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アルベルト2−2

 翌日、僕はため息を吐きつつ、調べ物で使った資料を図書室に返していた。

 するとカーネル先輩が通りかかった。


 キャスケル先輩に教えてもらったレシピのヘアオイルを、スタンフォード家で働くくせ毛のメイドたちに使用して貰ったけれど、効果は3割というところだった。

 これではリナリアに渡せない。

 リナリアに渡すものは最善を尽くさなければ。

 だから、今度はカーネル先輩に相談していた。


 カーネル先輩ことシルヴィア・カーネル侯爵令嬢は、シルバーブロンドのストレートヘアだ。

 学年は1つ上。

 生徒会の仕事の中に、学生たちの自主活動を支援するというものがある。

 例えば慈善事業だったり、共同研究だったりという活動だ。

 カーネル先輩は来年から薬学の専門学校に通うことになっており、同学年の女子生徒数人と新薬の共同開発をしている。

 その費用援助について、生徒会の手伝いで話したことがあった。

 その伝でお願いしたのだ。


「あら、スタンフォード様、ご機嫌よう。

 その後彼女はどうかしら。一応私の薬学の知識はフル活用させてもらったのだけど」

「あ…いや、まだメイドたちに試してもらっている最中で…」

「そう。効果があったなら教えてね。参考にしたいわ。

 そう言えば、件のシーブルック様を食堂で見かけたわ…なんだかとても泣いていたわよ。

 何か嬉しいこと…ってスタンフォード様!?」


 リナリアが泣いている。

 そう聞いただけで居てもいられず駆け出していた。

 何人か轢いてしまった気もするけれど、とにかくあっという間に食堂に辿り着いた。


 そこで、見てしまった。

 泣きながらアラン兄様に抱き付いているリナリアを。


 僕は頭が真っ白になった。

 リナリアは、アラン兄様のことが好きなのか?

 あんなに縋り付くほど、熱烈な愛があるのか?


 シプリー嬢がリナリアを引き剥がし、アラン兄様が去っていった。

 どうやら、アラン兄様はその気じゃないようだ。

 それにホッとしつつリナリアの様子を見ると、気分はさらに落ち込んだ。

 明らかにシプリー嬢に励まされている。

 アラン兄様に拒絶されて落ち込んでいるのを、励まされているのだろうか。


 拒絶されたとしても、リナリアはアラン兄様が好きなのだ。


 閃いたその事実に、頭をガンッと殴られた気分だった。


 ああ、だからか。

 僕が贈ったドレスを喜んでくれたのは。

 僕の色合いのドレスは即ち、アラン兄様の色合いでもある。

 なんだ。僕じゃなかったんだ。

 そりゃそうだよね。

 こんな僕の色を身に付けることを、そんなに喜んでくれる訳がない。


 僕は納得し、同時に悲しくなった。

 リナリアは、どうしたら僕のことを見てくれる?

 どうしたらリナリアの心を振り向かせられる?

 僕じゃ無理なのかな…。




 悩んだ時は、いつもジャックのところに行く。

 僕が思った通りのことを曝け出せるのは、ジャックだけだ。

 兄様たちも僕のことを気にかけてくれるけれど、僕が遠慮してしまって上手く話せない。

 それにアラン兄様に話すわけにいかないし…。


 ジャックはいつものコンサバトリーに居た。

 僕はジャックに話しかける。


「ねえ、ジャック。話を聞いてくれる?」


 ジャックはちらりとこっちを向いたあと、ぷいっと向こうを向いてしまう。

 僕は苦笑して、以前リナリアが置いていった、何やら灰色の柔らかいタワシのようなものが付いた棒を手に取って、適当に動かす。

 ジャックはやる気を出したようで、たしったしっとタワシを捕まえようと体ごと足を動かす。

 そんなジャックに構わず、喋りかけた。


「僕はリナリアのことが好きだけれど、リナリアは他の人…アラン兄様が好きなんだ」


 ジャックは必死にタワシを追いかけていて、こちらに見向きもしない。


「それまで一緒に食べていたリナリアの作ったランチも、僕が生徒会で忙しいのもあったけど、生徒会の仕事がない時もリナリアに用事があって一緒に食べられていないんだ。もしかして…アラン兄様と食べていたのかな…」


――リナリアの用事とは、大概先生に呼び出されて追加の宿題を言い渡されているせいである。

  この学園は、なんとか学園の名に恥じぬようリナリアをギリギリ淑女のラインまで持ち上げようと必死である。


「僕にアラン兄様に勝てる要素なんて何もないけれど…いつかは僕のことを見てくれると思う…?」


 ジャックがなーんと鳴く。

 まるで「まあ、いつかはな」と言っているみたいだ。

 少し勇気が出てくる。


「ありがとう、ジャック。

 でも、どうしたらリナリアに興味を持ってもらえるだろう?

 女の子が好きそうな男性を目指す…とか?

 アラン兄様の真似は出来そうもないし…」


 にゃっと手を動かさなくなった僕に怒るようにジャックが鳴く。


「あっ!!」


 僕は閃いた。

 どんな男性のどんなところが女性に好かれるのか、よく知っている人に聞けばいい。

 男性は…アラン兄様とアレク兄様、クリス殿下しか思い浮かばないから、アラン兄様は外してその2人に聞いてみよう。

 女性側の意見も聞きたいから、クリス殿下がよく話している人たちに聞いてみよう!

 何でも“色恋沙汰のプロ”らしい。


 早くタワシを動かせと足でたしたし僕を叩くジャックを他所に、僕は自分の名案に目を輝かせていた。


 それが悲劇の幕開けとも知らずに。

アレクシスのアルベルト観察日記

○月×日

今日、アルベルトはまたジャックになりやら相談していた。

内容は聞こえなかったが、何か良いことを思い付けたようだ。

良かった。

今日は天候と場所、時間帯が完璧で、アルベルトは本当に本当の天使でジャックが神の御使か何かで天に連れて帰ってしまうのではないかと焦ったほどだ。

あの日差しの加減はとてもよい。

アルベルトの良さを引き立てている。

おもわず太陽の位置と気温、湿度等を総合的に計算し、どういう場合に再現可能かパターンを組んでしまった。

しかし、アルベルトは最近ずっと悩んでいた様だけれど、どうにか相談してくれないものか。

アルベルトにお兄ちゃんとして頼られたい。

「どうかしましたか?」と聞いても「何でもないよ」としか言わないアルベルトが憎らしい。

いややっぱり愛らしい。

どうかアルベルトが悲しむことだけはありませんように。


------

明日も朝7時と夜19時にあげます。

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