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第四話 ちょっとした出会い

 冒険者ギルドに向かうべく、俺はもう一枚の地図を頼りにスラム街の外へ出た。何か言われるやもしれん、と身構えていたがどうやらなんとも無いらしい。道ゆく人々は奇異な俺に対して見向きもせずに通り過ぎていく。


「(なら…まだ好都合か)」


 俺も人目を気にすることなく地図を見ながらギルドの方へと歩いていった。

 結局、何もイベントらしいイベントも無く無事に冒険者ギルドへと辿り着いてしまった。


「にしても…」


 こういう施設は大きい。大人数を入れれるようにする為とは言えこれは大きすぎやしないだろうか。この世界に落とされてから、建物の大きさに驚いてばかりだ。

 なんて思い、呆然と突っ立っていると、後ろから肩を叩かれた。

 後ろを振り向くと、顔に傷を持った快活そうな男が立っていた。…誰だこいつは。


「お前、珍しい格好してんな。別の国の奴か?」

「あ、あぁ。そんな所だ」

「ふーん。で、ここに居るってことはギルドに登録って感じかな?」

「ああ」


 頷くと彼もうんうんと頷き、俺の肩に再び手を回して笑いながら言ってきた。


「おー、そうかそうか。なら俺がついてってやるよ。さっ、行こうぜ!」

「ちょっ、おい!離せ!歩きにくい!」


 俺は名前も知らない奴に引き摺られるようにギルドの内部へと入っていくのだった。


 中は少し臭っていた。臭い…なんというか、色々混ざってごちゃごちゃになった臭いだ。


「こっちだ」


 俺はその臭いに少し気分を悪くしつつもそいつの案内に従った。当然男にもその気分の悪さが分かったのか、酒場と繋がっているらしく皆はそこで飯や酒を飲んだり食ったりしてる為にこのような臭いになっているのかもと言っていた。成る程な。

 程なくして俺達は受付に辿り着いた。

 受付嬢は俺の姿をチラリと見て、すぐに笑顔で応対してくれた。


「こんにちは、申請でしょうか?」

「あぁ、はい」

「では此方に手をお(かざ)しください。この石板が光ったら離してもらって大丈夫です」


 俺は頷き、薄い肌色染みた石板に手を翳した。すると、段々と光量が増していき、発光し始めた。


「はい、大丈夫ですよぉ。では暫くお待ち下さい。後に名前をお呼びいたしますので」

「はい」


 簡単なギルド登録だ。こんなんで良いのか。

 そう思いながらも、俺は男に食堂に無理くり連れて行かれ、飯と酒を馳走された。

 出会ったのもなんかの縁だし、との事だ。ありがたく貰っておこう。

 俺は粥のような飯を見ながらふっと漏らしてしまった。


「ここの飯は精白されていないのか」

「精白?なんだそりゃ。この国じゃあその茶色い米が主流だぜ。まぁまぁ食ってみろよ」

「あぁ」


 そう言われて口にしてみるとすぐに分かった。玄米だ。そういえば、故郷では玄米だったか。懐かしいな。

 粥も何処か懐かしくてつい頬が緩む。

 昔作ってもらっていた粥にそっくりだ。


「おい、おい。どうした?」

「ん、いや。なんでもない」

「そろそろ終わるんじゃないか?」

「カンザキさーん。受付までお願いします〜」

「ほれ、行ってこい」


 飯を食っていると、受付嬢からお呼ばれされたので、取り敢えず席を立って再び受付へと出向いた。

 受付嬢はなんとも言えない顔のままこう言った。


「カンザキさん…あのスラム街に住んでるって本当ですか?」

「はい。本当です」

「……では正当な報酬は得られないかもしれないのは分かっていますか?よろしいですか?」

「はい、元より承知の上です」

「わかりました。では…えっとですね。もう一つなんですが…こちらです」


 そっと出してきた物は黒い物

 受付嬢はこれをギルドカードと言っていた。

 しかし、という言葉を付け加えて。


「このギルドカードは各々が産まれ持った『異常特質』が色として出る様になってるんですが…その、黒というのは見たことがなくて、どういう異常特質なのかも分からないんです」

「成る程…」

「なので、また何かあったらお申し付け下さい。その時にギルドカードの更新を行います」

「はい」


 やはり此処でも異常特質という単語が耳に入ってきた。ダレンのあの言い方的に天賦の才のような物だろうか。なるほどな。

 その後は具体的なギルドの仕組みや依頼の受注条件、ランクの存在について聞いた。

 これらは後々説明しよう。

 俺は再び男の座っている席へと戻って、取り敢えず一息ついて椅子に座った。

 すると、男はずいっと顔を近づけてきた。近い。

 俺が顔をしかめていると、男はワクワクしたような声音で聞いてきた。


「それで、何色だったんだ?」

「な、何が…?」

「カードだよ!ギルドカード!毎回毎回新人のギルドカードが何色になったのか見るのが俺の楽しみでさぁ。で、何色だったんだ?」

「……ん」


 懐に入れたばっかりのギルドカードを男に差し出す。彼はそれを受け取ってから、嬉々とした表情から一転して困惑顔になった。


「んん?黒、か。……ん〜?これまた初見だなぁ。異常特質なんだろな…うーん。でもまあ、他のよりかは綺麗だしいいな」


 そう言ってギルドカードを返してきた。異常特質…生まれ持った才能の様な物。もうちょっと情報が欲しいな。この男に聞いてみよう。


「悪いんだが、異常特質について、少し教えて欲しい。常識過ぎて調べようがなくてな」

「ん?あぁ、良いぜ。異常特質ってのは─────」


 説明は長かったがそれなりに分かりやすかった。

 まず、生まれ持った才能、ではなく、人間誰もが備わっている眼、四肢、筋肉などのあらゆる部位の内一つが異常発達した物が特質化した物。それが異常特質らしい。

 足が特質化した人の場合、他人の数倍の速度で走る事が可能だったり、眼が特質化した場合、相手の急所を見抜いたり、肉眼で二つ山の先を見通せたりと中々便利だったり不便だったりする物だそうだ。

 こう思うとそういうのが存在しない俺は中々良いかもしれない。

 あと、ギルドカードにはその特質に合わせた色が反映される様だ。普通は単色だそうだが、彼の物は混合色になっていた。

 また、そんな異常特質をしっかりと扱える様に武器はそれぞれの特質に合う様に作られるらしい。何かしらの条件達成で能力が発揮されるような武器もあるそうだ。

 ここら辺はどうでも良いか。


「ていうかよ、なんでそんなもん知る必要があるんだ?」

「ん?いや別に…」

「なんだよ!説明だけさせといてそりゃねえぜ」

「まぁ、タメになって感謝してるから許してくれ。ちなみに、お前の特質はなんなんだ?」

「ん?俺は体だ!生半可な攻撃じゃ傷にならねえ。それに傷になったとしてもすぐ治る。まぁまぁ便利な特質なんだこれ!」

「ほー…そういうのもあるのか」


 一部一部ではなく大まかな部位まとめて、ていうのもあるのか。分からん…。

 まぁ、過ごしていくうちに分かってくるだろう。なんて思っていると男はあっ、と声を上げて俺に言ってきた。


「そういや、まだ名前も名乗ってねえや。俺はガウリィ。家名は伏せとくわ。宜しくな」

「神崎だ」

「カンザキ?さっき聞いたけどやっぱ不思議な名前してるよな。ま、いいか。そうだ、お前俺んとこ来いよ。丁度一枠たりてなかったんだよ」

「?」


 何の話だろうか?


「パーティだよ。ソロでも良いがパーティ組んだ方が安定もするし何より楽しい。丁度ランクも組めるぐらいの差だし、な?」

「なるほどな…。良いだろう。因みに報酬金はどれほどだ?」

「ん?そんなもん皆で山分けだ。当然だろ?」

「決定だ。入る」

「おう、そうこなくちゃな!」


 報酬金山分け、報酬金を受け取るのはリーダー格、その後で分けられる。つまりデメリットが無くなる。良条件じゃないか。

 入るしか無いだろう、そんなの。

 それから俺はまた酒を一杯、奢られた。昼間から飲む物も中々悪くない。

 その後でガウリィとパーティ登録をし、依頼を一つ予約して、街に繰り出し、遊んだ。何故か結構意気投合している。こいつは昔の友人に似ている…気がするからだろうか。


「んじゃ、また明日な。明日はパーティメンバーも紹介してやるから!」

「おう。では」


 気付けば夜。俺達は準備もあるから、と丁度、スラム街と商業区の狭間で別れた。俺はそこに住んでる事がバレない様に彼の姿が見えなくなってからスラム街へと足を踏み込んだ。やはり空気が変わる。夜とて賑やかな商業区とは一転、突き刺すような静寂が襲う。


「初めは好調だ…いつか、必ず…」


 俺は遠い未来を夢見ながら、家へと帰宅する。この街の繁栄もきっと、異形の彼女が言っていた天晴門に繋がっている筈だから。


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