遠き故郷に思いをはせて
前回までのあらすじ
女性恐怖症を克服するには筋肉だ!と言う結論に達した主人公、果たしてこの世界で彼の説得(物理)は通用するのだろうか?
日課となったトレーニングを終え、自身の部屋に戻った俺はタオルを洗濯籠に放り投げながらテーブルの上にあるリモコンでテレビのスイッチをオンにする。強漢事件や殺人事件など何かと物騒なニュースが流れるこの国だが、何も悪いニュースばかりが流れるわけじゃない。今だって東洋系の顔の女性たちが映っているが、ジョンが俺の出身地だと勘違いしている群島出身の女優達らしい・・・
ニュースのホットラインを一通り見終えた俺はシャワーを浴びるためにバスルームに向かう。
「こんなに広くなくてもいいのに・・・」
バスルームに向かう途中こんな言葉が零れてしまうほどには、この男性専用マンションの一室は広い。
何で海外のセレブ達は無駄に広い部屋を好むのだろうか?そんな疑問が出てくるほどにはこの部屋は広く、一人で住むと寂しさがこみ上げてくる。そしてバスルームに着いても・・・
「こんなに広くても意味ないよな。一人暮らしだし」
無駄に広い浴室や浴槽・・・一人暮らしには無用の長物。
ただ、このデカい一枚鏡は俺の努力の結晶がつぶさに見れるので、そこはありがたいと思っている。頑張った結果が目で見えるようになると言うのは中々にくるものがあった。
特に意味もなくサイド・チェストやダブル・バイセップスを決めたくなるのは仕方のない事だろう。
風呂から上がっても時刻は、昼を回ったぐらいだろうか?夕飯は自炊するとして、昼はカップ麺に決定かな。そう思案しながらランチの支度に入る。いくらお金が生活保護で入ると言っても、やはり身に染みた貧乏性は治らないようだ。
と言っても、このニートみたいな生活は申し訳ないと思う日本人的精神があるので職を探しているのだが、男性が付けそうな職業は内職ぐらいしかない。この男女比1:30と言う極端に偏った世界では男性は外に出ただけで(性的に)襲われる。身に染みて体感しているために全く外に出ようとする気が起きない。
この世界に来て約1年、最近になって趣味と言うか一つ日課になっている事がある。
「ふぅ、今日はこの辺でいいかな」
それは、元居た世界を書くことだ。この世界と元居た世界では似たところはあるが、相違するところの方がたくさんある。ふと、望郷の念に駆られるのだ。今なら憎く思っていた、彼女をゲットしたあの同僚だって笑顔で対面できるだろう。それぐらいにはホームシックになっている、その気を紛らわすために故郷に思いをはせながらキーボードに向かって打ち込み続けている。今日かいたのはアメリカについてだ。別に教官に会ったせいではないが、こんな風に思いついてはパソコンに記憶を読み込ませているのだ。
もちろん、世界が違うので日本語なんてない。そこは余りに余った時間を使い込んでこの国の言葉を勉強した。教官やネット教材を駆使しながらなんとか覚えたのだった。お陰様で特有の言い回しやことわざ、熟語などを完璧にマスターした。しかし、未だに口頭で日本語が伝わるのは謎だが疑問に思っていても仕方がない、伝わるものは伝わるもんだ。
かれこれ書く始めてから、約3ヵ月。時間が大量にあるのも相まって、相当な文章量になっていた。頃合いを見て、小説投稿サイトにでも物語としてアップロードしてみるのも一興かもしれない。一人で黙々(もくもく)と書き続けるのにはそろそろしんどいと思っていたところだ。気分転換にはちょうどいい頃合だろう。
「そうと決まれば、早速行動に移してみよう。さて、手ごろなサイトはっと・・・」
この些細なきっかけが思わぬ出会いに繋がるなんて・・・この時の俺はまだ知らなかったんだ。
ーー<SIDE:マユミ>ーー
何時間もパソコンに向かってキーボードを叩きつけていると、目と腰と肩が痛くなってくる。
それと同時に襲ってくるのが「私、何やっているんだろう?」と言った疑問が浮かぶ。
う~ん、しっかりしろ私!
私の名前はマユミ・ブラウン。西の大都市で編集の仕事をしている28歳、彼氏いない歴は年齢って、こんな世の中じゃ出来るわけナイヨネ。アイデンティティを見失わないように心の中で自己紹介をしていると気持ちがさらに沈んできたので、気分転換に一つ肩に手を当てて腕を回しつつ隣にいる同僚に声をかけた。
「アナ、そろそろお昼だし、食事にする?」
時刻は昼の目前、休憩をとるにはいい時間帯ね。
「OK、そうしましょ」
話しかけた同僚はアナベル・ブラッドショー、歳は私と同じで金髪のストレートロングヘアーと青い目が特徴の白人女性。あ、もう一つ特徴があったわね。何故かは知らないけど約1年半前から同じジャケットばかり着続けてる。今ではそれがトレードマークって感じで会社では広まっているわ。うん、改めて思うとどうしてだろう?着た当初は気にならないけど、こうしてずっと来ていると気になるわね。
「所でそのジャケット・・・一年間着てるけど、どうしたの?」
と言うわけで、早速聞いてみる。何事も即決と行動力が私の持ち味だ。
そして肝心の同僚はと言うと、急に顔を赤くさせてジャケットを触りながら目をそらしている。
「Huh、えっと、これは、その・・・彼からの贈り物で・・・」
その瞬間、私のお昼の献立が決定した。
「ほう、それは彼氏が出来たことが無い私への当てつけってワケね」
女性しかいないこの社会、抜け駆けなんぞした同僚に対してきっついお灸を据えないといけないわね。指や手をポキポキと鳴らしながらウォーミングアップする。
「Oops!いや、その、こ・・・これは言葉の綾ってやつでHAHAHA・・・」
リトマス試験紙のように赤から急に青に変色した同僚の顔に満悦するがまだ怒りの炎は燻る。
「ほう、じゃあ、ゆっくりと『会議』でもしましょう。まだ週刊誌のコラムをどちらが担当するか決めてないし、ね?」
「Oh・・・私、ちょっとトイレに行ってくる!」
「あっ!待ちなさい!」
こうして始まった昼休み時間を生贄に使った本気の緊急会議は編集長に叱られるまで続くのだった。
「う~ん、住所によるとここね。ってかここって・・・」
私の目の前にそびえるは男性専用高層ビル。まさか、一生の内でここに来るなんて思いもよらなかった。
恐らくこの国で一番セキリュティが固いであろう施設、それが男性専用高層ビルだ。その強度はこの国のトップが住む大統領官邸よりも数倍は強固だそう。「おい自国のトップ守れよ」とは思ってしまうが、男性もそれも独身の男性が一カ所に集まっているので警備が頑丈になるのは致し方ないのかもしれない。
そして、何故こんな所に来ることになったかと言うと・・・私の手に握られた数枚のメモ用紙が起因する。そこに書かれていたのはいくつかの住所だった。これは、編集長が昨日の昼にアナと繰り広げた緊急会議の罰として言い渡されたもの。なんでも、編集社に投稿された小説の中に光るものが幾つかあるから、ちょっと外回りのついでに面接してこいとの御達しである。
何でこちらから行かなければならないのかと、渋々(しぶしぶ)面接に各々回ってみると色々と納得した。引きこもりや病気と様々な理由で編集社に来られない人だ、そう言う人達にこそ原石が多いと言うのは編集長の談だ。
そして、最後の大取を飾るのがまさかのここ、男性専用高層ビルなのだ。
「たしかに、男性がむやみやたらに外に出るわけには行かないものね」
しかし住所は自己申告、渡された住所のメモ群には虚偽の住所がかなり少ないがあった。もしかしたらこれも冷やかしの類かもしれない。でも、もし・・・本当だったら?この住所に住むのは・・・
疑惑半分期待半分に、私はこの国一番の堅牢な城塞に一歩、また一歩と歩を進めた。
ヒロイン?登場!果たして二人の出会いは何をもたらすのでしょう。
リアルが忙しかったので規定通りに投稿できずにすみませんm(__)m