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8 アランの秘策

「いやー面白い!面白いぞリナリア嬢!腕が鳴るな!」

「ううう…」


そのまま個室サロンに戻ると、アラン様にぶっ続けで2時間踊らされた。

最早床に倒れてゼーハーしている。

学園の周りを10周走ってたアラン様は元気だけど。

目の前でスクワットしてるけど。



「リナリア嬢は筋肉が無い訳でも体が固い訳でもないんだよなぁ。

よし、今日のリナリア嬢の動きは頭に入れたから、明日までに特別メニューを組んで持って来てやろう!」

「え!?本当ですか!?」


私は目を丸くした。


「時間がないから完璧には無理だが、ダンス一曲分くらいならどうにか見られるくらいに出来るだろう」

「そ、そそそそんなことが本当に出来るんですか!?」


セシリアが心の底から信じられないと言う顔をしている。


「俺を誰だと思ってるんだ!任せろ!」


アラン様は太陽スマイルで、スクワットをしながら答えた。

私とセシリアは、「お、おう…」と流された。



とりあえずダンスのことはアラン様に任せよう。

とにかく今は疲労困憊。

早く帰って湯浴みして寝たい…。


2人に別れを告げて、伯爵家の馬車が待つ停車場へ向かう。

告げていた時間よりだいぶ遅れてしまった。

御者のダンはうたた寝でもしているんじゃないかしら。


フラフラと正門へ歩いていると、声を掛けられた。


「リナリア」

「ア、アルベルト…?」


驚くことに、そこにはアルベルトがいた。

今までどこに居たんだろう?やっぱり…シル美(仮)と一緒に居たのかな…。

アルベルトはいつもなら天使の笑顔を浮かべているのに、今は全くの真顔だ。

つ、ついに婚約破棄を…?

そう不安に思っていると、平坦な調子でアルベルトが尋ねる。


「どうしたの、こんな時間に。何かあった?」

「えっと、あの、ちょっとね…」


ダンスの練習とは言えず、はぐらかしてしまった。

思わず目線が下を向いてしまう。

アルベルトは何も表情が動かない。


「そっか。もう暗いから気をつけてね。馬車まで送ろうか?」

「あ、うん。ありがとう」


2人並んで、無言で馬車に向かう。

何だか少し気不味い。いや正直とても気不味い。

御者台で船を漕いでいたダンを力づくで起こし、そそくさと馬車に乗り込む。

まるでアルベルトから逃げるように。


座席に座り、開いた扉からアルベルトを見る。

やはり何も感情が見えない無表情。


「それじゃあ、またね、アルベルト」

「またね。気をつけて」


最後、アルベルトはほんの少しだけ笑顔を見せた。

いつもの天使の笑顔とは違う、とりあえず作ったというような笑顔だ。


ダンが、よろしいですか?と尋ねる声に、うん、と答えて扉を閉めてもらう。

そのままアルベルトの顔を見ずに、馬車は走り出した。


もう、私のことがどうでもいいから、ううん、それどころかもう煩わしいからなのかな。

見たことのないアルベルトの表情に落ち込む。

そうだよね、アルベルトからしたら私は邪魔者だもの。

私は馬車の中でひっそり泣いた。





翌日。


アラン様の作った特別メニューは、すごかった。

私のダンスにはあらゆる所に変な癖があるということで、むしろその癖を活かしてそれっぽく見せるという、逆転の発想だった。

これまで習っていたダンスのステップは全て忘れろ!と言われ、とてつもなく奇怪なステップを踏むと…なんと不思議!

今までとまったく違う動きをしているにも関わらず、今までの人生の中で一番それっぽく踊っているように見える!!

後日見せたダンスの先生など、驚きすぎてギックリ腰になってしばらくベッドから起き上がれなくなったくらいだ。お大事に。

セシリアも「え!?うそリナリアが人間のダンスをしているように見えるんだけど!?やだ、疲れてるのかな…」と自分の幻覚を疑っていた。


もちろん、そんな裏技ステップだから、一曲しか出来ない。

でも、これだけ出来れば十分だ!


「あ゛り゛がどゔござい゛ま゛ず〜」

「ははは礼には及ばないよ。だからちょっと離れてくれるかな、リナリア嬢」

「ア゛ラ゛ン゛ざま゛ズビッのおがげでず〜〜」

「分かった!分かったから服を離してくれっ!あっほら!鼻水がっ…!!」


セシリアがアラン様にハンカチを差し出す中、ここが学園の中庭であることも忘れ、私は縋りつきながら感謝を述べていた。

アラン様は私の恩人だ。

3代くらい先までの健康と幸運をこれから毎日神に祈ろう。


「スタンフォード様はご自身がお上手なだけでなく、人の動きを覚えて解析する力まで優れているのですね。本当に素晴らしいですわ。わたくし感動いたしました」

「シプリー嬢、お褒めに預かり光栄だ。

どうかアランと呼んでくれ。アルベルトと混じって分かりにくいからな。

あとついでにリナリア嬢を引き剥がしてくれると助かる」

「畏まりましたアラン様」


ベリッと音がする勢いでセシリアが私をアラン様から引き剥がす。


「とにかく、これで今度のダンスパーティーは頑張って。応援しているよ」

「あ゛り゛がどゔござい゛ます〜」

「うん、もう分かったから、十分伝わったから、ね、頑張って!」


アラン様はいつもの太陽スマイルを若干歪ませて、ジリジリ下がっていった。

そしてバビュンッというおよそ人間から発せられたことのない効果音と共に、目にも止まらぬ速さで去っていった。


「リナリア、見直されるかどうかは分からないけど、やれるだけやったんだから。あとは自信を持ちなさい」

「うん、ありがとう、リア姉様」

「いつの間にか姉妹設定付けるのやめて」


セシリアに背中を叩かれつつ、中庭を後にする。


その後ろ姿を、アルベルトが茫然と見つめていた。

明日はアルベルト視点を2話アップします。

朝から7時と夜19時の予定です。

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