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挿話 アレクシス

 アルベルトが私たちの家にやってきたのは、ちょうど10年前。

 私が11歳、弟のアランが8歳の時だ。

 アルベルトはまだ3歳だった。

 アルベルトは事情をあまり分からないながら、両親にもう会えないことは薄々気付いていたようで、よく泣いていた記憶がある。


 従兄弟ではあるが、父方の血を色濃く受け継いでいて全く同じ色合いのため、3人並ぶと本当の兄弟にしか見えない。

 けれど、真顔でいると冷たい印象を与えてしまう私たち兄弟とは違い、アルベルトは柔らかく穏やかな印象だ。

 よくリナリア嬢も言っているけれど、まるで天使の様な容貌だと思う。


 私たちはこの新しく出来た弟を、とにかく可愛がった。


 私は勉強を教えてくれというアルベルトに、よく付き合った。

『お前はまだそんな本読んでも分からないだろ。こっちの簡単なのを読めよ』(昔の私はこんな野蛮な話し方でした。いや、お恥ずかしい)

『ありがとうございます、アレクシスにいさま』


 アランはよくアルベルトに剣術を教えていた。

『お前みたいな奴がそのままやったら危ないだろ!ちゃんと防具を付けろ!』

『はい、わかりましたアランにいさま』


 アルベルトは素直に私たちの言うことを聞き、ぐんぐん成長していった。

 確かに、私は人よりも勉強が出来るし、頭が回る方だと自負している。

 今もついうっかり仕事の合間の息抜きに、新しい数学の定理を発見してしまったところだ。

 これから各国語で論文を書かねばならず、仕事を増やしてしまった自分が恨めしい。


 けれど、アルベルトはそんな私に一段届かないというレベルだ。

 他の人間は十段は届かない。

 学園の試験全てを満点にすることはないかもしれないが、欠けるのは僅か数点だろう。

 現にアランの成績は常に上の下、中の上の辺りでアルベルトよりもずっと成績が低い。


 それに、剣術だって優れている。

 アルベルトはアランにたった3本しか取れなかったと思っているかもしれないが、それが異常なことだ。

 アランはほぼ化け物だ。

 その化け物相手に3本、つまりまぐれではない。

 私など、1本も取れないどころか3分で負ける。


 しかもアルベルトは音楽や詩などの才能もある。

 幼い頃はよく教師を感動のあまり泣き崩させたものだ。

 ある意味で、アルベルトは私たちよりも余程優秀と言えるかもしれない。


 けれど、アルベルトの自己評価は恐しく低い。

 原因は、当初アルベルトに付いていた家庭教師たちにある。

 この家庭教師たちは、事あるごとに私とアランを引き合いに出し「兄上はもっと出来ていた」「お前は出来損ないだ」「何をやらせても駄目な奴だ」とアルベルトを追い込んでいた。

 あれはただの八つ当たりだ。

 その家庭教師たちはかつて私の勉強やアランの剣術、ダンスも見ていたが、私たちが彼らよりも遥かに優秀であったことを逆恨みしていた。

 自分の無能さを棚に上げて幼い子どもに当たり発散するなど、人間のすることではない。

 私はそのことに気付いてすぐ父上に進言し、奴らを解雇した。

 ついでにアルベルトに今後一切近付かないよう、国外の良い仕事を紹介しておいた。

 今頃、船で行かなければならない国で、あと何十年かかるか分からないほど長大な城壁を作っていることだろう。


 しかし、時すでに遅かった。

 アルベルトは恐ろしく自己評価の低い子どもになってしまった。

 もしかしたら、子どもの頃の私たちの声掛けの仕方も悪かったのかもしれない。

 後からどんなに私たちが「お前は出来損ないなんかではない。むしろすごい才能の持ち主だ」と言ったところで、アルベルトにはただの慰めとしか聞こえないようだった。

 過去に戻ることが出来たなら、過去の私の眼鏡を踏みつけてやりたい。


 またアルベルトはどういう訳か、感情を伝えるのが下手だ。

 急に両親を失い、親戚の家の養子になったのだ。

 どんなに私たちが優しく接したとしても、どこか遠慮のようなものがあったのかもしれない。

 家庭教師のこともあり、幼い頃から感情を殺すことを覚えてしまった。

 私はアルベルトの感情の機微に聡い方だが、可愛い弟のことをよく見ている私だからこそ分かることだ。

 アルベルトは照れると左の親指を握りこむ癖がある。

 リナリア嬢に笑いかけられると、よくそうしている。

 あとアルベルトは緊張するとほんの少しだけ下唇を噛み締めるし、退屈だとほんの少し頬を膨らませるし、嬉しいとほんの少しだけ首を左に傾げるのがあざと可愛いし嫌いなものが食事に出て来ると最後まで残しておいて最後の最後でえいやと食べるのが可愛すぎる。ジャックにリナリア嬢への恋愛相談をしているのも可愛い。

 天使と猫の組み合わせは神の奇跡だ。つい思わず祈りを捧げてしまう。


 …おほん。

 少し語りすぎた。

 つい熱くなってしまった。

 アルベルトのことになると少々我を忘れてしまう癖がある。



 ーー補足しよう。

   この男、極度のブラコンである。

   アルベルトの観察日記は優に50巻を超える。

   インテリ眼鏡の皮を被った変態である。





 リナリア嬢とのことが心配だ。


 アルベルトはリナリア嬢のことが好きなのだろう。

 感情が分かりにくいアルベルトには珍しく、とても分かりやすい。

 しかしリナリア嬢本人に対しては、意識的にかは分からないが、どうやら隠しているようだ。


 リナリア嬢もアルベルトのことが好きなようだが、それはもう全身から溢れ出ている。

 分かりやすい事この上無い。

 しかしもしかしたら、アルベルトは気付いていないのだろうか…?

 いやそんなまさか。


 アルベルトが悲しむ姿は見たく無い。絶対に何があろうと見たくない。

 2人が拗れなければいいけれど。

明日はまた19時にアップします。


------


登場人物たちの年齢差が分かりにくくなってきたので、まとめます。


リナリア・シーブルック(13)

シーブルック伯爵家の一人娘

茶髪ゆるウェーブ、翠目

今作の主人公


アルベルト・スタンフォード(13)

スタンフォード侯爵家三男(兄たちとは本来従兄弟)

金長髪、青みがかった緑目

リナリアの婚約者


セシリア・シプリー(13)

シプリー子爵家次女

金茶ストレートヘア・碧眼

リナリアのマブダチ


サマンサ・キャスケル(18)

キャスケル伯爵家長女

栗色ストレートヘア

アルベルトの浮気?相手


アレクシス・スタンフォード(21)

スタンフォード侯爵家長男

色味はアルベルトと同じ

インテリ眼鏡の変態兄


アラン・スタンフォード(17)

スタンフォード侯爵家次男

色味はアルベルトと同じ

筋肉おばけ


第一王子(17)

第二王子(14)

王子たちは今後登場する予定です。

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