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第11話「レナート・アッパティーニ」

 降臨暦942年10月27日 未明


 陸の決戦に先立って、海上では既に大規模な戦闘が行われていた。

 と言っても、大量の偽情報に幻惑された帝国派海軍は、大公派の奇襲を察知出来ていなかった。

 無防備にも少数編成で哨戒行動を行っていた旗艦〔コンテ・ディ・カブール〕は現れた大公派の第3遊撃艦隊の攻撃を受けてゆっくりと海上に没しつつあった。


 大公派はごく少数ながら、最新型の〔ルンガ・ランチャ〕魚雷を運用していた。これは日本の〔酸素魚雷〕と英国の〔トーペックス爆薬〕を組み合わせた超絶兵器である。威力・射程共に史上最強、しかも気泡を出さないので回避が困難と言う極めて厄介な兵器であった。

 ただ、純酸素の管理が極めて難しく、従来型の魚雷と併用されているのが現状ではあるが。

 第3艦隊旗艦であり、大公派が現在動かせる唯一の戦艦である〔カイオ・ドゥイリオ〕が引き付けている間に、忍び寄った駆逐艦がこれを撃ち込んだのだ。

 設計の古い〔コンテ・ディ・カブール〕は右舷に一発の魚雷を受けただけで戦闘力を喪失してしまった。

 こちらの被害は重巡洋艦〔ザラ〕が副砲1門を使用不能にされたのみ。きわめて軽微と言って良い。

 〔カイオ・ドゥイリオ〕も設計は古いが、日伊ク3国が合同で「旧式戦艦の近代化改修試験」のテストベットとして選ばれ、ソフト・ハードと共に別物と言って良い程改修されている。主砲の口径こそ同じであったが、発射速度や、射撃指揮装置の性能が隔絶しており、〔ルンガ・ランチャ〕無しでも勝負にならなかっただろう。

 もっとも、本艦は「旧式にしては」破格の性能を示しはしたが、改修にあまりにも金がかかりすぎる為、計画は凍結。同型艦のうち改修が行われたのは本艦のみであるが。

 戦艦を1隻しか持たない第3艦隊は、この方面で帝国派が保有する戦艦2隻と同時に戦う事を恐れていたが、これで懸念は払拭された。




「レナート提督、そろそろ朝日が出ますが、攻撃は続行されますか?」


 喜色満面合な壮年の参謀長に、レナートは(うちの参謀も妙齢の女性だったらなぁ)などと極めて不謹慎な事を考えていた。


「君はどう思う?」

「今から陣形を修正して湾内に突入すれば脱出は朝になります。航空機の攻撃を考えれば、ここで引き返しても良いかと。戦艦1隻なら戦果として十分と思われますが?」

「いや、不十分だよ」


 レナートは頭を振る。


「堅実は美徳だけど、確実に戦果が上がるのに少々のリスクを恐れる程、大公派は優勢にない」

「と、言いますと?」

「奇襲には成功したんだ。トダス軍港はパニックの筈。わざわざ襲撃前に陣形など立て直す必要は無い。バラバラに突入して適当に砲弾を撃ち込み、離脱してから再集結すればいい。そこまでやれば、明日の決戦で帝国派は海上を警戒しながら陸戦を行う事になる。とっとと逃げてしまった我々の影に怯えてね。仮に本艦が沈んでも、代償にルスドア市を落とせればお釣りがくる」

「潜水艦の攻撃はどうされます?」

「イタリア艦の売りは高速性能だよ? 油にも余裕はあるし、対潜哨戒機が来てくれるまで、それを発揮してもらおうじゃないか」


 無茶な戦法ではあった。通常艦隊の対潜防御は、駆逐艦が大型艦をぐるりと囲み、ソナーで潜水艦を警戒しながら進む。

 それを陣形を無視して突っ走ってしまえと言う訳だ。20ノットも出せば鈍足の潜水艦は魚雷の射点につきにくい。

 だだ、経済速度を無視して進む事になり、機関にも連続運転で無理をさせる事になるので、コストパフォーマンスは最悪の一言であるが。


「成程、流石の決断力ですな」


 称賛する参謀に「いや、今回は特別だよ」とすまし顔で言う。


「何しろ、兄さんが指揮を執るんだからね」


 そうは言ったものの、海軍に比べて、陸軍の戦力不足は深刻である。

 もともとあった海軍偏重の風土が、ボディーブローの様に戦力増強の足かせとなっているのだ。ルスドアを本当に落とせるかは、竜神のみぞ知る。

 だが、それでも悪い事にはならないと思っている。兄が「何とかする」と言った時は「何とかなってしまう」からだ。


 レナート・アッパティーニとって兄アルフォンソは、同志であり、目標であり、そして一生かけて超えるべきライバルであった。

〔ルンガ・ランチャ〕は酸素魚雷の渾名である「ロングランス」をそのままイタリア読みにしただけの極めて安直な命名です。

レナートとイタリア艦の活躍が書きたくて、全話執筆後に追加したエピソードですが、登場兵器がマニアックすぎましたね。

ホームページの方で設定を開陳しています

https://jyushitai.com

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