「おうよ!小僧どもが林に足を踏み入れなきゃ見逃してやったのに」


「心配するな!残りの仲間にも直ぐ会える」


「死んでるけどなー!ウハハハハ」


「ぐへへ」「ヒヒヒヒ」「ヒャッハー」


下品な笑い声がこだまする。


「ほお~誰が死ぬって?」「お前たちの間違いじゃねえのか?」


扉の前でドアロスとハーネルが立ちはだかった。


「何だぁ?お前ら。探す手間が省けたじゃないかギャハハ」


「観念して出て来たか」


「小僧共の姿が見えないな、怯えて隠れてるのか?」


「子犬は、毛並みが良かったから俺らが売っぱらってやるよ。どこだ?」


勝手な事をほざきやがって、怒りで飛び出しそうになるがぐっと堪えた。


手下どもは、父さん達を近くの木に括り付け、二人一組でドアロスとハーネルを襲う作戦のようだ。

手下の四人がじりじりと父達二人に近付く、馬鹿め背後ががら空きだ。


((シャー達、今だ!背後から飛び掛かれ))


「ウオォ~~~~ン!」


嬉々として影から次々と飛び出した巨大な5匹が、手下どもに背後から飛び掛かり、仰天し叫ぶ間もなく組み敷かれた。


「ボク達の出番無いよ!」


一瞬で終わってしまい、呆然としたボク達の驚くほど声を揃えたブーイングが辺りに響く。

それでも、仲間や家族が無事だったのは、嬉しい。

そして、すぐさま駆け出し盗賊を縄できつく縛り上げた後、父達を助け出した。


「助かったよ、ありがとう」「手が痺れた~」


互いの無事を称え合うも、これで終わりじゃない。


「トーマスさん。盗賊は、全部で何人いるかわかりますか?」


「私も全員見たわけじゃないんですが、多分30人前後だと…」


「それくらいなら、ウルフ達と傭兵と俺等で何とかなるか?」


「私は、争い事がからっきし駄目で、すみません」


トーマスが申し訳なさそうに頭を掻き、額に手をやりミスドも同意した。


「私も同じですよ」


「トーマスさんやミスドさんは、商人でしょ?それでいいんですよ」


「そうですよ。その為に俺ら冒険者がいるんですから」


トーマスとミスドの名誉のため、ドアロスとハーネルが宥めた後、言い辛い様子で頼み事をした。


「ウルフ達の指示を出すために、ノア君の力を貸して欲しい」


「もちろん危険が無いように、注意を払いますが‥‥」


「ノア、どうする?」


トーマスが、厳しい顔をして振り返り聞いた。


「ボク手伝いたいです」


「ノアが行くなら、俺達もいくぜ!」「な!」「そうだね!」


「一人でいるより安全か」


そのハーネルの一言で、4人で固まり尚且つシャーをお供に付けた上で、シルバー アッシュ レッド ブルー4匹の指示を出す為、参加する事となった。


4人の手下どもは、摑まったとたんそれまでの横柄な態度を改め、アジトの情報や仲間の事をペラペラと媚びへつらい喋りだし…どうしようもない屑だなと感心したり軽蔑したり


盗賊の人数は、総勢48名。

村の中央にある酒場を首領が陣取り寝泊まりしていて、酒場の周りの家に散らばり手下が寝泊まりしているそうだ。


「こいつらに、逃げ出されたら厄介だな」


「氷室に放り込んどけばいいさ」


「オレ、土魔法得意です!扉を固い土で覆って塞げばいいですよ」


ドアロスとハーネルの会話に、サザンが遠慮がちに口を挟む。

サザンの提案を採用して、嫌がる手下を氷室に放り込み扉の上から塞いで、ついでに扉を監視する詰め所を離れた場所に土魔法で作った。

そこを眠ったままの少女と父達の避難所にした。


「父さん行って来ます」


ミスドにスミスが照れくさそうに挨拶し、ミスドがスミスの肩に手を置き励ます。


「気を付けるんだよ?しっかりね」


セルジュは、笑顔でボクは、少し緊張しながら小さく手を振り


「父さん母さん、いってくるね!」


「無事に帰るんだよ」


父は、両手でボクとセルジュの頭を撫でた。

母さんとミアは、泣きそうな顔だが無理して笑っている。

その横で、デクシラも祈るような顔をしていた。


ボク達は、首領と盗賊を討伐する為、村の中心部に向かった。



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