2 努力が報われるとは限らない
今日は2話同時にあげています。
1話目からよろしくお願いします。
そこから私は、本当に努力した。
8歳の頃から私付きになっている侍女ナンシー(18歳。独身)に言われ、嫌々やっていた髪の手入れも積極的にやるようになったし、
あんまり好きじゃなかった勉強だって頑張るようになった。
講師の先生に「新種の鳥の求愛行動ですか?」って言われていたダンスも、きちんと人間になれるようにたくさん練習した。
ナンシーに「ミミズの求愛行動ですね!」と言われた刺繍は、きちんと猫に見えるようにたくさん練習した。
私はそんなに求愛行動に詳しくない。
「相手に良い印象を与える35の法則」という本を買って熟読し、他者から露骨なくらい良い印象を持たれる笑顔、略して“たろいもスマイル(リナリア命名)”を練習した。
分からないところは作者に質問の手紙を何度も書いて教えてもらって、「君にもう教えることは何もない。だからもう手紙を出さないで。本当お願いします」という返事を貰えるくらいには、“たろいもスマイル”を習得したと思う。
アルベルトはそんな私を励ます為に、たくさん褒めてくれた。
アルベルトと一緒にダンスの授業を受けた時は、
「もしかして背中に木の棒か何か入れながら踊ってるの?すごいね」
と褒められた。
全く入れてはいなかったけど、人間に見えるみたいだから大成長だ。
けれど先生に「あなたのダンスはまともな人には見せられない」とよく分からないことを言われて、一度しか一緒に授業を受けられなくなってしまった。悲しい。
刺繍を施した自信作のハンカチをプレゼントした時は、
「これを僕に?ありがとう、可愛いモグラだね」
と、やっぱり猫だった刺繍を褒められた。
哺乳類だから猫とモグラはほぼ同じものだと言っていい。
その後アルベルトの部屋にはいくつかモグラグッズがあったから、きっとモグラが好きなのだろう。
なのであの刺繍はモグラである。
でも2枚目のプレゼントは勇気が出なくて渡せなかった。
習得した“たろいもスマイル”を披露すると
「眠いの?少し休憩する?」
と何故か言われてしまったけど、たぶん昨日“たろいもスマイル”の練習のしすぎで夜更かししたのがバレたのだろう。
私を心配してくれてやっぱりアルベルトは天使だと思った。
アルベルトのその優しさに触れる度、やっぱりいつか天に召されてしまうのね、と思ってちょっと悲しくなってしまった。
召されないよって言われた。
そんな風に段々と自分に自信を付けて、私たちは13歳になった。
アルベルトとは、ずっと仲良しだった。
いつも2人でいる私たちを見て、みんな微笑ましく見守ってくれていた。
お母様に
「婚約者とこんなに仲良くなれるのは奇跡なのよ。お互いを大切にしてね」
と言われ、私たちは顔を見合わせて力強く頷いた。
そして迎えた学園への入学式。
私はとても幸せでいっぱいだった。
これまでより一緒に過ごせる時間が長いから。
私たちが住んでいるこのハラルディ王国には、貴族を中心とした子女が通う学園がある。
名を聖アーガスト学園という。
創立200年を超えるこの聖アーガスト学園は、かつてハラルディ王国の国教であるライアード教の偉大な聖職者、アーガストが「なんかこの国の貴族やばくない?ちょっと本気で勉強した方がよくない?」となって創設した学園だ。
確かそんな感じ。
うん、歴史は苦手だ。
その聖アーガスト学園は、基本的に13歳から18歳の貴族の子女が通うことになっている。
体が弱いというような何か特別な事情がない限り、貴族は皆入学することになっている。
平民でも試験を受ければ入ることが出来て、その比率は4対1で貴族の方が多い。
平民には平民の学校があるけれど、国家資格を取ったり、より専門的な知識を得る為に入ってくる子たちが多いようだ。
平民の方は20歳以下ならいつでも入れる。何歳で入っても6年間通うことが可能だ。
王都の郊外にあって、広大な敷地を持つ。
ちなみに辺境出身の子や平民の子向けに寮もある。
しかも生活費は無料。
けれど王都にタウンハウスを持つ多くの貴族は、そこから通うことが多い。
私もアルベルトもその予定だ。
この学園は最初の3年間はみんな同じ授業内容で、マナーや歴史、算術などの一般教養と法律を学ぶ。
あと最悪なことに運動の時間がある。
なんでなんだ!と聖アーガストの肩を揺さぶって問い詰めたい。あ、聖アーガストさんが決めたことじゃなかったかも、ごめんなさい聖アーガストさん。
そして残り3年間は自分の選択したい学科に分かれることになっている。
大抵の貴族の女の子は淑女科に行って、屋敷の女主人としての知識や技術を学ぶ。
領地を持っている家の長男は領主科に行くことが多い。
ちなみに騎士科はない。
騎士を目指す人たちは15歳で卒業して、別の騎士訓練学校に行くことになっているのだ。
医療や薬学を目指す場合も同じだ。
男の子でも女の子でも、官吏や地方役人を目指すなら、会計経理や法律なんかの専門分野に進む。
ここで私がこの学園の最も素晴らしい所をアピールしたい。
クラス分けが成績順じゃない!
もう一度言おう、クラス分けが成績順じゃない!
しかも、なんと家名のアルファベット順!
もう一度言おう、家名のアルファベット順!
シーブルックとスタンフォードは同じS!
つまり…アルベルトと同じクラスなのだ!
それを知った時、私はあまりの嬉しさに小躍りした。
ナンシーが「よ!新種の鳥の求愛行動!」と合いの手を入れていたけど、無視した。
最初の3年間だけではあるけど、アルベルトと毎日同じ教室で学べるなんて!
私ったら世界で一番幸せな子に違いないわ!
そう思っていた。
そんな幸せが崩されたのは、それから半年後のことだった。
ありがとうございました!