それは青天の霹靂のように
タイトル名は『男女比が狂った世界で郷愁を綴る』です。
全7話(予定)もしかしたら前後するかも?
今現在、この日本の男女比は1対0.97となっていて男性がやや多い・・・と言っても誤差に近いが。
さて、男性の諸君ならこんな妄想をしたことがあるだろう『世界が女性だらけならモテモテじゃね?』と。二十歳を超えても未だに彼女が出来ないときや彼女にフられたとき、婚活が上手くいかなくてむしゃくしゃしている時にこんなことを思い浮かべてしまうかもしれない。
俺にも昔はそう思っていた時期がありました・・・が、今はそう思っていた時期の自分を殴り飛ばしたい気分だ。無性に。
そんなことしたからって今の事態が好転するわけでもなければ夢のように消え去る訳もない。
「落ち着け、素数を数えて落ち着くんだ」
夕焼けが差し込む廃ビル、その一室・・・夕日に落ちた暗い影、事務デスクの下で俺は静かに息をひそめていた。額には汗が滴り、腕は緊張と恐怖で震えが止まらない。自分の心臓の脈動がハッキリと聞こえ、その心音が自分がまだ生きている事を感じさせ、それと同時にこれが紛れもない現実だと言う事を訴えた。
67より大きい素数はなんだっけと?と思っていると廊下から足音が聞こえてくる。
高まる緊張に身が硬直し、心臓が早鐘を打つ。カツカツと廊下に響く軽快なハイヒールの音が迫ってきた。
「どうか見つかりませんように」と心の中で念じ、手が自然に合掌の形を取り始める。
カツッ ギィィ…
ついにここの扉が暴かれると襲撃者には似つかわしくない透き通った可愛い声が耳を通り抜ける。
「あれ?ここだと思ってたんですけどね、オスの匂いがしたのですが」
『雄の匂いって何だよ、香水なんかしてないぞ!って、もしかして加齢臭?俺、そんな年じゃねぇから!?24歳ピチピチの青年だよ!』
と、声を大にして言いたいが。そんな事したら自殺行為。すぐさま捕食されることだろう・・・
「ここじゃないみたいですね・・・」
独り言を漏らして去っていく襲撃者。離れるハイヒールの音が安心感を与える。
十分に足音が無くなったころ、頃合いを見て隠れていたデスクから顔を出す。いない事を改めて確認するとデスクから体を出し、深いため息をつく。
「助かっ・・・」
「・・・やっぱり、ここにいたんですねぇ」
背後から聞こえてくるネットリとした息遣いに全身の身の毛がよだつ。
恐らくこの世に生を受けて、一番の恐怖体験だろう。間違いない。
振り返りたくない事実を振り切り、己の背後へと視線を移すと・・・
「ヒエッ!」
気配を感じさせず背後に現れた女性に、思わず腰を抜かしてしまう。
もうすぐ落ちる夕日の残滓を背に受けこちらを見る女性、さらさらとした肌触りのよさそうな長い金髪に出るところは出て引っ込むところは引っ込んでいるナイスバディ。逆光で顔が見えなくても、美人だと感じさせるそのプロポーションには惚れ惚れしてしまうが・・・
「あはっ、そんなに怖がらないで、私とイイコトしましょ♪」
太陽が落ち切り、見えるようなった彼女の顔。その端正な顔立ちを恍惚で台無しにしながら、これからくるであろう至福の時に顔を上気させている。
・・・そして何よりもその青い瞳は獲物を前にした肉食獣のようにギラギラと光っていた。
~4時間前~
「あぁ~、モテたい!!!」
人気の一切ない深夜の田舎道、一人の男性が心からの叫びをあげる。
どうやら彼は帰路に着いているらしく、やけ酒をしたみたいにフラフラと足取りが悪い。
「はぁ、何で合コンに彼氏持ちが参加するんだよ。詐欺だろ詐欺」
バッチリと決めた髪と気合の入った服装に似合わず肩を落としながら、とぼとぼと歩く男性の背中には哀愁が漂っている。
すると、スマートフォンからメッセージの着信音が鳴った。自然の音しかない静まり返った田舎道にはその音が良く響く。
「ったく、誰だ!って田中か、さてはあいつ失敗したな」
一緒に合同コンパへ行った同僚の失敗をほくそ笑みながら、SNSのメッセージサービスを開くと・・・
『私たち付き合います』の文字列とラブホテルをバックに同僚と合コンに参加していた女性の仲睦まじい写真だった。
「くそがぁ!」
彼は一瞬スマホを地面叩きつけようかと思ったが、思いとどまりそのまま深夜の道路に仰向けに倒れ込む。
「はぁ、彼女欲しいな・・・」
織部文雄、会社員、24歳、年齢=彼女いない歴、因みに童貞。そんな彼が地面の冷たさを噛みしめながら、心の底から出た願い。
「星が綺れ・・・あ、あれ?視界が歪んで・・・」
その願いが彼を地獄に叩き落すなど・・・四時間前の俺は微塵も思わなかったんだ。
眩しい光に顔を顰めてしまう、あれ?そう言えば俺は・・・ゆっくりと目を開けると、太陽が中天にあった。
「そう言えば、俺は道路の真ん中で・・・あっ!ヤバッ会社!」
ガバッと上体を起こすと目の前に飛び込んできた景色に、思わず我が目を疑う。
「な、嘘・・・だろ」
目の前には荒れ地が広がっていた。慌てて辺りを見ると、建築現場とかでよく見る白い衝立が四方を囲んでいて、あちらこちらに重機や建築機材が置かれている。
・・・どうやらここは工事現場の様だ。
だが、思い出せ。俺は田舎の閑静な道にいたんだ、決して周りに工事現場なんてなかったはずだ。
「誰かがここに運んできた?」
そんな疑問を口にするが、答えてくれるものは誰もいない。
「そうだ!スマホ」
慌ててスマホをポケットから取り出し、信頼している地図アプリを開く・・・だが、いつまでたっても白紙のままの地図に疑問を持ったが、その疑問はすぐに晴れる。
「まさか・・・圏外だって!?」
ド田舎でも信頼と安心の大手通信会社Dの電波が届かない。それって、どんな田舎だよ?
疑問に思いながら辺りを見回しても、四方を衝立で変わらず囲まれていて周囲の状況が分からない。
が、一度視線を上にあげると・・・
「ビル?」
衝立よりもはるかに大きな影・・・オフィスビルがこの工事現場を三方から包囲していた。ますます今の状況に理解が出来なくなる。
オフィスビルがあるなら何で圏外なのだろうか、それはともかくここは一体何処なのだろうか?
「取りあえず、ここから出よう・・・そして、人に会おう」
さまざまな疑問が渦巻きながら、立ち上がる。寝たところが固い地面だったので背中が悲鳴を上げるが、伸びをして強制的に黙らす。
ビルの包囲網の中、唯一開いている突破口。その方向にある工事現場の出口まで歩きはじめたのだった。
「日本?何それ?それよりも、そこにホテルが・・・」
目の前の女性が俺を見る目つきが変わったのを察知し、回れ右で全力でダッシュする。
「ああ!まってぇ!」
後ろから女性の声が聞こえるがそれを聞かずに疾走する。
その声に驚いた顔をして俺の方を見る人、すれ違う通行人、下校する学生・・・そのどれもが女性だった。それだけじゃない、周りを見渡しても女、女、女。男なんて一人もいない。まるで自分が別の惑星に迷い込んだ気分だ。
そして・・・
「あれって、男性じゃない?」「そうよ!男よ!」「匂いでわかる間違いない」
そんな声が聞こえたかと思うと、老若関わらず女性たちが追いかけてくる!
「ヒッ!」
灰色のコンクリートジャングルを駆け抜けながら俺は心で叫ぶ。
確かにモテたいと願ったよ・・・願ったけど・・・なんか違ぁぁぁぁう!
工事現場から出た時、ぎょっとした顔で見つめている腰まで掛かる金髪の若いOLの女性に『ここは何処ですか?』と場所を尋ねるとカフェに誘われそうになったが、本能的に危険を察知して断ろうとすると右腕に絡みついてきた。
これはヤバいと思った矢先、別のショートカットの黒髪の妙齢の女性がこちらを見つけていきなり左腕を絡ませてくる。
何の事だかわからずに戸惑っていると、さらに別の白髪の少女が乱入してきて・・・いつの間にか女性一色のキャットファイトが始まっていた。
ほうぼうの体で抜け出すと、そのまま脇目もふらずにその場を立ち去りいまに至る。
「・・・あれ?ここって女性しかいないのか?」
全く情報が得られない中、ついついそんな事を考えては愚痴を漏らす。
そして、何ヵ所で同じことをやってやっとわかった。その疑問は、≒であり≠だと言う事。
この場所・・・いやこの世界は極端に男性が少ない世界だ。
時刻は分からないが夕方、廃ビルの窓にもたれ掛かる。疲労と安心感により眠気が込み上がってくるがぐっと我慢する。ここまで来るまで長かった・・・交番を見つけようにも見つからず、人に聞こうとすれば追いかけられ、とにかく大変だった。
「取りあえず、ここで一休みして寝静まるのを待つか」そう思い、ふと窓の外を見ると金髪のスーツ姿のOLっぽい女性が歩いている。だが不思議な事にその衣服は乱れ、髪はほつれている・・・まるでどっかで大乱闘してきたような。あっ、そうだ!俺がファーストコンタクト(悪夢)した女性だ。
この時、すぐに顔を隠せば良かったのだろう。だが、この時の俺は反応できなかった。
まるでスローモーションのように女性の顔はこちらを向き。そして、目があってしまった。その瞬間、彼女の顔は歓喜に染まる。
『ミ ツ ケ タ』
そう、口を動かしたかと思うと脇目もふらずに、この廃ビルに入ってきた。
「ヒエッ」
捕まったら何されるか分からない恐怖に心が冷え込むのを感じながら、地獄のかくれんぼが始まったのだった・・・
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冒頭の様な事もあった地獄の隠れ鬼だったが、ギリギリで勝利したのは俺の方だ。
失ったものがジャケットだけで、その他色々なものを喪失せずに何とかあの廃ビルから逃げ出す事が出来たのは幸いだろう。
それにあの後、元居た世界の交番のような施設に逃げ込む事もでき、安全を確保できたのは運が良かった。
だがその代償に俺は心に深い傷を負ってしまったのだ。
それは・・・
「女性怖い。幾らなんでも、アグレッシブ過ぎるだろ・・・」
女性恐怖症だった。
67 71 73 79 ・・・
おっと失礼、稚作を読んで頂きありがとうございましたm(__)m
次回の更新はリアルとの兼ね合いがあるので近々としか言えませんがこの作品に付き合ってくだされば嬉しいです。
今作の後書きでの設定は全部投稿し終ってから、資料集として最後に纏めて追加します。