20 一日目 ストラダム村 2
「気持ちいいね、木漏れ日がキラキラしているよ!」
スミスが、両手を伸ばし木漏れ日を受け止め目を細める。
「手入れの行き届いた林だな、頻繁に人の出入りもあるようだし」
「そうだね、不要なツルや横木も無いし下刈までしてある」
セルジュとリーが、辺りを見回して感心していた。
「ちょっと見ただけでそんな事も分かるの?」
「そりゃ~この一年、あっちこっちの森林を渡り歩いたからな」
ボクの質問に得意げに答えるリー、セルジュは苦笑している。
「折角だから食べられそうな木の実とか探しながら歩こう」
「まだ先は長いし、食料を少しでも確保しといた方が良いね」
サザンとオルムの提案に、皆が賛成し木立の間をそぞろ歩いた。
「なぁ?あそこだけ変だよな…」
ラグが指さす方向に目をやると、取って付けた様な不自然さに皆が気付いた。
そこは、小高い山の様にこんもり盛り上がっていて、苔むしたその斜面を覆い隠すように、木の枝が雑に覆い被さっている。
ボクがふいに近付こうとしたら「ノア、不審な場所に無暗に近づいたら駄目だよ。そこで待っていて、まず僕らが見て来るから」
セルジュが鋭く注意を促した後、傭兵組4人が武器を携え、横並びで慎重に距離を詰めた。
何かが潜んでいるかもしれないと、オルムが槍の先で突っついてみて暫く待つが、反応が無いのでセルジュとリーが邪魔な枝を剣で伐採すると、そこには扉があった。
注意深くその扉を開けたら、中から饐えた臭いが漂って来た。
「うっ!臭い」
セルジュ達は、鼻を摘まみながらその場から慌てて遠ざかる。
鼻が利くシャー達は、扉があく前から近くに寄らず離れて眺めていた。
「何だこの臭い、獣でもいるのか?」
「ゴブリンかも?」
「野営の場所からそう遠くも無いな…」
「こんな訳の分からない場所があるなんて、安心できないよ」
皆で中を確認するか迷っていると、シャーが言葉を発した。
「主、中から人間の気配がします」
「こんな臭いのにか?」「生きてるの?」
皆が疑問や驚きを口にしながら、遠巻きに扉の中を窺った。
「これは、大人を呼ぶ案件かもな」
サザンが顔を顰め提案すると、好奇心が勝ったリーが悪い顔になり「何があるのか、確認してみないか?」と言ったが
「でも、もし人が死んでたら嫌だな…」ポツンと呟いたセルジュの言葉に皆がハッとした。
相談した結果大人を呼ぶことになり、セルジュ達傭兵組が扉を見張っている間に、ボク達4人で大人を呼びに戻った。
「父さん!」「親父!」「父ちゃん!」「父さん!」
ボク達が、息を切らしながら拠点に雪崩込み、焦りが滲んだ声で喚いたので、異変を察した父達が駆け付けた。
「何があった、どうしたんだ?」
「何やらかした?落ち着け」
「隠してあった」「変な扉があって」「不気味なんだ」「臭いんだ!」
それぞれ意気込んで、堰を切ったように状況を伝えたけど
「坊主達、それじゃ分からんだろ!落ち着いて話せ」
ラグの父の叱責を受け、深呼吸を繰り返し息を整えてから、もう一度説明し直す。
「隠してあった扉を開けたら、中からもの凄い臭いがしたんだ」
「シャーが、中から人の気配がするって言うんだ」
「死体があるかもって、ノアの兄さんが言ったから」
「親父が危ない事するなって注意しただろ?だから呼びに来たんだ」
それぞれ 混乱しながらも何とか要点を話すと、説明を聞いていた父達は、徐々に険しい顔になり黙り込んだ。
女子供だけ残して拠点を空にする訳もいかないし、扉の方も何があるのか分からないので、現役Aランク冒険者の二人が確認に行く事になった。
二人を連れて、セルジュ達の待つ扉の場所まで移動し問題の場所を指差すと父達は、注意深く開いた扉に近づき中を覗き込んだ。
ラグロスの父ドアロスが顔を顰め「臭うな…」と呟くと
「あぁ、厄介事の臭いだな…」トリルの父ハーネルがそう答え、たすき掛の鞄から布を二枚出し、一枚をドアロスに渡して鼻と口を覆った。
「これから二人で中を確認してくるのでお前達は、戻れ」
「入口の見張りとかどうするんです?」パーティーリーダーのサザンが聞くと
「確かに無防備か…それじゃ~傭兵組が残って坊主どもは、拠点に帰れ」
ドアロスの指示にボク達が不満を漏らしたが
「残っている皆が心配しないように、この状況を説明してくれ。中の状態次第で遅くなるかもしれない」
そうハーネルに説得されて、不承不承引き下がったボク達は、戻る事にした。
不貞腐れながらノロノロ重い足取りで拠点に帰り着くと、様子がおかしい…
食事の支度をしている母達や野営の準備をしている父達の姿が無いばかりか、什器や荷物がそこかしこに散乱していた。
「何これ?」
真っ先にスミスが仰天し声を上げ、ボクも大声で呼びかける。
「父さ~ん、母さ~ん、ミ~ア~」
ラグとトリルが、テントや箱馬車の中を探るも誰もいない。
「シャー達、何か匂いとか分からない?」
ボクが漠然とした質問をすると、5匹が散って隈なく辺りを探った。
「主、襲撃があったようです。嗅ぎなれない人の臭いが多数あります」
「襲撃って、盗賊でも来たのか?」
ラグが目を見開き驚愕するが、トリルが慌てて辺りを見回し囁いた。
「馬鹿、お前声が大きいよ。取り敢えず目立たない所に移動しよう」
皆で柵木の塀の裏に移動したが、心配で居ても立っても居られない。
「どうする、扉の所に戻る?」スミスが不安げに皆を見る。
一点を睨んだトリルが「何があったか分からないまま戻ってもな…」と集落から目を逸らさない。
同じ方角を睨んでいたラグも違和感を感じたのか
「盗賊が来たなら村も襲われているんじゃないのか?一度村の様子を探りに行くか」と呟くも
「まだ盗賊がいるかもしれないよ?」とスミスが引き留めた。
スミスの危惧が正しくて、もし残党がいたらノコノコ出て行くのは自殺行為だ。
ラグは、押し黙ったまま考えているボクに視線を向け聞いてきた。
「何かいい案無いか?ノア」
「……‥‥‥‥そうだ!」
「ボク達じゃ目立つから、シャー達に頼もう」
皆に説明する間も惜しみ、先にシャー達の目線に屈んでお願いをする。
「子犬じゃ危ないから中型犬くらいの大きさで、村の様子を探ってくれ」
「了解しました」
シャー達を見送り振り返ると3人の視線とぶつかったが、改めて説明しなくてもボクの意図は、皆に伝わていたようで無言で頷き合う。
刻々と時が進み焦れながら待っていると、ボクの影からシャーが躍り出た。
「うわ!シャー探りに行ったよね?どうして…」
「遠くの影から主の影へ移動したのです。早くお知らせした方が良いと思い、このような手段を用いました」
「そうなんだ~凄く便利!」
ボクは、気が急いていたので呑気なスミスの言葉に対して、つい冷たい対応をしてしまう。
「それは、あとにして。それよりどうだったの?村の様子」
「村が盗賊に襲われた様な形跡はありません。至って平穏でした」
散開して見回る他のウルフ達の意識も伝わってきた。
「他の子も同じ意見のようだね…シャー父さん達の匂いを辿れる?」
「多くの匂いが入り乱れておりますので、少々お待ちを…大丈夫です」
「ボク達ここで待っているから辿ってみて、父さんがいたら知らせて」
「お任せください」
他の4匹にボクの影に戻るよう意識で指示を出し、シャーを待つ。
そして、暫く待つとシャーから意識下の通信が入る。
((主、ご家族を発見しました))
「みんな無事なの!」
意識下の伝達なのに、ボクがいきなり声を出して返事をしたので皆が驚く
「おう!ビックリした」「シャーから?」「ぼくの父さんも?」
「うん、驚かしてごめん。チョット待って詳しい情報を聞くから」
皆に断りを入れ、再度意識に集中する。
((皆さん無事のようですが、捕縛されているようです))
「みんな無事だって、でも摑まっているって」
何か聞きたそうな皆を手で制して、シャーに意識を集中させる。
((捕まっているって、何処に?))
((拠点を中心に、右斜め上の方角にある納屋です))
((見張りはいるの?皆一緒なの?))
((皆さんお揃いです。見張りは、二人います))
((シャー中に潜り込めそう?))
((我は、影に潜るのが得意ですよ!フフフ))
((そうだったね、父さん達の傍に行って事情を聞いて!お願い))
((承知))
通信を終えて、皆無事な事と情報を探るため潜り込む事を説明すると皆安堵の表情になり、そして再度シャーからの連絡を待つ。
((主、トーマス様と話が出来ました))
((父さんと!何て言ってた?))
((今この村は、盗賊に占拠されているそうです))
((え?どう言う事))
((村人とすり替わり、成り済ましているようです))
((じゃ~父さん達を早く助けなきゃ!))
((トーマス様は、先ず他の人達と合流し策を練るようにと仰ってます))
((分かった。シャーは、そのまま父さん達の傍で潜んでいて))
((了解))
通信を終えると辺りは、すでに薄暗くなっていた。
ボクは、パニックになりそうな気持ちを抑え、三人の顔を見る。
「皆、驚くと思うけど冷静に聞いて、見つかったら不味いから」
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