ライ
「助けてくださいって言われてもな。悪いが俺はどうにも出来ない」
「だめなの……?」
逃げた先に俺がいたんだろう。もしかしたら助けてもらえるかもって唯一の希望だったんだろうな。もしかしたら俺が人間じゃないって分かったのかもしれない
可愛そうだが、俺もおいそれと片方に肩入れするわけにも行かない。例外は除くが
「おいおいこんな所まで逃げやがって」
「あ、あいつらが……僕達の村を……」
声が聞こえた方を見ると白銀の鎧を着た騎士達がいた
「貴様、さっさとそのスライムをよこせ! さもなくば貴様は死ぬ事になる」
え、いや、お前誰だよ? と声に出しそうになったが、言葉を無理矢理感飲み込んだ。偉いさんっぽいしな
『おそらくディルスの王国騎士団でしょう。』
ほぅ騎士団ねぇ。めんどくさい事になりそうだな、おい
「ちょっとお前口の効き方なってねぇんじゃねぇの? 俺らって初対面だよな、会ったことあるっけ?」
普通の騎士ならばこんな煽りで俺を攻撃するわけねぇし
まぁ、攻撃してきたらしてきたで正当防衛するだけだけどな
「貴様! 我々を誰だと心得るか!」
剣を構え叫んでいる
寝起きなんだから大声はやめてくれ……でも構えたな?
「ディルスの騎士団?」
眠そうに答える、実際眠い、寝起きなんだぞ俺
「そうだ、俺はディルス王国騎士団四番隊隊長、ヘカトだ。貴様程度が我々と口をきけるだけでもありがたく思え! さぁ早くそのスライムをよこすんだ!」
命令口調なのうぜぇな、ぶん殴ってやろうか……
ただでさえさっきまで寝ていて、眠たいんだから余計に腹が立つ
「お前ら何やったんだよ」
「僕達は何もやってないよ……。多分、この人達スライムの粘液が欲しいんだよ。人間界では貴重っていってたもん!」
スライムは俺の横でぷるぷると震えている。スライムの粘液なんか何に使うんだろ……?
「き、貴様! そのスライムと会話ができているのか!? まさか……魔人!?」
あ、まずった?
『そのようですね。』
んー……出来たらこっちから手は出したくないんだよな
でも武器構えられてるし、相手は戦闘する気満々だしな。殺るしかないのか……
俺だって一応元人間だし、別に人間が好きとかじゃないけど、好きじゃないからってそう簡単には殺せる訳ねぇんだよなぁ
「戦闘配置! カカセ、ノルノ聖属性付与せよ!」
あ、聖なる十字架のやつらがやってたやつだ
こいつらウワサの聖騎士なの?
『いえ、ディルスには聖騎士団は存在しません。』
聖騎士じゃないのによく使えるな。聖なる十字架のやつらもそう考えたらすごいやつらだったのかな
「フォメーションA! カカセ、ノルノやれ!」
「「はッ!」」
剣を構え、2人が斬りかかってくる
俺はスライムを抱え、強く後ろに飛んだ
「お前はここにいろ」
スライムを下ろし刀を抜く。試し斬りだ。折角買ったのに使わないのもあれだしな
『戦闘ですか?』
ああ、俺は何もしてねぇのに、攻撃してきたんだぜ? 俺の顔を見られて国に帰られるのも厄介だしな。魔人あらわるとか止めてよ?
『了解致しました。あの者共の攻撃はガル様に少量のダメージを与えることが出来るますので、お気をつけください。』
少しかよ、負けはしないんだな
「あんさー俺普通の冒険者だしさ、あんまりあんたらとはやりたくないんだよな。帰るってんならなんもしねぇけど?」
まぁ嘘だけど一応言っといた方がいいよな?
「黙れ! 魔族の分際で!」
うっわー、俺魔族確定みたいなんだけど。別に間違っちゃいねぇんだけどな
「……はぁ、うるせぇよ。ここにいる騎士はお前らだけか?」
「貴様に答える必要は無い!」
頭を掻きながら聞くと、より一層強い剣幕で睨まれた。まあ答えないよね、まぁ知ってた
はぁ……人殺しか……嫌だなぁ……
でもいつかはやらなければいけない事だしな。……こうやって割り切れる俺って案外サイコパス?
そういえば昔澪が「私剣道も始めたんだ!」って楽しそうに言ってたっけ……
その時澪がとっていた構えをする。中段構えっていったっけ? 剣道の初歩だって言ってたな
「んー、走りにくいなこれ」
やっぱり俺流でやろうかな
両手持ちにせず、刀を右手だけで持つ
うん、動きやすいな
「カカセ、ノルノ、トライアタックだ!」
「「了解しました!」」
3人が三方向から突撃してくる。つっても鎧を着ているせいか、そこまで早いようには見えない
まずは右から走って近づき驚いている、カカセと呼ばれていた男の背後に周り、肩から斜めに斬る
すると手応えもなく身体が切り落とされた
切れ味よすぎね? さすがアダマンタイトってか? 鎧の強度豆腐かよ
「カカセ! ……貴様! 絶対に許さない!」
「ノルノ待て!」
そう言うの言われたら少し躊躇う。でも相手から攻撃してきたんだし、慣れなければいけないんだろうな
でも躊躇う事がなくなったら、それはある意味本当の魔王になるのかもな
なんて下らない事を考えていると、ノルノと呼ばれている女性が斬りかかってくる
「死ね! カカセの仇!」
「え、いや、先にやってきたのそっちだよな?」
「うるさい! 死ね!」
ガキかよ……
泣きながら斬りかかってくるが、その剣速じゃ当たらないんだよなぁ。魔王に転生してから、身体能力だけじゃなく動体視力もバカみたいに上がってるからな
エシュールさんはランク8と言っていたが、おそらくランク9並に強かったのかもな。あの一撃はズルしなきゃ回避出来なかったし。それにノルノの剣速はエシュールさんよりも圧倒的に遅いしな
「あー、なんか悪いな」
とだけ言って、俺は振り下ろされる剣の腹を狙った
弾くつもりだったのだが相手の剣を折ってしまった
「えっ」
驚き戸惑っているノルノの首を、そのまま切り落とした
流石にグロい……。ゴブリンの時は見ないようにしていたし、サイクロンタイタンの時は魔王闘気解放していて大丈夫だったけど、今回は解放もしていないし、何より相手は人だ。内臓やらなんやらが丸見えで気持ちわるい。だから首を狙ったんだし、ゴブリンにも切られて内蔵をこぼしているやつはいたけどな
「貴様……よくも、よくも俺の部下を!」
「よくもも何もお前らから攻撃してきたんだろ?」
煽ったのは俺だけどね、お相子お相子
「聖炎属性付与!死ね! 聖なる炎の斬撃!」
神々しく光っている剣が炎を纏う
おーすごいな、もしかして二属性付与ってやつか? そんなの出来るんだな。こいつ騎士団でもそれなりに強い方なんじゃね?
二属性付与かっこいいなー。今度練習しとこ
ヘカトは遠距離から神々しく光る炎の刃を飛ばしてくる
あれ遠距離技なのかよ。でも近距離の方がロマンあるしな……。どっち練習しとこかな?
走ってヘカトの元へ行くのは簡単だが時空間転移でも使ってみようと思いヘカトの斜め後ろを見て、想像した
瞬間俺はそこにいた
びっくりしたが能力は成功したし、このつまらない命の取り合いを終わらせることにする
あまりグロいのも見たくないし、心臓を一突きで終わらせる。軽く突くだけで鎧を難なく貫通した
「貴様……一体……」
ヘカトは掠れた声でそう言い絶命した。そんな問に答えてやる義理はねぇよ
それにしてもこの刀やばいな。軽く振るだけで鎧ごと切り裂く
「ナビさん、周りに人間の反応はあるか?」
『反応はありません。ですが先程まで何者かが居たようです。ですがガル様の存在は気付かれなかったようなので、全く問題はありません。』
「そうか」
ナビさん居たら探知魔法なんかいらねぇな。全部教えてくれるわ。まさにおんぶにだっこになりそうで怖いけど
スライムがいる場所に刀を鞘にしまいつつ戻ると、スライムが申し訳なさそうな声で聞いてくる
「良かったの? どうにも出来ないって言ってたのに助けてもらって」
「あー、まぁ別にいいよ。あいつらから勝手に攻撃してきたんだしな」
正当防衛だからな、過剰防衛にも程があるけど
てかこのグロい死体どうすんだよ。放置ってワケにも行かんだろ。一人は目も当てられないほどに真っ二つだし……
『そこのスライムに頼めば問題ありません。』
頼む? スライムがどうにかしてくれるのか
「えー、そういやお前の名前知らねぇな。この死体と血溜りどうにか出来るか?」
「僕はグランドスライムのライって言うんだ。この人達を食べればいいんだね?」
食べるって……グチャグチャ食べないでね? 流石にそれはしんどいから。モザイクかけなきゃだぞ?
ライは死体の上に乗り、中に取り込んで体内で死体を溶かしていく。見えにくい分グロさは少ないが、やってることエグイな
「終わったよ」
『……そのスライムは人型になれるようになったようです。』
吸収したやつの能力を奪えんのか?
『いえ、その理解は少し間違っております。すべては奪えず少し奪えるようです。先程そこの人間がやった技は再現不可能でしょう。元々スライムはAランク上位魔物でございます。ただ友好的であり、戦闘を嫌う種族なのです、人間と親睦を深めるため、中には人の言葉を覚え、喋るスライムもいます。ですがこれは……まさか……』
最後何か言った気がしたが、ナビさんが意図的に声を小さくしたのか、あまり聞こえなかった
てかスライムって強いんだ。RPGじゃ最初の雑魚キャラなのにな。ランク的にサイクロプス位ってどうなのそれ?
「んでよ、お前どうすんの?」
「僕は村に戻ってみるよ。みんな待ってるかもしれないし、お兄ちゃんもついてきてくれる?」
不安気な顔をし(ている気がする)たスライムに上目遣いで見られ(ている気がする)、どうせもう眠気も飛んだしとついていくことにした
焼け野原でもない、ただの破壊のあと
そこには何も無かった。正確に言うと何かがいた形跡しかない
家のようなものは破壊され、自然にできたであろう花畑は踏み潰されていた
「あ、ああ……ぱ、パパ、ママ……うわぁぁぁん!」
悲痛な叫び
ライは無意識に人型になる。だがそれは人間であっても、人間ではない姿。まだ十歳前後の白髪褐色の男の子に茶色の触手が生え、その触手がコントロール出来ないのかやたらに暴れ回り、スライムたちの村であっただろうものを破壊していく
人型になったライは涙を流した。体中の体液を全て流し尽くすかと思ってしまうほど大きな涙を
「ライ」
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」
もし俺がここでされば、この子はどうなってしまうんだろうか
少なくともこんな子供が、一人で生きていけるとは思えない。精々魔物の餌か人間に狩られるだけだろう
「ライ、俺と一緒に来いよ」
俺は何も考えず、全てを失くしたライに手を伸ばしたのだ。もしかしたら、気軽に話せるような人に飢えていたのかもしれない
ライは泣き続ける。見ているこっちが泣きそうになってしまうほどに。だが俺は泣いてはいけないと思った。俺が殺したさっきの騎士にも家族いるだろうしな。そう考えると、俺は簡単に泣けないだろう
「僕……ついていっていいの?」
触手は動きを止め、掠れた声で伸ばした手に触れようと小さな手を伸ばしてくる。ライの整った小さな顔は、涙でただれているように見えた
「ああ、来い。面白いことなんかあんまないかもだし、辛い事も沢山あると思う。でも一人じゃない、俺がいてやる。それに出来るだけ楽しくすごさせてやるから」
俺が何だかんだ言って高校を辞めず不良止まりだったのも、今思えば澪のおかげだったんだろう。澪がいたから一人きりにはならなかったんだから
「……ぐすん、お兄ちゃん、名前なんていうの?」
少しずつ涙を止めている、ライは強い子なんだな
「俺はガル、ガル・サカガミ、魔王だ」
俺は初めて他人に魔王ということを伝えた。仲間になるんだったら隠す意味もないしな
「お兄ちゃんが……魔王? 魔王って伝説の?」
「どんな伝説があるかはわからんが俺は魔王だ」
「魔王って僕達の王様の?」
「多分そうだな、魔の王だしな。あとこの事はナイショな?」
人差し指を口に立てる。魔王だっていってしまったけど、子供だから言いそうだな。そうなりゃ色々終わりだ
俺は流れに任せて言ってしまった事を後悔しかけたが、
「うん! 魔王様は自分で魔王だって宣言しなきゃいけないって絵本で見たことある!」
スライムって本読むんだ。てかそんなのしなきゃいけねぇんだな、初耳だぞ。まあいいけど
『それは前魔王サタン様が行っただけですので、する必要は御座いません。』
さいですか。まあ面倒な行動が増えなくてよかったよ
「指切りだな」
「指切り?」
俺はライの手を持ち、指切りする
「こうやってな、小指同士で誓いを立てるんだ。これを破ったらお仕置きだぞ! って事だよ」
概ねあってるだろ
「やる!」
「よし、ゆーびきーりげんまん嘘ついたら針千本飲ーます!指切った!」
スライムのライに針千本飲ましても吸収されそうだけど、そこには触れないでおこう
「これが誓い?」
「そうだぞ、お前は魔王の最初の仲間だ。よろしくな!」
「よろしくおねがいします!」
目の周りを赤く腫れさせたままお辞儀をしている
『私は仲間じゃないんですか?』
お、ナビさんヤキモチ?
『違います。』
そうだな……。お前は俺だ。お前はもう一人の俺だよ。魔王の分身? ってやつだよ、俺の頭ん中? にいるんだからな
もはや魔王の俺より怖い人だろうねこの人。悪魔らしいし
『魔王など恐れ多い。ですがその評価、ありがたく頂いておきます。』
おう、お前はスゲェもんな。俺大体なんにもしてねぇからな……
「ねぇ魔王様、どこに行けばいいの?」
「ディルスだよ。あと魔王様は止めてくれ、ガルとかお兄ちゃんで頼むわ」
街中で魔王様! なんて言われたら終わりだしな。さすがに間に受ける人は少ないと思うけども
「うん、わかったガルお兄ちゃん!」
混ぜてきたかぁ……うん、これからはガルお兄ちゃんでたのむぜ!
俺はライを抱いてディルスに向かって走っていく
昨日は寝てないんだろう、ライは俺が走り出してすぐに寝てしまった。リュックの中に入れようと思ったが、中がグチャグチャだったので止めておいた
ライじゃないが、俺もだんだん眠たくなってきたが我慢して走り続けた
俺は今日初めて人を殺してしまった。その苦しみはこれからもずっと味わう事になるんだろう。まだ人を殺さ無ければいけないし、いつかそのうち慣れるんだろうが、
「慣れたくないな……」
いつか本当の魔王になってしまいそうで怖かった。坂上海斗が消え、魔王ガルになってしまうのが怖かった
「……ったく、何考えてんだろうな。俺は魔王なんだから敵対するやつは殺し続けなきゃいけないんだよな。世界を救えだとか言われたけど、本質は多分悪者なんだし」
今思えば神様(仮)は誰だったんだよ。神は俺の敵なんじゃねぇのかよ
全くわからん。返事が無いところを見ると、ナビさんにも解らないんだろう
「あぁ、眠い……」
俺はライが起きるまで走り続け、一緒に昼飯を食べ、二時間だけ昼寝をする事にした、お日様もいい感じに暖かいからな
ライは暇そうにしていたが、俺が眠ると釣られてまた眠ってしまったようだ。子供は寝て育つんだよ、うん
俺は夢を見る。澪の夢を
俺は魔王の身体で周りにはいろんな人がいて、目の前に動きやすそうで、とても高そうな軽鎧を纏った澪がいる
手元を見ると、澪の身体に赤黒い刀身の刀を突き刺されていた
そして澪は言う
「そうやってまた私を……」
ここで音だけが途切れる。そうやってまた私を……
俺は澪に迷惑はかけても殺した訳じゃない
なら"また"って何なんだろうか……
夢だとわかっていながら俺は動けない
そのまま澪を、恐らく俺の能力であろう技で封じ込める
俺はなんで澪を殺そうとしているんだろうか。俺は澪を嫌いな訳じゃない
むしろ――
『二時間経過致しました。ガル様、起きてください。』
「うわぁぁ!」
ウボァ……頭ぁぁ痛いぃぃ
頼むからマジでもうちょいマシな起こし方をだな……?
「むにゃむにゃ……ガルお兄ちゃん……」
はぁ、癒しはライだけだな
俺って案外子供好き?ここに来る前も近所のガキ共と遊んでたしな
俺はライを抱えて少しゆっくりと走り出した
今日中には着くだろう
「壁が見えてきたな」
そう言い、また少しスピードを落としたのだった