103 ぴちぴち ちゃぷちゃぷ もっふもふ
降りしきる雨音が次第に大きくなり 荷車の幌に大粒の雨が激しく叩き付けられる。
「こりゃ酷い降りだな このまま暫く雨宿りするか、こんな事なら荷車で出掛けるように皆にも言えば良かったな」
荷車の際で胡坐をかきボーっと外を眺め 今頃ずぶ濡れなんだろうかと思い憂う。
こうなると ディメーションで持ち運ぶだけじゃ駄目だな、何か他に方法を考えないと…
ガリラ山の頂上で絶景を眺めながら昼食を済ます積もりだったが、当てが外れた。
仕方ない春雨にけぶるガリラ山でも眺めながら食しますか。
シャーとドライ以外の従魔達は、ディメーションの中で寛いでいるようだ。
食べやすい大きさに切り分けた肉をボクの肩に座るドライに渡す。
シャーは、ボクが楽に座れる体制で伏せていた。
雨のせいだろう、4月の終わりというのに少し肌寒いのでモフモフから伝わる暖がありがたい。
「そういえばさ、ドライは何か目的があって付いて来たの?」
((ん?何でそんなこと聞くの))
「いや 珍しいからさ、寒いの嫌いだろ」
((暑いのも嫌いだけどね、雨が降ってきちゃったから中途半端なままなの 明日出直さなきゃ))
「もしもーし 質問に答えてないよぅ」
((やだぁ 気付いた?ハッキリしたら教えるね))
「今度は、何を企んでいるんだ?ハァ~わかったよ」
こうなると、いつも結果が出るまで教えてくれないんだよね。
腹がふくれると燥いで山登りをしたせいだろうか、シャーのモフモフほわほわに包まれ雨音の調べも手伝い瞼が重たくなりまどろんでいた。
少しの間うたた寝していたようだ、雨脚が緩んだ頃 頭の中で声が響く
「ノーアー」「おぉーい ノォアァー」
「うわぁ」
「おっ!やっと気付いた。何やってるんだよ、さっきから呼んでたんだぞ」
「ごめん 昼食べたらウトウトしちゃったみたい」
「返事がないから探しに行くところだったよ」
「この雨の中よく寝れるな、あっそうかディメーションだな ちぇ便利だな」
「本当いいな、こっちはびしょ濡れだよ。少し雨脚が弱まったし帰っておいでよ」
「そうそう。そして風呂沸かしてくれ!頼む」
「わかった、今から帰るね」
荷車から手を差し出し確認すると霧雨に変わっていた、あんなに激しく降っていたのが嘘のようだ。
「随分ましになったな、雨宿りして正解だったね」
「ウォン!」シャーが短い返事を返した。
ディメーションに手早く押し込み、朝と同じ状態でガリラヤ村を目指す。
村の近くまでジャンプする事も考えたが、今さっきラグ達と会話したばかりだ、帰り着くのが早すぎると不自然だよな多分…
幌へ帰りつくと皆に急かされ急いで風呂の準備をした。
あの雨の中ずぶ濡れになり躰が冷え切っていたようで、我先にと突撃し すし詰め状態で湯につかる三人を見て、可笑しいやら呆れるやら 苦笑を漏らした。
「笑ってるけど ノア、本当に寒かったんだぞ」
「そうだよ。凍え死ぬかと」「いやそれは、大袈裟だろ」
「ごめんごめん 余りにも絵面が面白くてね。一層の事、皆で入れる大きさのバスタブも用意しよう」
「そうだな、順番に入ると結構時間かかるもんな」
三人が風呂から上がり後回しにした報告をしあった。
「林は、ホールラットを目撃したくらいかな あと角無しラビと初めて遭遇したよ」
「角が無いと大人しい上に可愛いんだ」
「珍しいな野生の小動物は、魔獣の餌になってほぼ全滅したと聞いているのに」
「おぅ だから健気で貴重なラビを守るため明日は、ホールラットの巣を軽く壊滅しとくわ」
「分かった。本来の依頼から外れているが、あれも畑を荒らすから退治しておいてもいいだろう。それが終わった後もチャンと別の場所の偵察もしておけよ」
「あぁ 分かってるって」
「ボクから一つ提案があるんだけど、みんな荷車で移動したらどうだろう?今日みたいに雨に降られても安心だし」
「確かに、土砂降りの間だけでも雨宿りできると違うよな」
「じゃ 暗くなってから外に出しとくよ」
「分かった、ありがとう」
ラグは、停車場を起点に湖の北側を回り折り返し幌の近くへ戻ったところで雨に降られたので、明日南側を見て回ると話した。
ボクも取り立てて報告する事が無かったので、会議終了。
今日の仕事は、雨のお陰で思いのほか早く終わったので、それぞれ好きに過ごす。
ボクは、荷車の事でアイデアが浮かんだのでステンレスのインゴットを手に座り込んでいた。
初めは、アイテムバックの空間を広げ荷車を出し入れする事を考えたが、それじゃ野暮ったいと思い直し荷車専用のアイテムボックスは、どうだろうかと考えた。
銀色の球から飛び出す荷車 いいかも、カッコイイかも?
取り敢えず試しに一つ作ってみるか。
重量を考え中を空洞にして球を作るとして イメージは、野球ボールだな。
インゴットの四分の一がグニャッとなり徐々に丸くなった。
出来上がりをポンポンと手でもて遊び重さと硬さを確かめる いい出来だ。
そうして出来上がった球に術式を掛ければ完成だ。
試しに自分の荷車を…よし、入った。
時間は掛ったが、残り三人分作りラグ達に声を掛け見せると目を輝かせ喜んだ。
「スゲー」「何かカッコイイ」「これならバックの容量の心配ないな」
「けど ディメーションがあるのにノアも必要なの?」
「これだとバックから取り出せるし、人目を気にせず使えるからね」
「あ そうか、そうだよな。天才だなノア」
「いやぁ それほどでもぉ さっき後で外へ出しとくと言ったけど、これならいつでも持ち運べるし邪魔にならない」
「あぁ ありがとうなノア」「サンキュ助かるよ」「ありがとう」
「それと ボク山まで行き来するの時間のロスだから明日は野営して明後日戻るよ」
「それなら俺も林で野営するか、荷車もある事だし」
「トリルがそうするならボクも一緒に」
「了解。幌の番は任せてくれ、そうなると 何もなくても昼と夜に定時連絡を入れる様にしてくれ 忘れるなよ」
「うん 分かった」「はーい」「了解」
翌日 雲一つない晴れ渡った青空の下 ボク達はそれぞれの持ち場へ走り去った。
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