罪の意識
0時30分、玄関が開く音がした。さっき鍵をかけたはずなのに、私の家の合鍵は誰も持ってはいないのにどうして音がしたんだろう。
その五分後、何が壊れる音がした。きっとあれは玄関に置いてある花瓶が割れる音。
どこからともなく聞こえてくる女の人の呻き声。
ゆっくり、ゆっくり私のいる方へ近づいてくる。
「ねえ、誰かいないの?」
今度ははっきり喋った。リビングから聴こえる。私はリビングの隣にある寝室にいる。いつもなら0時くらいには寝ているのに今日は、昼寝をしたせいで目が冴えている。
こんなことなら、昼寝なんかするんじゃなかった。
「ねえ、誰かいないの?」
また近くなる。また女の人の声が聴こえてきた。
リビングで何をしているのだろう。本棚にある本がバサバサと落ちる音がし、その女の人はキッチンに向かった。調理器具を2本を擦り合わせて切れ味の良い音がする。
(そういえば、あの声……)
あの声に聞き覚えがあった。あれはたぶん真斗の彼女。
先週、中学の同窓会がありそこで私と真斗は久しぶりの再会をした。酔った勢いもあって、2人でトイレに行くふりをしてキスを交わした。最近、男関係がご無沙汰だったはずなのに、彼の唇が私に触れた瞬間、女のソレが激しく高揚した。
そのまま流れるようにホテルへと誘惑したのは私で、その誘いにふたつ返事で了承したのは彼だ。
彼は隅々まで女の気持ちいいところを知っているようで心地よかった。
激しくもなく、ゆっくりでもない。丁度いいリズムで交差しあった。
事が済み、ティッシュで拭き取る。私はこの時間が嫌いだ。快楽の世界から現実に引き戻される気がしてならないから。
この現実から逃れるため、私はベッドからソファーに移動しカバンの中からタバコを取り、火を付けた。
彼も移動してきて、私の隣に座る。
「彼女いるんでしょ?」と、私が聞くと、あぁ、と彼は頷いた。
そこへ何の虫の知らせか、彼女から電話がかかって来た。
「帰ってくるの何時になりそう?」
「今、二次会に来てて」
「ふーん、なのに後ろ静かすぎない?」
「電話がかかって来たから外に出たんだよ」
それから真斗と彼女は2分ほど話していた。
電話は切れたが明らかに彼女は、何かの確信を持って電話をしてきたような気がすると思った。
「ねぇ、真斗の携帯にGPSとか付いてないよね?」
「えっ?そんな訳ないだろ」
「だって、タイミング良すぎない?」
「たまにあんだよ。こうやって電話がかかってくること」
たまにある。ザワザワする嫌な予感に襲われながら、私は帰宅した。
そこから2週間は何も起こらなかったのに何故、今になって私の家へ来たんだろう。
「さぁ、エリさん、どこなの?」
どんどん、声と足音が大きくなってきて近づいてくるのがわかる。
「エリさんはここかな」
彼女は寝室に入ってきた。
布団を被り、寝たふりをする。何も気がついてないフリ。ここで逃げ出してはいけない。変に抵抗すると刺されてしまう。
私は必死に息を潜め、ただただ時が過ぎるのを待った。
しかし、彼女が見逃してくれるはずも、時が過ぎるはずもなく、入ってきてすぐに彼女は私のかぶっていた布団を剥いで私の首元に包丁をあてがった。
終わりよ。と呟いて私を……というところで目が覚めた。
目が覚めるとそこは病院だった。どうやら悪魔にうなされていたようだった。
一昨日の夜、徹夜続きの仕事だったためにどうやら倒れてしまったらしい。
意識を取り戻したと聞いて、真斗がお見舞いに来てくれた。
もちろん、彼女と一緒に。
そして、真斗が帰る際に、真斗の彼女から
「死に損ない。次は私があんたを殺す」と言い残され、私は激しい睡魔とともに一生を終えた。
- 完 -