1 これが恋かしら
前作の「後悔先に立たずというけれど」を多くの方に読んで頂き、ありがとうございました!
今回はギャグ要素強めでいきたいと思います。
雰囲気はだいぶ違うと思いますが、よろしくお願いします。
大好きだった。
あの天使の様な笑顔が、たまらなく。
その笑顔は今、私ではない人に向けられている。
私と違う、黒くて美しい真っ直ぐな髪。
もう疲れた。
もう諦めよう。
私はそう思った。
これで6回目。彼の浮気は。
もう涙も枯れ果ててしまった。
だから言った。
「もう、婚約破棄しよう」
――――――――――
私、リナリア・シーブルックが彼と婚約したのは11歳の時。
シーブルック伯爵家の一人娘として生まれた私は、いずれは家にとって都合のいいどこかの誰かに嫁ぐのは、分かっているつもりだった。
けれど私は、恋に憧れていた。
物語の中の女の子は、その結末が幸福でも、悲しみでも、いつも素敵な恋をしていた。
(恋ってどんな感じ?
ふわふわしたり苦しかったり楽しかったり…色々聞くけど、どれが本当なの?)
一度でいいから恋をしてみたい。
そんな風に恋に恋焦がれていた時、ついに婚約者が決まってしまった。
「スタンフォード侯爵家が三男、アルベルト・スタンフォードです。よろしくね」
恋への未練から前日まで嘆き悲しんでいたけど、彼が挨拶した瞬間に全ての悲しみは吹き飛んでしまった。
だって、私は恋をしたから。
美しいサラサラの真っ直ぐな髪を低いところで一括りにしていて、結んだ先を前に垂らしている。
青みの強い緑色の瞳は、まるで美しい海みたい。
にこりと微笑んでいる姿は、教会の壁画に描いてある天使様かしら…?と真剣に悩んだほど。
とにかく、なんて綺麗な子なんだろうと思った。
私と同じ11歳のはずなのに、なんだか少し大人っぽく見える。
「あの、えと、リナ…あ、いや、シーブルック伯爵家が長女、リナリア・シーブルックと申します。
わ、私こそよろしくお願い致します」
その時の私はガチガチに緊張していて、言葉が上手く出てこなかった。
それがとても恥ずかしくなって、顔を真っ赤にして俯いてしまった。
するとアルベルトが、そんな私の顔を覗き込んできて私は更に顔を赤くした。
「ねえ、もし良かったら、リナリアって呼んでもいい?
僕のこともアルベルトって呼んでほしいな」
「は、はい。えーと…アルベルト様…?」
「様もいらないよ。爵位も気にしないで。
だって僕らは婚約者なんだから」
始終にこにこと天使の笑顔を振りまいていたアルベルトを、私は眩しく見ていた。
どう考えても、私と彼は釣り合わない。
瞳は翠色で気に入っているけれど、この髪。
色は平凡な茶色だし、どんなに頑張って梳かしてもうねうねして真っ直ぐにならない。
この髪が大嫌い。
全体的に見れば、まあ見られなくもない容姿をしているけれど、この髪で芋さ大爆発。
壁画の天使様とは雲泥の差だ。
それに私は、色々と、なんというか不得手なことが多い。
お勉強もダンスもあまり上手じゃない。
それでも、彼に相応しい人間になって、きっと彼にも、私に恋をしてもらおう。
そのための努力は惜しまない。
そう決意した。
読んでいただきありがとうございました!
ストックがある分は、毎日あげていきたいと思います。