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アルベルト2−1

 もうすぐ行われるダンスパーティーに、勇気を出してリナリアを誘った。

 だって婚約者だし、むしろ普通のことだし、そう自分に言い訳して、僕の瞳と髪の色に合わせたドレスを作って、贈った。

 生地を決めたりデザインを決めたりするのはとても楽しくて、デザイナーに「これ以上は工房の生地が無くなる」と言われるまで、試作品を作成した。

 ドレスが出来上がってきた途端、恥ずかしさが溢れ出てきて、こんなものをリナリアが着てくれる訳ないじゃないかと後悔した。

 だけど、アレク兄様が「婚約者なのですから誘わないというのは無作法です。それに、婚約者の色を入れていないと不仲だと思われますよ」なんて言うから、慌ててドレスと共に誘いのメッセージカードを贈った。

 後からやっぱり後悔した。


 けれど、リナリアからは「素敵なドレスをありがとう。ぜひこのドレスでダンスパーティーに行かせてください」と返事が返ってきた。

 嬉しくて天に昇りかけた。

 何年ぶりかの、リナリアとのダンスだ!

 しかも僕の色のドレスで!!




 機嫌良く、週明けに学園へ登校した。


 アラン兄様が生徒会を退任したから、本当はもう手伝わなくてもいいのだけれど、まだ僕は生徒会の手伝いを続けている。

 昨年一緒に手伝っていた第二王子のクリストファー殿下が生徒会役員になったし、来年3年生になったら僕も役員になることが決まっているからだ。

 生徒会役員には立候補でもなれるけれど、現役員の推薦でもなれる。

 有難いことに、現役員の先輩方が全員僕を推薦してくれた。

 既に業務を分かっていて、即戦力だからだろう。

 クリス殿下(畏れ多くもそう呼ばせていただいている)は「お前がいれば10人分の仕事振れるからな!私はとても楽ができる!」なんて気を遣って言ってくれる。

 そんな分かりやすくおだてなくても、ちゃんと仕事はするのに。


 その日も、クリス殿下と資料を持って廊下を歩いていた。


「機嫌の良いお前は本当に超人だな〜仕事が捗る」

「ふふ、面白い冗談ですね。ありがとうございます」

「冗談じゃないっていうのに。本当お前は自己評価が…ってあれ。アラン先輩と君の婚約者じゃないか?」

「え?」


 驚いてそちらを見ると、確かにアラン兄様とリナリアがいた。

 けれど、ただ歩いている訳じゃない。


 アラン兄様が、リナリアの手を握っていた。


「なぜ兄様が…リナリアの手を…?」

「ん?いやあれはただ引き摺られてるだけじゃないか?

 それにリナリア嬢の友人の令嬢もいるぞ…って聞いてるかアルベルト?アルベルト〜」


 クリス殿下が何か言っていたけれど、全て耳には入らなかった。

 ただただ、2人の繫いだ手しか目に入らない。

 何故?どうして?

 僕は呆然として立ち尽くし、気付いた時には2人はいなくなっていた。


「お〜い。大丈夫か?アルベルト」

「いえ…何でもありません」


 僕の顔の前で手を振っていたクリス殿下から顔を背け、生徒会室に戻った。

 その後、僕は心此処にあらずの状態で、今抱えている仕事を黙々と片付けた。

 仕事を高速で片付けて「さすがはアルベルト、これ2週間分の仕事だったのになぁ〜2時間で終わっちゃったな〜常人じゃないな〜」なんて心にもないことを暢気に言っているクリス様に、僕史上最速で挨拶をして生徒会室を出てきた。

「うわぁ〜早すぎて全く見えなかったな〜」と言う声が聞こえた気がしたけれど、そんな訳はないので先を急ぐ。

 仕事をしながら考えたけれど、もしかしたら僕の見間違えかもしれない。

 そうじゃなかったとしても、リナリアに聞けばきっと理由を答えてくれるだろう。

 だから、僕はリナリアを探した。

 すると、ちょうど正面入り口に向かう廊下の所で、リナリアを見つけた。

 逸る気持ちを落ち着けて、なるべく普通のことのように尋ねた。


「どうしたの、こんな時間に。何かあった?」

「えっと、あの、ちょっとね…」


 僕はショックを受けた。

 リナリアが教えてくれなかった。

 僕に言えないようなことなのだろうか。


「そっか。もう暗いから気をつけてね。馬車まで送ろうか?」

「あ、うん。ありがとう」


 始終無言だ。

 とても気不味い空気が流れている。

 何故?何か僕に隠し事?

 どことなくリナリアの馬車に乗るスピードが速い。

 いつもなら乗る前に、もう少し話をするのに…。


「それじゃあ、またね」


 リナリアが言う。

 ああ、何も聞けなかった。


「またね。気をつけて」


 僕は無理に笑顔を作った。

 リナリアが天使みたいって言ってくれた笑顔をなんとか作ろうとするけれど、上手くいかなかった。

 僕はとぼとぼと家に帰った。

 うっかりして馬車を置いて、歩いて帰ってしまった。

 あとで御者のベンに謝らなくては。


 それでもまだ僕は信じていた。

 まだ何か決まった訳じゃない。

 直接確かめるまで。



 しかし、意を決してアラン兄様がに何があったか聞いてみたら「あーうん。お前には言えない」と言われた。

 僕には言えないって何…?どう言うこと…?


 それから数日間、僕は悶々として過ごした。

 与えられた仕事もこなせないようじゃリナリアに釣り合える筈もないから、仕事も勉強も恙無くこなした。


 でも僕の頭は、リナリアのことで一杯だった。

夜19時にもアップします。

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