第三話 その街、城砦の如く
ダレンは話をしていくうちにどんどん乗り気になっていった。彼曰く、最初管轄を任された時は改善しようと試みたが、街の住人の非協力的な態度と資金面で悩まされて挫折。今に至ったらしい。だから元々は街を変えようと努力しようとした人間だったのだ。
「取り敢えず、自分の住む場所を確認したらギルドの方に登録しにいってください。その時にスラム街での話はしない様に」
「わかった」
「あぁ、待ってください」
「なんだ?」
俺が出て行こうとすると、ダレンが止めた。
俺は振り向いてそれに応対する。
「お名前を」
「あぁ。えーっと…カンザキでいい」
「カンザキですね。ふむ…。わかりました。それでは、よろしくお願いしますね」
「あぁ、此方こそ」
そう言って俺達は別れた。正直最初がこれなら幸先がいい。最初はハズレかと思ったがそうでもないかもしれない。俺は女に木刀を貰ってから一礼をして外に出た。
すると、さっきの連中が集まってきていた。
「お前たちの仲間入りだよ」
「マジかよ…」
「退いてくれ、俺は家を見に行く」
「お、おう…」
渡された地図通りに進んでいくとこれまた汚れた建物が現れた。見た感じ、集合住宅のようだが。上はまだ骨組みだけで出来ていないように見える。
一先ず入ろうとすると、またもや道を塞がれた。さっきから塞ぐのが好きなのだろうか。
「なんだお前…見ない顔だな」
「今日からここに住む。カンザキだ」
「カンザキ…はーん。分かった、空いてる部屋に適当に入っとけ」
「そんな適当なのか?」
「当たり前だ、仕切る扉もねえからな。壁はかろうじてあるが。さっさといけ」
「あ、あぁ」
……想定はしていたもののそれを上回る酷さだ。まさか、扉すら無いとは。
中に入ると、細長い廊下が続いていた。案外奥行きのある建物らしい。
「……臭いな」
奥へ奥へ歩いていく毎に少しツンとした臭いが鼻に来るようになった。
何かと思って空き部屋を気にせず何故か明るくなっている突き当たりまで歩いていくと、そこでは。
「なっ…!?」
「ん?なんだ?」
上の階が無い階段の一番上で、小便をバケツに垂れ流している男が一人。
俺が絶句していると、男はあぁ、と納得した様に小便を出し切ってからモノをしまってこっちに向き直ってきた。見るな。
「よっす、新入り!こっちから先は無いぜ!」
「……何をしてたんだ?」
「ん?あぁ、コンクリートを作ってたんだ。んで、水が足りねえもんで、小便で代用しようとな。丁度催したし!」
「コンクリート?」
「あれ、知らない?んー…まぁ一階部分の壁は全部コンクリートだ。石よりは全然良い」
「はあ…」
よく分からない物質を聞いた。後で調べて見るか。どう調べるかは後で考えよう。
「要するはお前は増築をしているのか」
「そういう事だ。まぁ、俺一人だし材料も少ねえし雑にはなるがな。人が多くなって住めなくなるよりは良い。だから集合住宅に一人は俺みたいな奴がいて。どんどん増築をしていくんだ。上がってきて見てみろ」
「………ん」
まだ余り乾いていないのか、ぐっちゃぐっちゃと音を立てる階段を登り、住宅のまだ出来ていない、二階の部分に出た。その時に俺は目を疑った。
「な?すげえだろ?」
「言葉が出ない…」
見上げれば空が狭く感じる。辺りに広がる巨大な建築物群。この建物も大きいとは思ったが、比にならない。外側から見れば、まるで城砦だろう。
「あんなに高え建物になっても増築を続けている。つまりそういう事だぜ」
「……成る程な」
「此処は新しい。まだ空き部屋も残ってる筈だからさっさと入らないと取られるぜ?」
「わかった」
そう言われたので、俺はそこで話を閉じ、下へと降りた。そして、扉の無い一室を一つずつ見ていく。
どれもこれも狭いが、汚くは無い。壁も床も無機質な感じで味気ない。まぁ良いだろう。
俺は適当な空き部屋へと入り、少しばかり休むことにした。
「うん…。部屋は良いな。……よし」
俺はほんの少しだけ休憩を取ってから、再度外へ出た。今日はもう一つ行かなくてはならない場所がある。
冒険者にならなければならないのだから。