108 ホウレンソウ
ガリラ山の調査を終え村へ戻り一息つく
そのまま停車場へ向かうと、スミスとトリルがいた。
何故か荷車を出したままで、ソワソワした様子が窺える。
訝しみながらも片手を上げ「お疲れ!」声を掛けると「うっうん、お疲れー」「おっおう、お疲れ」返事が返ってきたが挙動不審気味。
「?」と思ったけど、問題があればこの後の報告で話すだろうと考え敢えて突っ込まず流す事にした。
何故ならこの時のぼくは、精神的にゲッソリした気分で疲れていたのだ。
兄さんから岩土フログの話を聞いていたので、欲を出したボクは、地中深くまで注意深く探知したし、見つけたら見つけたで冬眠から起こしてあげなければいけないと思い(岩土フログにしたら大きなお世話なんだろうけどさ)
寝坊助フログの周囲の土をいい感じの温度に調節し覚醒を促し、更に来春の為の産卵を待ちわびモゾモゾ這い出たところを仕留めるという。
気の長ーーい作業に没頭していたからだ。
まぁ、頑張った甲斐あって寝坊助フログを30匹ほどゲットしたので、思わぬ臨時収入になったとほくそ笑む。
報告会でその事を告げると「おぉぉ」と、どよめき皆の顔が綻んだ(頑張った甲斐があった報われたな)
湖の半分南側を巡ったラグの報告は、苦渋に満ちた内容だった。
村から3時間ほど離れた場所で、魔獣に襲われた遺体を発見したと…
「冒険者だったらしく、プレートと少し風化した荷が散らばっていたのでそれを回収した。遺体のほうは、肉が干からびて所々白骨化していたから一か所に集めて燃した」
人知れず亡くなったその人も一人で弔ったラグも辛かっただろうな…
帰る時 その場所に立ち寄り浄化をする事になった。
スミスとトリルは、宣言どおりホールラットと巣を滅して、その後二匹のゴブリンを見掛けたので暫く尾行したけど、幸い他の仲間と合流する様子が無かったので、そのまま屠って来たと得意そうに話した。
各々の報告が出尽くしたところで、ラグが箇条書きした木片を持って村長の家へ向かう。
その間ボク達は、帰り支度を始めた。
荷車を出しっぱなしの二人に「トリル スミス、荷車片付けないの?」そうボクが聞いても一向に仕舞う気配が無い。
不思議に思い「まさか もう壊した?」と呆れ顔で二人に詰め寄る。
するとトリルが「違うんだ、ちょっとこれ見て欲しんだが」と言って、両手にすっぽり納まる大きさの毛玉を差し出した。
「えっとぉ」ボクが何って顔で見ると「小動物って貴重でしょ?」なんてごにょごにょ口篭もるスミス
「だからさぁ、俺達で保護しないか?」とトリルが、ボクの顔色を窺いながら遠慮がちに聞いてきた。
「それって まさかディメーションでって事?」
「だって、このままじゃいずれ食べられちゃうよ、こんなに可愛いのに」
「少し観察したんだが、餌も草食みたいだし生命樹の周りにいっぱい生えてるだろ」
「それに すっごく広くなったから充分遊べると思うんだ」
二人が 特にスミスが切々と訴え掛けて来る。
「んーボクは、構わないけど…ディメーションを主に管理してるのドライだからな。彼女の意見を聞いてみないと、少し待って聞いてみる」
((ドライ ちょっと今良い?))
((ん 大丈夫よ。こっちも落ち着いたから))
((トリルとスミスが角無しラビ拾ってきてさ保護したいって言うんだ))
((あら良いタイミングね。問題無いわ連れて来て))
((さっきからチョイチョイ引っかかる気がするのは、気のせいかな?落ち着いたとか良いタイミングとか、何の事だ?))
するとドライは、楽しそうにクスクス笑い((まぁ 来てみたらわかるから))と呼ばれたので、二人にラビを連れて行く旨を伝え幌に乗り込む。
「ちょっと待った!」
「ちょっと待って、ノアも運んで」二人の声に振り返ると、二台の荷車から9羽のラビを取り出した。
「チョッ!多すぎるだろ」
「えっだって世界中で最後の9羽かもしれないんだよ?」だとさ(脱力)
定番の白と薄茶と白のブチに流石異世界!桃色や水色までいるよ…確かに可愛いけどさ。
三人で手分けして運び 幌からディメーションへ入ったそこで、再度固まる。
「何だ?こりゃ」至る所にふわふわっと淡い光が漂っていた。
「ドライ」
((ふふっ驚いた?作物の種類が一気に増えて少し大変だなって思ったから、妖精の雫を招待しちゃったの))
「招待しちゃったのって、どうするんだよ。こんなに沢山…ボクが契約しなきゃいけないの?」
((心配ないわ大丈夫よ。ここで妖精に進化すればここの住人になるから、自然とノアの管理下に置かれると思うの))
「いや 思うのって」
((それに、全ての雫が進化する訳じゃ無いし…それより、その子達を住まわせるのね。皆でお世話するから任せて))
「あ、うん。ありがと」
うっかり生返事を返してしまい、釈然としないままドライと妖精の雫に角無しラビを任せた後、いまだ呆然として固まったままの二人を追い立て帰り支度を再開。
そして、撤収作業と依頼を終えたボク達は「せめてもう一晩泊まられたらいいのに」と引き留め惜しむ村の人達に見送られながら、昏くなり行く道を幌に揺られ出発した。
(きっと 宴がしたかったんだろうと思われ…)
途中浄化を掛けに立ち寄り後は、アジョン迄ウルフ任せで大丈夫だろう。
安堵と開放感で気が抜けたところで、三人に詰め寄られディメーションの異常状態の説明を求められたけれど…
「ちょっと待って ボクもさっき知ったばかりだし、暫く頭空っぽにしたい」と放心したのは、仕方ないと思う(遠い目)
頭の隅で、ホウレンソウって大事だよなって、しみじみ思いました。
細かい事を一々言いたくないけどこれは、流石に要相談案件だろ。
((ドライ 後で説教な!))
((ギクッ!))コソコソ…
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