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14 剣を捧げよ

 その日から、大きく変わったことがある。

 アルベルトと一緒にランチを食べるようになったのだ。

 第1学年以来初めてではないだろうか。

 アルベルトの生徒会の仕事で忙しかったことと、私の追加課げふんげふん。私のより知識を深めるための課題を先生にもらうために職員室に行っていたことで、すれ違ってしまっていた。

 …実際、アルベルトを誘って、他の人と食べるからと断られるのが怖かったというのもあるが。



 ちなみにもう一つ変わったことがある。

 ダントン先生が、うちの御者のダンと結婚した。

 あのダンとはうちのダンだったのか。

 ダントン先生は子爵家の出だったはずだけれど、家を捨てて愛を取ったそうだ。

 アルベルトの詩、恐るべし。



 そのうち、アルベルトはお昼休みだけでなく、休み時間ごとにも来るようになった。

 これまで一緒にいられなかったのは、何だったのだろう。


 ある日の昼休みに、私の作ったランチを囲んで食べながら、聞いてみた。


「もう遠慮するのはやめたんだ。

 リナリアは僕の婚約者だもの。婚約者同士一緒にいるのはおかしなことじゃない。

 生徒会の仕事も、きちんと他の人に振ることにしたんだ。

 だから、出来るだけリナリアと一緒にいたいと思って。

 それとも…やっぱりリナリアは僕と一緒にいるのは、嫌…?」


 ごふっ!!

 なんだその上目遣いは!!

 可愛い!!17歳男子なのに可愛い!!

 すっかり精悍になった顔から繰り出されるギャップ!!

 天使…やっぱりアルベルトは天使…!!


「いいいい嫌じゃないよ!私も嬉しいよ!!」

「本当に?良かった」


 そして天使スマイルで笑った。

 いや、待てよ。

 ただの天使スマイルではない。

 そこはかとなく感じるこれは…色気!?

 もしや色気!!?

 成長してそんな技術まで身につけていたの!?

 恐しい子!



 アルベルトのこれまでの話を信じるならば、私が浮気相手だと思っていた人たちとは何でもなかったのだろう。

 セシリアもそう言っている。

 でも、じゃあキャンベルさんは何だったのだろう…。

 実はそれとなくアルベルトに彼女のことを聞いてみたのだけれど「キャンベル嬢?彼女は何故だかよく話しかけてきてくれる子だけど…彼女とは特に親しい訳でもないよ。一度、ちょっと気になることを質問しただけで」と言われた。

 何を質問したのかは気になるけれど、でもこの感じは本当に何もなさそうだ。

 じゃあ、彼女は何故あんな事を言ったのだろう…。

 きっとキャンベルさんはアルベルトのことが好きなのだろうから、私たちを仲違いさせるために嘘をついたのだろうか?

 私は悶々としていた。


「そうだ。今日はリナリアにお願いがあったんだ。週末にある剣術大会なんだけど、今年は僕も出ることにしたんだ。もし良かったら…見に来てくれないかな?」

「えっアルベルトが出るの?」


 剣術大会は、秋に行われる聖アーガスト学園の男子たち憧れのイベントだ。

 剣術は貴族の男性の嗜みで、その強さと剣技の美しさは男性の魅力の一つであるとされている。

 本当に騎士になるような人たちは、アラン様のような例外は別にして、第4学年から別の学校に行ってしまう。

 だから結構普通の人でも活躍の機会があり、多くの人が参加する。

 希望すれば何学年でも参加することができて、最初の第一試合と第二試合以降を2日間に分けて行われる。

 学園の男子生徒の多くが参加する大会だけれど、これまでアルベルトは出たことがなかった。

 理由は聞いたことがない。

 運営側の生徒会役員であるというのもあると思うけれど、役員でも出ている人はいる。

 アラン様も第2学年以降は参加していない。

 アラン様の場合は、まあ他の人とレベルが違いすぎるというのもあるのだろうけれど。


「生徒会の当日の運営は他の役員に任せることにしたんだ。自分の試合以外の時間は、僕も運営側に回るし。それに…これまではアラン兄様と比較されたくなくて出なかった部分もあるのだけれど、もうそういう考えはやめたんだ。

 僕は、リナリアに見に来て欲しい」

「ええ…分かったわ。絶対見に行く」

「本当に!嬉しい。ありがとう」


 そしてまた色気漂う天使スマイルで笑った。


 アルベルトは何故私に見に来て欲しいのだろう。

 私はとっても単純だから、アルベルトは私を好きなんじゃない?なんてすぐ考えてしまう。

 けれど、これまでの色々が私を混乱させる。

 アルベルトの気持ちがわからない。

 期待して落とされるのは、もう嫌なのだ。



 複雑な気持ちを抱えたまま時は過ぎ、剣術大会の日になった。

 アルベルトはシード枠らしく、1日目の第一試合には参加していない。

 だから私も2日目から見に行くことにした。


 私はセシリアを誘い、観客席の中腹に座った。

 前の方は多くの女性たちで占めている。

 アルベルト狙い…?

 もっと早くくれば良かった。


 剣術大会は、学園の敷地の中にある闘技場で行われる。

 円形に作られたフィールドを囲むように観客席が配置され、外側に行くほど高さが高くなっている。

 今日参加する生徒は昨日の第一試合を勝ち進んだ25人とアルベルトだ。

 第二王子殿下もいらっしゃるようだ。

 見ていると第一試合を勝っただけあって、みんなそこそこ強い。

 学年はまちまちだ。

 第1学年でも将来騎士志望の子はやはりそれなりに強い。


 そしてついに、アルベルトの番になった。

 アルベルトがフィールドに出てくると、女性陣から黄色い声が上がる。

 やはりアルベルト狙いのようだ。


 すると、アルベルトが私のことを見た。

 こんなに遠くから見える訳がないと思ったけれど、確実に私を見ている気がする。


 そして私を見つめながら、剣を胸の前で縦に捧げ持った。


「私はアルベルト・スタンフォードの名にかけて、我が婚約者、リナリア・シーブルックに勝利を捧げる!」


 アルベルトが朗々と響き渡る声で、そう宣誓した。


 会場が一瞬静まり、それからワーッ!!!!と歓声が聞こえた。

 女性陣からはちらほら悲しみの声があがる。


 私は顔が真っ赤になってしまった。

 横でセシリアが「ほら!今の聞いた!?」とつついてくる。

 嬉しすぎて涙が出そうだ。


 しかし今回のアルベルトの対戦相手は、なんと前回優勝した第6学年の生徒だ。

 昨年は、かなり周りを圧倒したと聞いている。

 私は実は、アルベルトの剣術の腕前を知らない。

 学園に入る前にも見たことはなかったし、運動の時間は男子は剣術、女子はストレッチなどの体操で男女別であった。

 剣術大会に出ていないと、その実力は同学年の男子生徒だけしか知らないのだ。


 私はハラハラしながらアルベルトを見守る。

 どうか怪我だけはしませんように。

 胸の前で手を合わせて見つめる。

 すると、試合開始の笛が鳴り響いた。


 相手がアルベルトに向かって剣を向け、地を蹴ったと思った、瞬間。

 相手がバタッと倒れた。



 ????



 会場の全員の頭に?が浮かぶ。

 何が起きた?


 すると審判の震える声が聞こえた。


「しょ、勝者アルベルト・スタンフォード!」


 アルベルトがこちらをバッと振り向き、極上の笑顔を向けた。


 会場は沈黙に包まれる。


 私はこの時初めて知った。

 こういう戦いの場で「〇〇に勝利を捧げる!」というようなパフォーマンスは、死闘とは言わないまでもある程度打ち合わないと感動しないということに。

 宣言から数秒後に捧げられてしまった。

 なんとも微妙な空気が会場に漂う。


 私は引き攣る口元を無理やり笑顔にして手を振る。

 するとアルベルトは少し顔を赤らめて笑い、手を振り返した。


 その顔に会場の女性陣は再度色めきだった。


 隣でセシリアが諭すように言う。


「スタンフォード様の愛情は間違いないわよ。何をそんなに意固地になっているの?

 リナリアだってスタンフォード様のことが好きなくせに」


 私はその言葉に曖昧に頷いた。

 分かっている。

 けれど、アルベルトからちゃんと好きだと聞いたことはないし、こんなポンコツな私を好きになってもらえる要素もない。

 努力はしているけれど、それでもどうやったって周りよりも劣るのだ。


 アルベルトは準決勝、決勝戦とも瞬殺で勝ち、大会で優勝した。

 決勝戦では第二王子殿下と戦ったのだけれど、「王子としての!体面を!保たせようとは欠片も思わないんだなお前は!せめて瞬殺はやめて!」と男泣きしていた。

 その決勝戦でも試合の前に「リナリアに勝利を捧ぐ!」と言ってくれたけれど、みんな「はいはい…」という空気が流れ、こう、何とも盛り上がらなかった。


 けれど、私は嬉しかった。

 どういうつもりで言っているのか分からないけれど、たぶん、私に見てもらうために戦ったのだから。

 もしかして、もしかして本当に、期待してしまってもいいのだろうか?

明日は挿話も含め、7時、12時、19時にアップします。

明後日で完結です!

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