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番外編 アラン2

 

「それで、どうしてこうなるんだ…」


 項垂れる俺の前には、シプリー嬢と楽しげに会話をするリナリア嬢と、そのリナリア嬢を愛しげに見つめるアルベルトが居た。




 プラン7は、王立植物園の中の見事な薔薇の生垣に囲まれた場所の中央にある、薔薇のアーチの前でプロポーズをするというものだ。

 隣国で薔薇を大量に集めている貴族がいるらしく、今はなかなか花束では手に入らないと聞いたからだ。

 季節は春の終わりで、風も爽やかで過ごしやすい。

 ちょうど薔薇も見頃で、絶好のプロポーズ環境だ。



 緊張しながらも誘いの手紙を認めると、快く了承する旨の手紙をもらった。

「お前の文章は信用ならない」と10回はレオンにダメ出しをくらった。

 執務で忙しいのに良い奴だ。



 馬車でシプリー家に迎えに行くと、何故か家族総出で迎えられた。

「きちんとするのよ!」「失礼のないようにな!」「このチャンスを逃しちゃダメよ!」などとシプリー嬢は激励されていた。

 既にシプリー家には父から婚約の打診がされているはずだから、今日俺が何を言うか皆分かっているのだろう。

 だが、シプリー嬢本人には伝えないよう頼んでいる。

 俺は家の都合だけでなく、シプリー嬢本人の意向を大事にしたいからだ。

 シプリー嬢本人だけが、大袈裟だと苦笑しながら、俺のエスコートで馬車に乗った。

 もちろんまだ婚約者な訳ではないから、俺の侍従と彼女の侍女も一緒だ。


 今日のシプリー嬢は春らしい薄い紫のワンピースに、白のキャペリンハットを被っている。

 俺は女性の服装に詳しくないが、外歩き用に動きやすいものを選んでくれているようだ。

 いつもの大人っぽいしっかりとした雰囲気を和らげ、年相応のあどけなさを感じる。

 つまりはとにかく可愛いということだ。



 俺は今まで一度も感じたことのない緊張を感じていた。

 騎士団の任務で、廃墟に潜伏していた人身売買組織の一斉討伐に出向いた時ですら、こんなに緊張しなかった。

 だから緊張を紛らわせる為にスクワットを始めたら、侍従に「馬車が揺れてみんな酔ってしまいます!」と必死に止められた。

 今日はか弱い女性が一緒に乗っているというのに、つい自分本位で考えてしまった自分に落ち込んだ。

 だが、シプリー嬢は「アラン様は少しでもじっとしている時間があれば、トレーニングをなさるのですね」とにこやかに笑ってくれた。

 それだけで、俺の心はあっという間に上向く。

 これが恋の力か。



 そして植物園の中に入り、俺が腕を差し出すと、シプリー嬢がおずおずと手を添えてくれた。

 こんなこと一つで幸せな気分になる。

 恋とは素晴らしいものだ。


「あれ、セシリア?」


 しばらく園内を散策していると、彼女に声をかける人物がいた。

 後ろから聞こえた声に振り返ると、なんとリナリア嬢とアルベルトが居るではないか。


「セシリアとアラン様!まさかこんな所で会うなんて!珍しい組み合わせね?」

「アラン様が植物園の薔薇が見頃だって言って誘ってくださったのよ。リナリアたちも見に来たの?」

「そうよ!アルベルトが誘ってくれたの!私たち薔薇では色々あったけど…それでも、アルベルトが私に気持ちを伝えようって決意した時にくれたものだもの。私薔薇って大好きよ!」

「僕は、薔薇を見て笑顔になるリナリアが大好きだな」

「はいはいご馳走様」


 シプリー嬢はリナリア嬢と会話が盛り上がっている。

 シプリー嬢の笑顔は美しいが、何とも微妙な気持ちだ。

 アルベルトが俺の側に寄って来て、笑顔で言う。


「兄様、びっくりしました。まさかここで会うとは。良ければ一緒に回りませんか?リナリアも喜びます」



 空気を読め、弟よ。


 いや、普段の俺もレオンによく言われるのだから似たようなものなのだろう。

 俺が断りを入れるため口を開こうとした瞬間、


「素敵!一緒に行きましょう!みんなで行った方が楽しいわ!」


 とリナリア嬢が同意した。



 恩を忘れたのか、リナリア嬢よ。


 いや、何故俺たちがここにいるかなど、2人は知らないのだから無理もない。

 だが!少し考えれば!なんとなく察せないかな!?


「私は…アラン様次第ですわ…」


 シプリー嬢が恐る恐るというように上目遣いで見てくる。


 うっ!可愛い!

 彼女も薄々これはデートだと思いながら、友人も無碍にできないという顔だ。

 シプリー嬢を困らせる訳にはいかない。

 俺は不本意ながら、頷く。

 すると「やったー!!」とリナリア嬢がシプリー嬢を引っ張るように歩き、アルベルトはそんなリナリア嬢をにこにこしながら見つめつつ、後ろをゆっくりついて行く。


「アルベルト。お前は良いのか?デートだったんだろう?」

「デッ…!!」


 アルベルトは顔を真っ赤にしている。

 いや、婚約者なんだから当然だろう。

 今更なんなのだ。

 と、思わないでもなかったが、俺も今日のこれがデートだと思うと無駄に走り出したくなるから、気持ちは分かる。

 しかしお前はそろそろ慣れた方がいいぞ。


「い、いいのです。リナリアが楽しく幸せであることが、僕の幸せなのですから。きっとリナリアなら、ここで親友とすぐにさようならと出来ないと思いましたので。

 あ!それとももしかして…兄様の邪魔をしてしまったのでしょうか…!」


 今更気付いてくれたらしい。

 自分の失態にあわあわと焦り始めるアルベルト。

 こういう姿を見ていると、兄上ではないが可愛いと思ってしまうのだから、俺も大概兄馬鹿だなと思う。


「まあ、大丈夫さ。機会はまだある」


 そう言った後に、閃いた。

 むしろ2人にプロポーズの証人になってもらうのはどうだろうか。

 仮にシプリー嬢から断られたとして、俺はそれを逆恨みしたり付き纏ったりしないと誓う。

 その方がシプリー嬢も安心だろうし、もしも、もしも万が一に受け入れてくれたなら、夢や俺の勘違いではないという証明になる。


「アルベルト!悪いと思うなら付き合え!」

「え?え!?兄様!?」


 アルベルトの腕を掴んで急足でシプリー嬢たちに追いつく。

 アルベルトが若干宙に浮いているように見えたのは、気のせいだろう。


「シプリー嬢!この植物園には薔薇で作られた見事なアーチがあるそうですよ!ぜひ見に行きましょう!今行きましょう!アルベルトたちも行くぞ!」

「え?え!?アラン様!?」


 アルベルトをリナリア嬢の元に捨て置き、シプリー嬢の手を取って歩き出す。

 シプリー嬢が宙に浮くようなことはしない。

 壊れ物に触るように、丁寧に扱わなくては。

 アルベルトたちは少し後ろをついて来る。

 俺は逸る気持ちを抑えながら、アーチを目指したのだった。


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