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アルベルト4−3

今日は既に2話アップしています。

そちらを読んでいない方は、先にそちらをお読みください。

 僕は第5学年になり、生徒会長になった。

 その後もリナリアは何回か生徒会室に足を運んで差し入れをくれた。

 今年最高学年になり、生徒会を退任されたクリス殿下は「仕事が無くなるのは嬉しいけど、シーブルック嬢の差し入れが食べられなくなるのは嫌だな〜。たまに食べに行っていい?」と言って、本当に来る。

 けれども、リナリアはここ最近は全く訪れてくれなくなってしまった。


 僕はリナリアのことを頭から追い出すように仕事にのめり込み、たまに訪れるクリス殿下に「人の仕事を取るな!見ろこの暇そうな役員たちを!」と言って怒られてしまった。

 確かに他の役員たちは、暇に任せて生徒会室中にドミノを張り巡らすことに熱中していた。

 クリス殿下が扉を開けたことでドミノが一斉に倒れ、この世の終わりのように嘆いている。

 確かに、これではいけない。

 きちんとしなければ。


 しかし一人で何もしないでいるとリナリアのことを考えてどんどんと悪い方向に思考が進んでしまう。

 アレク兄様もアラン兄様も婚約者がいない。

 2人とも何度か話は上がったようだけれど、優秀すぎる兄様たちに引け目を感じて、破談になってしまったようだ。


 ――事実は、アレクシスは皆アレクシスの弟愛に付いていけないからであるし、アランはちょっと感性がアレであらぬ誤解を生み関係が拗れるからである。


 本当は、僕が婚約を解消して、アラン兄様に婚約者の座を譲るのが良いのだろう。

 だから、僕さえいなければ2人の間に何の障害もない。

 家としての繋がりも、兄様ならば問題ないのだから。

 けれど、僕には出来なかった。

 僕がアラン兄様に勝っているのは、婚約者という立場だけ。

 それを自分から捨てることは出来なかった。



 僕は毎朝、何か仕事はないかと探すために、授業前に生徒会室に行っている。

 その日もそうだった。

 まず生徒会室を掃除して、書類を整理し、机を整理整頓する。

 と言っても帰り際にもやったので一瞬でやることがなくなり、来週行われる剣術大会の進行シナリオの15回目の確認し、それも終わったので年末の終業式に行われる生徒会長挨拶を、無駄に北のガバディ語で作成し始めた。


 すると、この時間には珍しく、コンコンと控えめなノックの音が聞こえた。

 誰か役員が忘れ物でもしたのかと思いつつ原稿を書きながら声を掛けると、その人は何も言わない。

 不思議に思い視線をあげると、驚くことにそこには、夢にまで見たリナリアが居た。

 思わずガタッと立ち上がり、見てはいけないと思いつつその姿を眺めてしまう。

 茶色い髪を綺麗に結いあげて、健康的な肌はそれでも艶やかだ。

 大きな翡翠の瞳はどこか物憂げで、潤んでいる。

 本当に美しくなった。

 いや昔からとても可愛らしかったけれど、いつの間にか大人の女性に変わっている。

 体付きもしっかりと女性のそれに変わっていて、とてもドキドキしてしまう。


「ごめんね、アルベルト。今平気?」

「え、あ、ああ。平気だよ。急にどうしたの?何かあった?」


 久しぶりに名前を呼んでもらったような気がする。

 嬉しい。

 僕は自然と笑顔になってしまう。

 いけない。顔を引き締めなければ。


「もう、婚約破棄しよう」

「え…?」



 何を言われたのか、一瞬分からなかった。

 婚約破棄…?

 やっぱり、僕が邪魔になったのだろうか?

 婚約者の地位に縋る僕が悪かったのだろうか。

 頭が真っ白になった。


 しかし、その後に続いたリナリアの言葉に愕然とする。

 他に好きな人…?

 そんなものいる訳がない!

 一度だってリナリア以外の人を好きになったことなんてない!

 そう反論しようとしたけれど、リナリアはあっという間に去って行ってしまった。

 追いかければ、きっと間に合っただろう。

 でも、僕はショックで動き出せなかった。


 どうやら、リナリアは僕のことが嫌になって婚約破棄を言い出した訳じゃない。

 もしかして、まさかと思うけれどずっと勘違いしていた…?

 そんな、まさか!

 もしかしてアラン兄様との距離が近付いたのも、僕の行動が原因で…?

 一体誰とのことを勘違いされているのかいまいち分からないけれど、それでも、このままじゃいけないのは分かる。



 そうだ。

 例え、もうリナリアの心が僕のものになることはなくとも、僕の気持ちを勘違いされているのは嫌だ。

 せめて、せめて僕の気持ちはしっかり伝えなくては!

 リナリアの気を引きたくて、引いてみる作戦なんてしていた僕が悪いのだ。

 どうか、僕の気持ちがリナリアに伝わりますように。




 早速、僕は翌日シーブルック家を訪ねることにした。

 以前ウェザーズ先輩から聞いたのだ。

 チェスター先輩が卒業後、女性の噂が絶えず子どもの自分に興味がないと思っていた婚約者が、実はチェスター先輩のことを昔から好きだったと大量の薔薇の花束で告白されて、喜びで三日三晩泣き続けたと。

 噂はどうやら、周囲のただの勘違いであることが分かったそうだ。

「薔薇の花束なんて、女ならいつかは貰ってみたいよー。私も欲しー」とウェザーズ先輩が言っていた。



 僕も薔薇の花束を渡そう!

 そう意気込んだはいいけれど、どうやら大量の赤い薔薇が他国に流れているらしく、今は品薄だそうであまり本数を用意できなかった。

 三軒まわって、やっと10本ちょっと。

 けれど、家で用意してもらうのは違う気がするし、そもそも時間がかかってしまう。

 本当は100本は用意したかったけれど…仕方ない。

 僕は震える膝を押さえて、シーブルック家の門を潜った。



 やっぱり直前で好きだという言葉は飲み込んでしまったけれど、精一杯の気持ちは伝えられたと思う。

 それに、リナリアはきちんと花束を受け取ってくれた。

 嬉しくて涙が溢れそうになった。

 実際、シーブルック家から出た瞬間に泣いた。


 家に帰るとアラン兄様が庭で腕立て伏せをしていたので、拳を握りしめていった。


「アラン兄様、僕負けないから!

 リナリアだけは兄様に渡さない!」


「ん?え??」


 ぽかんとするアラン兄様を置いて僕は自室に駆け込んだ。

 ついに言った。

 これは宣戦布告だ。

 明日から僕は、自分のやり方、自分なりの方法でリナリアへの愛を伝える!

明日は7時と19時にアップします。


ーーーーーー


また時間軸が進んだので、登場人物の年齢を整理します。


リナリア・シーブルック(17)

第5学年、淑女科。

裏技ステップを7曲マスター。

教師を洗脳し、以前ほど補講や追加課題には追われていない模様。


アルベルト・スタンフォード(17)

第5学年、領主科。

生徒会会長に就任。

リナリアとのことに向き合えず仕事に逃げるヘタレ。


ハンナ・キャンベル(15)←new!

第3学年、基礎課程。

北のすごい辺境伯家の令嬢。

兄が1人いるらしい。


セシリア・シプリー(17)

第5学年、淑女科。

リナリアのお世話役と自他共に認められている。


アラン・スタンフォード(21)

卒業し、騎士団に配属。

2年の実戦を積んで、今年から王太子の近衛として専属護衛になる。

リナリアへのダンスレッスンは継続中。


アレクシス・スタンフォード(25)

父親から早急に領地運営のノウハウを取得すると、宰相補佐の仕事も並行して始めた。

王太子が国王になる時には宰相と領主をかけ持ちしそう。


クリストファー・ハラルディ(18)

第6学年。領主科。

生徒会会長を退任し、立太子した兄を支えるために公務に励んでいる。

俗っぽい欲はたくさんあるけれど、それに負けない精神力がある。


王太子(21)

卒業後立太子し、王太子になった。

この後、ちゃんと出てきます!


アナベル・チェスター(20)

卒業後、隣国の7歳上の公爵子息に嫁ぐ。

輿入れの際、婚約者が大量の薔薇の花束とともに「ずっと好きだった」と告白されて感激で三日三晩泣く。

それ以来、毎月誕生日に大量の薔薇の花をプレゼントされて幸せ。

ハラルディ国の薔薇不足は彼らのせい。


オリヴィア・ディアス(20)

卒業後、王宮の国税管理局に就職。

どういう訳か「オリヴィア様に叱られたい」という脱税犯が集まり成績はトップ。


マリア・ウェザーズ(18)

第6学年、法学科。

在学中に良さそうな男をゲットして、ゆくゆくは貴族の奥様の座に収まろうと思ったものの、体目当ての男ばかりで敢えなく断念。

意外と成績が良かった法の道に進むことにした。

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