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第二話 荒廃した街に落とされて

 俺の事を怪しそうに見てくる人々。男、女、子供。いる人物はまちまちだ。しかしそれらは一括して皆、みすぼらしい服装をしていた。


 このままでもなんなので、一人の老いぼれに近づいて、顔を近づける。老いぼれは俺のそんな行動に驚愕したようで、その場から一歩退いた。


「おい、二つくらい聞きたい事がある」

「…?」

「俺の言葉が分かるか?」


 聞こうとしたことの内の一つは俺の言葉が通じるかだ。それは新天地に着いたらまず行わなければならない大前提条件だ。言葉が通じなければそれ以降の事が出来ないからな。


「あ、あぁ…分かる。分かるぞ」

「そうか、なら良い。次だ。此処は何処だ。此処がどのような場所で、どの場所に位置しているのか言え」


 二つ目は地理。その場所を知らなければ動けない。とはいえ…大方帰ってくる返答は把握出来るが。


「此処はニヴェールのスラム街だ。人生の敗北者共が集まる終着点。冒険者区の東端に位置している。お前さんがどこから来たかは知らんが、不運なこったな」

「全くだ。とはいえ助かった、感謝する」

「あぁ、分かったら国の奴らに気づかれる前に早く此処から出ろ」


 ん…?


「何故だ?」

「スラムの人間だと気付かれたらギルドにすら登録出来ない。ろくな稼ぎも出来やしない。儂等みたいに路上に屯い野垂れ死ぬんだよ」

「……成る程な。ならば俺をこの荒廃した街を管轄している奴の所に連れて行け」

「は?」


 老いぼれはきょとんと間抜けな面を浮かべた。理不尽な扱いで此処に落とされたんだ、さらに苦難な道に進むのも、悪くはないだろう。


「お前さん、何を考えている?」

「此処に定住する。そして、お前達を救済する」

「はぁ!?」


 辺りの人々も驚愕に包まれていた。当然だろう。

 こんないきなり現れた得体のしれない人物が、いきなりお前達を救ってやるって言ったのだから。

 何処からか出てきた汚れた男が掴みかかってきてこう言った。


「話を聞いていたのか?何も得られないんだぞ、此処では!」

「だから救済すると言ったんだ。お前達だって気付いているだろう。この理不尽、不平等な扱いに。心底嫌気がさしているんじゃないのか?」

「だからって、なんでそんなに簡単に言うんだよ!突然現れたらいきなり…俺達の事も分かっちゃいねえで分かったふりして、救済するだと、ふざけるな!」


 そう言われ、俺は着物の襟を掴む男の腕を掴んで言い返した。


「簡単ではないだろうな。だがこの荒廃した街とその住民の扱いと態度には納得がいかん。なぜ差別する。何故同じ物を下に見るのだ。何故下に見られたままでいるのか。俺は、それが、理解出来ない……っ」

「ぐっ…!?」


 ギリギリと掴む力を強くしていく。男はその痛みに耐えきれず、すぐさま手を離した。

 そしてそのまま膝をついた男を見下ろし、言う。


「分かったら連れて行ってくれ。俺は定住権を得る」

「ちっ…後悔しても知らねえからな…」


 半ば強引だが、男は了承して管轄者の所まで案内してくれる事になった。

 管轄者が居るとされる施設はこの街の中では比較的綺麗な造りの建物で、少し気圧された。

 案内してくれた男はすぐさま何処かへと帰っていった為、今は俺一人で建物を見上げている。

 取り敢えず中に入ろうと入口へと足を踏み入れようとすると、明らかこの街出身でないであろう横に立っていた女性が道を塞いできた。


「あの、何かご用ですか?」

「あぁ。此処の管轄者に少し話をしにきた。通してくれないだろうか?」

「……でしたら、そちらの剣…?いえ、木剣ですね。それを此方に預けて下さい。暴れられると困りますので」

「承知した」


 俺は腰にずっと差してあった木刀を彼女に渡した。受け取った女性は予想以上の重さにびっくりしたのか、目を見開いていたが、すぐさま平静を取り戻し、俺を中へと入れてくれた。

 長い廊下を見たこともない装束の女性の後ろを付いて歩く。俺は少しだけ質問をしてみた。


「突然だが、お前は、この街をどう思う」


 そんな質問に女性は此方に振り向く事なく、淡々とした口調で答えてくれた。


「そうですね、とても頽廃的で、荒廃した街だと思います」

「直そうとは思わないのか?」

「えぇ。ダレンさんなら或いは…と思いますが彼も今はそのような気持ちは無いようですしね」

「そいつがここの…」

「着きましたよ」


 そう言って彼女は一つの扉の前に立ち止まった。そして、扉を優しく三度叩き、『お客様です』、と一言言うと、『入りなさい』という短い言葉が中から聞こえてきた。

 彼女はそれを聞いて頷き、促すようにして扉を開けた。扉の奥には鎮座する人が見える。


「ほう、これはこれは、面白そうな人が来たものですね」

「……」


 中に入ると、眼鏡を掛けた端麗な中年の男が正面に座って微笑んでいた。


「私はダレン。この街の管轄者です」


 男はすぐに名前を言った。そして俺を見るなりくすりと笑い俺を椅子に座るように促した。俺は促されるままに椅子に腰掛け、最高の顰めっ面をしてやった。


「どうしました?」

「いや…面白そうな人とはどういう意味だと思ってな」

「あぁ、ははは。そのまんまの意味です。その容姿的にここの国の人じゃないでしょう?貴方。そんな人がわざわざこんな所に来るなんて、どうかしてると思いませんか?」


 ダレンと言う男は実に愉快そうに笑った。こいつの言ってる事は正しい。確かにこの格好であれば異国の人間と言われても仕方がないだろう。まぁ正しくはないが。


「まぁそういうことです。ところで、どういう了見でしょう?」

「この街の住人から、お前がここらを管轄しているという話を聞いてな。定住権を貰いに来た」

「定住権…ですか?はぁ……そんなの別に必要無いんですけどね、ここでは。だから私に直接言わなくても、そのまま住んでもらえれば構いませんでしたよ」

「そうか。ではもう一つ」


 どちらかと言えばこっちが本題だ。

 俺は迷わず、それを口にした。


「ギルドというものがあるそうだが、そこは俺でも働けるか?」

「えぇ、ですが此処に住む以上あまり良い扱いはされません。報酬金の減額など普通にありますし」

「身元が割れなければ良いのだろうか」

「えぇまあ。それよりも先に…貴方はそれを知って何をしたいんですか?」


 あとから言おうとしていたのだが、あちら側が先に聞いてきた。なら話が早い。さっさと切り出してしまおう。


「俺はこの街を見て、少しでも良いから改善したいと思った。だから俺は働いてお前に金を渡すから、それでどうにか出来ないだろうか?」

「…………はぁ。本当に面白い人だなぁ」


 彼は溜息を吐きながら姿勢を崩しながらそう言った。彼的にもそんなのは不可能に近い。馬鹿な考えだって思ってるだろう。

 確かにそうだ。俺の言ってる事は本当に馬鹿だと思う。

 しかしダレンは俺の想像以上のことを言ってきた。


「この街は荒廃しきって、頽廃的な空気に満ちてます。それを改善するなんて夢のまた夢の話ですよ。ですけど、別に協力しないってわけではない。この街の管轄者としてそれなりの助力はします。さっきの言い合いを聞いていた感じですと、本気でそうしたいと思っているみたいですし」

「!?」

「貴方が諦めないと此処に誓うなら。私は貴方が有利に動けるように色々と根を回しましょう」

「ちょっと待て…!言い合いっていうのは…」


 聞こえて居たのか。あいつらとの話が。おかしい、此処から、しかも室内から聞こえるはずがない。

 俺が少しだけ困惑していると、男は自分の耳に指を指してふっと微笑む。


「私はほんの少しだけ耳が良いのでね」

「……!」

「まぁそれより。もう少し話しましょう。それに貴方の名前も聞いてませんしね」


 男は愉快そうに微笑みながら、此方の方をじっと見てきた。異常な聴覚の良さ、これも聞いておいた方が良いか。

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