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7 太陽の申し子

誤字報告ありがとうございます!

「それで私の前に土下座しているのね、リナリア」

「セシリア先生だけが頼りです!」


 月曜日、私は昼休みの食堂でセシリアに土下座をしていた。

 セシリアは勉強だけでなくてダンスも優秀だ。

 クラスのダンスの授業では、いつもアルベルトと一緒に見本として踊っているらしい。

 羨ましい!

 なんで伝聞かというと、私はダンスの授業に出ていないからだ。

 私のダンスの講師の先生が「お嬢様のダンスを見続けると狂人になる!私のようにな!ふははは!」と学園に猛抗議し、え、モノホンのアレじゃん…となって特例措置で私だけ別メニューになっている。

 クラスメイトたちには、家訓でとか何とか適当に言っているらしい。

 そんな家訓あるかい。

 それで私1人だけ個別授業になっているのだけれど、先生が次々に辞めていく。

 最後は大体「もう勘弁してくれ」と懇願される。

 無念。


 そんな訳で、私のダンスは講師の先生頼みだけれど、講師の先生がちょっとアレになってきて心配なので、セシリアにも教えてもらうよう頼んだのだ。


「とっとと立ちなさい恥ずかしい!

 スタンフォード様は本当にお上手だから、リードして貰えばどんなに下手な人でも大丈夫よ。

 聞いたところ練習はきちんとしているようだし、大袈裟なのではないかしら。

 まあ見てみなければ分からないけれどね。

 良いわ。放課後に個室サロンで練習しましょう」


 学園には少数のグループで貸し切れる個室サロンと言われる部屋が大小いくつかある。

 そこでお茶会をしても良し、勉強しても良し、ダンスを練習しても良しなのだ。


「ありがとうございます!さすがはリアリアシスターズ☆!」

「やめて」


 そして放課後、2人で個室サロンを借りて練習することにした。

 セシリアの教え方は上手いと聞くし、きっと大丈夫だわ。








「無理!なんなの!?逆にどうやったらそんな動きになるの!?頭から吊るされた亀なの!?私には無理!」


 また人間から遠ざかった。ちぇ。


「そんな…リアシスのよしみで…」

「略すんじゃないわよ」


 練習の開始から30分。

 私は早々にセシリアに匙を投げられた。


「もうダンスを教えるとかいうレベルじゃないわ。そういうのは人間になってから言って頂戴」

「ええ…」


 個別サロンを出て、食堂でお茶を飲みつつ項垂れる。

 向かいに座るセシリアが頭を抱えている。

 セシリアにまでそう言われるとは、私こそモノホンのアレなのかもしれない…。


 紅茶をちびちび口に運びつつ落ち込んでいると、アルベルトの2番目のお兄様、アラン様が通りかかった。

 短く刈り上げた金髪に、逞しい体躯。

 輝かしい笑顔は太陽もかくや、と評される。

 アルベルトの天使スマイルとは違う意味で眩しい。

 そんなアラン様は今年最高学年。

 生徒会の役員は第5学年で終了だから、もう今年は退任している。

 だから以前より暇があるのは確かだろうけど、何故か運動着姿で、タオルで汗を拭っている。


「あれ、リナリア嬢じゃないか。こんな時間にどうしたんだ?

 ああ、こんな格好で申し訳ない。ちょっと勉強に飽きてね、軽く学園の周りを10周してきたんだ」


 そして繰り出す太陽スマイル。

 驚くほど爽やかな笑顔で言っているけれど、軽く学園の周りを10周って何?

 この学園広いんですけど?

 地方の小さな町がすっぽり収まるくらいなんですけど?


 とりあえず私は“たろいもスマイル”を繰り出しながら、セシリアと立ち上がってカーテシーをする。


「ご機嫌よう、アラン様。

 実は今度のダンスパーティーに向けてダンスを練習していたのですけれど、上手くいかなくて…」

「それでそんなに眠そうな顔をしているのか?

 それならアルベルトと練習したらどうだ。あいつもなかなか上手いぞ」

「いえ、いけません!」


 アラン様がそう言った瞬間、思わずというようにセシリアが叫んだ。


「ええと、君はシプリー子爵家の…」

「急に申し訳ございませんでした。わたくし、シプリー子爵家が次女、セシリアと申します」

「ははっ。そんなに正式な形を取らなくても大丈夫だよ。学園は皆平等だ。どうか普通に」

「はい、ありがとうございます」


 そこで、私たちは一旦席に着くことにした。

 セシリアは私の隣に移動して、アラン様は私の向かいに腰を下ろした。


「それで、アルベルトと練習するのがいけないっていうのは、どうして?」

「いえ、あの…今度のダンスパーティーにアルベルトと出るのですけれど、その、アルベルトに見直して頂きたくて…。だからアルベルトには内緒で練習したいのです」


 言葉を濁しつつ私が言うと、セシリアが隣でボソッと呟く。


「私は今のリナリアのダンスをスタンフォード様に見せたら、そこで試合終了だから見せたくないんだけど…」

「セシリア、何か言った?」

「いや、何でも」


 アラン様は腕を組んでうーんと悩んでいたと思ったら、良いことを思い付いたというように手を打った。


「じゃあ、俺が教えるよ」

「え!?いいんですか!?」

「いけません!駄目です!リナリアのダンスは次元が違うんです!!

 ダンスだとかダンスじゃないとかのレベルじゃないのですわ!」


 セシリアが必死の形相で引き留めている。

 あまりの必死さに私のダンスを見ると呪われたっけかな?と勘違いするレベルである。


「そんなに?逆に気になるな。可愛い弟の婚約者のためだ。是非やらせてくれ」


 そう言うや否や、アラン様は歩き出した。


「善は急げだ!個室サロンに行くぞ!」

「え!?今から!?」


 はははと爽やかな笑い声を上げるアラン様に引きずられながら個室サロンに戻る。

 セシリアも道連れに引きずっていく。



 そんな私を、じっと見ている瞳があることには気付かなかった。

明日も19時にアップします。

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