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第一話 蒼空の中、蠢く異形

 見渡す限りの青空の中、真っ白の形容できない物が伸びている。その上に立たされた俺は、何故か後ろを見ずにただただ歩き続けている。

 ───変な夢だ。

 ただただ歩き続ける俺はそう思った。春の様な風が吹き、俺の肌を触っていく。

 その風にならい揺れる俺の和服の裾。自分が気に入っている物だった。そして、腰には一本の木刀。夢だからか、道場でのいつもの格好だ。何故だろう。夢にしては色々と鮮明だ。


『そりゃあ、夢じゃないからね』


 何処かからそんな声が聞こえてくる。女の声だ。しかし、ジュルリ、ジュル…という粘液が擦れる音でその正体がただの女ではない事は分かった、がそれを聞いた途端に俺の背中に凄まじい寒気が走る。

 なんだ、気になるが、振り返れない…!


『正解正解。君は振り返ってはいけない。私達()を見れば君は確実に恐怖で壊れる。だからそのまま歩こうね』


 俺は後ろの化物に何も言わずに従った。いや、何も言えなかった。

 これが夢じゃない、と言うならなんなんだ。


『現実だよ。私達が君を引き摺り込んだ。望月遥や望月鏡華とは、これ以上関わったらいけないから』


 は?遥は俺の古い友人だ。なぜ誰とも分からぬお前に引き離される筋合いがある。

 戻せ、早く現世(うつしよ)に。


『だぁめ。君は歩き続けなきゃ行けない。そしてそのまま降り着く世界で、過ごさなきゃいけない』


 お前になんでそんな理不尽な事を言われなきゃいけないんだ。

 お前はなんなんだ?あいつらのなんだ。何者だ?


『世界の核と同義となる望月鏡華の代わりに何種とある世界を俯瞰する役割を背負った者、って表面上では言われてるかなぁ。あと鏡華のお姉ちゃんだよ』


 姉?鏡華さんに姉が居たのか。そんな事は一切言ってなかったが…。


『…………そっか。そうだよね』


 そう言ってから、女は喋らなくなった。しかし粘液の擦れる音は聞こえるので付いては来ているのだろう。

 俺は気にせずに歩みを進めていると、突然足元がボロボロと崩れ始め、落とされそうになった。慌てて形容し難い物に捕まり、落下するのは免れた…が。恐る恐る下を見てゾッとした。果ての無い青空の下、其処には無が広がっていた。

 その時に、ずっとしていた触手の音が鳴り止み、俺は上を向く。

 そこには──。


「いっ…!?」

『頑張りなよ神崎愛劉(かんざきうりゅう)。君ならきっと、天晴門から帰ってこれる。その時は、もっと私の事も教えてあげるよ』


 どこから湧いているのか分からない虹色の触手に巻かれた可憐な少女が笑顔で俺を見ていた。確かに、鏡華に似た端正な顔立ち。だが、何処か幼さが残っていた。

 ただ見た、ただそれだけなのに、身体中に稲妻の様に悪寒が走り、冷や汗が溢れ出し、理性が吹き飛ばされるような感覚が襲ってくる。


『あれ、私、見られてる?それなのに、あれ?あれ、神様?』


 あたふたと慌てる少女。未だ理性を保つ俺が珍しいのだろうか。

 引きちぎられそうになる理性を抑える中で、その元凶たる少女を何処か愛らしいと思ってしまった。

 そんな事を思いながら俺は晴天の中をずっと落ちていった。


 ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─


 目が覚めると、俺は何処とも知らぬ場所に立っていた。至る所にゴミが落ちて、清潔さが欠ける石畳の道。その隅で俺の事を奇怪な物を見る目で見てくる明らかに貧しそうな人々。そして見慣れない薄汚れ、塗装が剥げ落ちている洋風の家屋群。


「(…………成る程。これが奴が言っていた)」


 俺は本当に異世界へと落とされたらしい。

 それもなかなかハズレの場所に落とされたな、これは。

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