6 1年後のドレス
作品タイトルがいまいちしっくり来ておらず、近いうちに変更するかもしれません。
一晩中泣いて、また一から頑張ろうと気合を入れ直した。
アルベルトの心には今キャス子(仮)が住んでいるかもしれない。
今は仕方ない。
でも未来は分からない、そう自分を励ました。
それから、1年。
アルベルトの心は、思いの外、どこにでも住めるようだ。
あの日からキャス子(仮)先輩と一緒にいる所は何度か見たけれど、そのどれも生徒会の先輩方と一緒で、2人でいる所は見なかった。
私に言われて周りの目を心配してるのね…と思い、胸が苦しくなった。
そして今年、キャス子(仮)先輩は卒業していった。
アルベルトはさぞ悲しがっているかと思いきや…あまり何も変わらなかった。
確かにアルベルトの笑顔以外の顔はあまり見たことがない。
無理しているのだわと心配していた、矢先。
私の視線の先には、別の女性の先輩と一緒に、中庭の四阿にいるアルベルトがいた。
え!?と思わず4度見して首を痛めたけれど、やっぱりあの輝かしい艶やかな神々しいエンジェルな長髪を一括りにして前に垂らしている姿は、アルベルトだ。
女性の先輩は美しいシルバーブロンドのストレートヘアで、あんなの顔の周りにあったら目が潰れるんじゃない?というくらい光を反射している。
そして、四阿の柱でよく見えないけれど、たぶんテーブルの上で手を握り合っているように見える。
何か真剣な様子で話しているようだ。
私は崩れ落ちた。
セシリアに支えられながら、私は2人が見えない場所のベンチに座った。
「アルベルトが…また他の女の人と…しかもまたストレートヘア……」
「リナリア落ち着いて、と言っても無理よね…。
でも何だか雰囲気が事務的じゃない?
リナリア、私2人に事情を聞きに行ってもいい?
…リナリア?リナリア〜?」
セシリアの言葉は耳を素通りし、私の頭の中では2人の会話が5.1chサラウンドで再生されていた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「本当に私で良いの…?アルベルト。キャス子(仮)は…それになんかちんちくりんの茶髪も居なかった?」
「いいんだ、シル美(仮)。やっぱり君が1番のサラサラストレートヘアだよ。美しい…。僕と生涯を共にしてくれ」
「嬉しい…それなら今度我が家にいらして。両親も会いたがっているわ」
「そうか…それは緊張するな…。でも君との未来のためさ。
いくらでも頑張ろう」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜
そう、きっと2人は将来のことについて語り合っているから真剣なのだ。
そうに違いない。
きっと週末にも私はついでとばかりに婚約破棄されて、その足でシル美(仮)の両親に会いに行ってしまうのだ。
「リナリア〜?そろそろ戻ってきて〜?
ほら、2人とも行ってしまったわよ?話さなくていいの?」
「うん…きっと週末にうちに来るから…」
「なんだ、会う約束をしているの?」
「ううん…挨拶ついでに婚約破棄しに来るから…」
「うん、大丈夫じゃないのね」
しかし週末にアルベルトは婚約破棄しに来なかった。
それどころか、「これを着て来月のダンスパーティーに一緒に行きませんか」というメッセージと共にドレスが届いた。
春らしいペールブルーグリーンで、ポイントにカナリーイエローが使われているドレス。
私はペールカラーなら大体どの色も好きだ。
よくクッキーのアイシングにも使ったりする。
それを分かってくれていたのだろうか?
それに、考えすぎだろうけど、まるでアルベルトの色みたいだ。
学園に入って初めてのダンスパーティーだ。
誰しも気になるあの子にアプローチするチャンス。
この日のために、平民の子も必死にダンスを練習している。
全生徒憧れのイベントと言ってもいい。
実際、このダンスパーティーの後にカップルが急増するという。
私はまさかの2回目の浮気に一人びぇーびぇー泣いていたが、「本妻相手にご機嫌取りか…あのクソ坊主大した玉やな。捨てよ」と言って箱ごとドレスを捨てようとしているナンシーを慌てて止めた。
私のことが好きじゃなくても、私のことを考えて贈ってくれただろうドレス。
悲しかったけれどやっぱりちょっと嬉しくて、ドレスを抱きしめた。
アルベルトの心に誰が住んでいても、私はアルベルトが好きだ。
とりあえずアルベルトはキャス子(仮)でもシル美(仮)でもなく私とパーティーに行ってくれる。
私のアプローチチャンスだ!精一杯やろう!
そう意気込んだ途端、いきなり壁にぶち当たった。
ダンス!そうダンスだ!!
私は一生懸命頑張ったしアルベルトも褒めてくれたけれど、講師の先生からは「せいぜい姿勢の良いゴリラ」と言われているダンスだ!
それほぼ人間じゃんって喜んでいけれど、先生に「全く褒めてない」と言われた。
まだ人間ではないようだ。
ダンスパーティーなのにダンスが出来ない!
全くアプローチ出来ない!
どうしよう…と悩んでいる私の横で、やっぱりドレスを捨てようとしているナンシーと攻防戦を繰り広げつつ、ついに名案が浮かんだ。
「そうだわ!」
「お、捨てますか?」
「やめて」
私はアルベルトに了承の手紙を認めると、ナンシーに渡した。
捨てないで、ちゃんと出してと20回くらい言い含めた。
私は名案を実行するため、早く翌週にならないかとそわそわしながら、眠りについた。
ありがとうございました。
明日も19時にアップします。