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挿話 アラン

「なあレオン。アルベルトに『リナリアは渡さない』と言われたんだが、どういうことだと思う?」

「はあ!?お前まさか弟の婚約者にまで粉かけたのか!?」


 先日、弟のアルベルトに不思議な事を言われたことが気になり、俺は自分の主であり友人でもあるこの国の王太子、レオン・ハラルディに問いかけた。



 このレオンという男は優秀だ。

 兄上ほどではないが俺よりはずっと頭がいいし、誰にでも分け隔てない公平性を持つ。

 それでいて汚れた事を嫌う潔癖性はなく、およそ王として求められるあらゆる素質を有しているだろう。

 兄弟仲も良く、第二王子であるクリストファー殿下もレオンに負けず劣らず優秀であるが、早くも兄を立て自分はその補助に回る姿勢を表明している。

 国内にクリストファー殿下を擁立しようという動きもなくはないが、まず本人が頑として拒否する姿勢を崩さないため、いずれも下火に終わっている。

 そんなレオンとは最早幼馴染、親友、という言葉では表せられない第二の兄弟のような間柄だ。

 それ故、2人の時は遠慮ない物言いをする。

 人の目がある時はちゃんと敬称もつけるぞ?

 騎士団に入って2年の実戦を積んだ俺は、団長に「逆に騎士団の士気が下がるから、もうお前はずっと王太子殿下の傍から離れないでくれ。頼むから」とお墨付きを貰い、今年からレオン専属の近衛として配属された。


 今は王宮にあるレオンの執務室で執務中のレオンを警護しているところだ。

 と言いながら、レオンは仕事に飽きたのか軽く休憩をしているので、俺は扉の前に立ちながら話しかけているという訳だ。


「『にまで』とは失礼だな。俺は今まで女性に粉をかけたことなど一度たりともないぞ」

「いやいやいや。お前はそのつもりでも、お前の無自覚な行動で勘違いし泣いた女性が何人いたことか。それで女性同士が揉めるから婚約者がいつまで経っても出来ないのだろうが」

「そんなつもりは全くないんだよなあ」

「全く。で、アルベルトに言われたのか?『婚約者は渡さない』と。それなら、何かアルベルトにそう思われることがあったんだろう。何か心当たりはないのか?」

「そうだな・・・強いていうなら、休務日ごとにリナリア嬢のダンスの指導をしているんだ。彼女のダンスはかなり個性的でな。普通の講師では手に余るだろう」

「なるほど。それはアルベルトも知っていることか?」

「いや、リナリア嬢はアルベルトに内緒で稽古して欲しいというから、アルベルトには言っていない。『お前には言えない』とちゃんと言ってあるぞ」


 すると、レオンが心底呆れた顔をして俺を見つめる。

 なんだ?何かおかしいだろうか。


「間違いなくそれだろ。アルベルトはなんで2人がよく会っているか知らないんだろう?なら2人が逢引きしていると考えたっておかしくないじゃないか」

「な…何だって…!?」



 そんな馬鹿な!そんな勘違いをされる要素はどこにも…うん?

 なくはないか?

 もしやアルベルトはずっと勘違いしていた・・・?



「レレレレレオン!どうしよう兄上に殺される…!!」

「なんだ?何でそこでアレクシス殿の話が出るんだ?」


 そう話していたところで、扉がバーーーンッと開いて兄上が入ってきた。


「どういうことか説明してもらいましょうかアランッ!!!」

「ひぃぃぃぃ!!!!」


「いや、あのな?アレクシス殿。ここ、一応王太子の執務室でな?いくら次期宰相のあなたでもそんな感じで入ってこられるとなんて言うかセキュリティ上まずいというかなんというか…」

「申し訳ありませんでした殿下。しかしこれは一大事、緊急事態故お許し願います」

「あ、うん…」



 兄上とレオンが話している最中に逃げようとしていた所、兄上に捕まり後ろ襟を掴まれて引き摺られる。

 この俺が、全力を出しているのに逆らえない。

 アルベルトが絡んだ時の兄上は最強だ。



「それで。廊下で聞かせてもらいましたよ。ここ数年アルベルトが何かをずっと悩んでいると思ったら、まさかあなたが原因だったとは…」

「俺も全くそんなつもりはなかったし、知らなかったんだよ…!!」


「いや、あのな?アレクシス殿。王太子の執務室での話をそんな盗み聞かれるとな?色々と支障が…」

「申し訳ありません殿下。私は『アルベルト』という言葉を聞くと通常より聴覚が三倍になるという特技がありまして。通常の執務の話では全くそんなことはありませんのでご安心ください。ですがこの特技、アルベルト本人を前にすると視覚や嗅覚にも意識を向けなければならないのでそうはならないのが玉に瑕なのですが」

「あ、うん…」


 そこで兄上は俺を床に正座させた。

 何故かつられてレオンまで正座している。


「アラン。この舞台を知っていますか?」

「『翡翠の幸福』?いや、知らないな」

「ああ!最近話題のあれだな!男の切ない片想いを描いた悲恋ものだ。アメリアが見たがっていた」



 アメリアとはレオンの婚約者の名前だ。

 レオンは割とアメリア嬢に惚れ込んでいる。



「この脚本を書いたのは、アルベルトです。

 婚約者が自分の兄を愛するようになり葛藤した後、身を引いて姿を消す男の話ですよ。

 これを見て私はおかしいと思い、確認しようと今日訪れたのですが…アラン、やはりあなたが原因だったのですね」

「えぇ!?それアルベルトが書いたのか!?全くお前たち兄弟は揃いも揃って規格外な」

「殿下。少々お黙りください」

「はい」



 レオンが崩した姿勢を戻してまた綺麗に正座する。

 どちらが主君か全く分からない。



「アルベルトは、自分のこれまでリナリア嬢に伝えられなかった思いをそのまま伝えるために、この脚本を書いたのです。

 そして本来なら脚本通り、アラン、あなたにリナリア嬢を任せて自分が立ち去るのが最良だと思いながら、リナリア嬢への思いを断ち切れずに葛藤しているのですよ」

「そんな、俺は全くそんなつもりは…っていうか兄上は何でそんなこと知って」

「分かっています。全てアルベルトの勘違いでしょう。しかし、アルベルトに勘違いをさせたというのが罪です。大罪です。いいですか。いつか本当にアルベルトが姿を消すことのないように、早急に!大至急!!誤解を解かなければなりません!!」

「いや相変わらず話聞かないな兄上…。分かった。じゃあすぐにアルベルトに話して…」

「いいえ!それだけではいけません!リナリア嬢の方にもどうやら誤解があるようです。

 アルベルトはこれまで彼女への想いを必死に隠していたようですからね。

 そこで!私たちがアルベルトのお兄ちゃんとして!一肌脱がなければなりません!!」



 熱くなり始めて、最早虚空を見ながら拳を振り上げている兄上を見て、レオンがこっそりと耳打ちしてくる。



「なあ…アレクシス殿っていつも冷静沈着なクールな感じじゃなかった…?え、こんな人だった…?

 私この人と一緒に国動かすの…?え、無理くない…?」

「アルベルトが絡まなければ普通だから…安心してレオン…」


「こら!!!人の話を聞いているのですか!!!」

「「はいぃ!!!!」」



 そんなこんなで、俺は兄上の話す計画通りに、指定された時間と場所にアルベルトを呼び出し、リナリア嬢への素直な気持ちを語らせることとなった。

「あなたの考える台詞は信用なりません」と30回はダメ出しをくらった。

 そのおかげもあって、当日は上手くいき、2人も順調なようだ。

 良かった。俺だって弟のことは可愛い。

 それにリナリア嬢も必死に頑張っていたのを知っている。

 2人には上手くいって欲しい。

 そして2人に万が一のことがあったら、俺の命は兄上に消されるところだった。

 良かった。本当に良かった。


 まさか、アルベルトにそんな誤解をされているとは全く気付かなかった。

 全く。俺には他に想う人がいるというのに。

 何でそんな誤解をされるのか。

 さて。

 弟も上手くいったことだし、自分のことも考えなくちゃな。

19時にもアップします。

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