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アジョンへ帰り着いたが、時既に遅し。
門は、硬く閉ざされていた。
夏時間は、明日から…
後一日予定をずらせば閉門時に滑り込めたかもしれないけど、そうすると明日のニールの登録に間に合わないという板挟み。
幌でのんびりし過ぎたかな?でも、まぁぎりぎり間に合ったから良しとしよう。
翌朝、幌を片付けウルフに跨り開門と同時に門を潜った。
荷車のついでに幌のキューブ(正六面体)も作っておいて良かったよ。
わざわざ門の前で野営した訳は、あの時間から家に帰ってベットで寝たら、絶対早起き出来る自信が無い(みんなの意見)
迎えた門番の顔を見て昨夜の夜勤は、ジンダンじゃ無かったんだなと何の気なしに思う。
「おはようございます。宜しくお願いします」
元気よく挨拶して検査を待つ。
他の門番も当然顔見知りなので「よぅ!お帰り」と出迎えられ「不審な物の持ち込みは、ないな?」と問われ「大丈夫です」と笑顔で返事を返す。
依頼書を確認してアイテムバックの中身まで見ないが一応提出し、光る警棒のようなものを翳す。
悪意のある邪気などを感知するそうだ。
この時、ディメーションは、稀なので警戒されていない。
ボクもチーム以外に話す気が無いので、少し後ろめたいが勘弁してほしいし、危険物を持ち込むなんて絶対しないから!(多分)
村で報告した時に纏めてあったので、ラグが代表でギルドに向かい残りは、噴水前のベンチで待機。
朝一で、サッサと依頼の報告を終わらせないと、初心者登録が始まり混み合うからな。
あっ、野生動物の保護を勝手にしてしまったので、その点どうなんだろうと悩んだ結果一応届け出る事にした。
妖精の雫の事?何の事?(ゲフンゲフン)
噴水前で待つボク達は、今回もうだつの上がらない暇な先輩冒険者が陣取って、威嚇するのかなぁなんて思い出話に花を咲かせている。
「あいつらマジウザかったな!」
「本当だよ」
「ハラヘッタ」
「ラグが戻ったら、まず飯だな」
少し待つとギルマス チムニーとラグが、肩を並べ歩いて来る。
何か不手際でもあったのかな?
ボクとトリル スミスは、訝し気な表情で出迎えた。
「お疲れさん。頑張ったな」
冒険者登録(仮)の準備で忙しかったのか、チムニーの目の下に薄っすらと隈が出来ていた。
「おはようございます」
「目に熊飼ってますよ。お疲れです」
「何かあったんですか?」
挨拶と労いの声を掛け疑問を投げかけると、ラグがげんなりした顔で手紙をヒラヒラさせた。
「また来てたんだよ。チッキン商会」
「うげっ懲りないな」
「何なの?どうせ上から目線でしょ」
「どこでボク達の事知ったのかな?」
そんなボヤキを耳にしたチムニーが
「ハァー今更だな、クレッセントの噂は、そこそこ広まっているからな」
「え?」
「どういう事?」
「未成年でCランク、その上多頭のウルフを使役していてシャドーウルフ迄いる。仮登録の時に悪名高い盗賊団を捕まえたメンバーで、更に広範囲に渡る人攫いの一味を潰したチーム。これだけの実績があるんだ。目立たない訳無いだろ」
「えぇー」
「そんな事言われても」
「狙った訳じゃ無いし」
「たまたま?」
「偶然だろうが何だろうが、それだけの事をしでかしてんだ!」
「しでかしてるって、言い方!」
「酷いよ」
「そうだぞ」
「俺達悪くないぞ」
ぶーぶークレームを入れると、気まずそうに「悪かったと」謝った。
指名依頼を受けるも断るもボク達次第だが、本来余程の事が無い限り受けるのが前提だ。
だが、チッキン商会に限っては、依頼内容が討伐や護衛でなくただ呼び付けるだけ、しかもランク昇格に対する謂われ無き恫喝も書かれていたため、ギルドでも問題視されていた。
「まぁなんだ、何かしら思惑がありそうだし碌な事じゃ無いだろうから、受けなくていいぞ」
「えっギルマス自らそんな事言っちゃっていいの?」
「あぁ、態度悪いわしつこいわで、ギルドもいい加減対応することにした。領主の了解も取れたしな」
「りょ領主様?」
普段接点のない偉い人の介入に少しビビりました。
後日談、そんな僕達の驚いて呆けた顔を見たチムニーは、普段可愛気が足りないこいつ等のこんな顔が見れてウヒヒと思っていたそうだ(大人気ないな)
アジョンの領主は、マーク・スロン侯爵
コトネル畜産ガリラヤ穀倉地帯(ガリラ山含む)と、広大な領地を収める領主様だ。
南の砂漠と東の港は、それぞれ別の領主が管理している。
チムニーの話によると、シャー達を使役した頃から注目されていたようだ。
直ぐに会いたいと先ぶれを出そうとしたが、仮登録のひよっこ冒険者で未成年という事で、ギルドが盾になり抑えた。
それでも少々ごねたが、レクシ・スロン侯爵夫人の「貴方、そのような稚児を呼び付け緊張を強いるのは、どうかと思われますわよ」の一言で収まったそうだ。
「しぶしぶだったけどな。それでお前達が成人した暁には、一回あってやって欲しいんだ。うちの領主夫妻は、公平で腰の低い領民思いの良識人だしな」
「えっ?じっと待て状態なんですか」
「うむ。クレッセントにも会いたいそうだが、シャー達ウルフにも強く興味を示しててな」
「それってシャー達に会いたいだけじゃ?」
「まぁ、そうかもな。まだ先の話だが、そのつもりで覚悟だけしておいてくれ」
そう言ってチムニーは、ギルドへ戻った。
ギルドの前には、気の早いひよっこ達がチラホラ集まり出したところだ。
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