お得な買い物で最強武器?
ここはどこだ?
何も無く、周りにはただ白い世界が広がっている。ここは異世界じゃないのか?
後ろを振り向くとそこに澪がいた
何でここに……。澪はつい最近、この服お気に入りなんだと自慢するように言っていた服を着ている
「………………」
澪? なんて言ったか聞こえねぇよ
「……と…………」
もっと大きな声で言ってくれ
「………し…で……った」
何だって? 聞こえねぇよ。もう少し大きな声で言ってくれ
俺は近づいて行こうとするが距離は縮まらない
そして彼女は満面の笑顔でこう言った
「海斗が死んでよかった」
「はッ……!」
はぁはぁと荒い息を少しずつ整える
「ふぅ……」
夢……か、でも本当に思ってるかもしれねぇけどな。澪、今頃どうしてるかな
『ガル様、どう致しましたか? 心臓の鼓動が急に早くなりましたが。』
「いや、少し悪い夢を見たんだよ。それより今は何時だ?」
『只今午前6時20分でございます。』
少し早い気がするけどもう寝れる気がしないし、朝飯でも買いに行こうかな
「ちなみにさ、地球の時間とこの世界の時間ってズレとかあるの?」
『元の世界と数ヶ月単位のズレはございますが、この世界でも1日は24時間であり、1年は365日でごさいます。それに、朝昼夜も変わりありません。』
そういうのはあんま気にしなくてもいいんだな。体内環境とか……魔王に体内環境とかあるのか?
「腹も減ったしお金もあるし、パンの美味い店に案内してくれ」
あの不味いパンはマジで食いたくない、食うくらいなら餓死してやる。……まあ背に腹は変えられないって言葉はあるけどね
『了解しました、検索します……発見しました。案内致します。』
美味いもんでも食って気分転換でもすっかな
店に着き、カツサンドのようなものを買った
「……普通に美味いな」
高級とまではいかないが、口の中でとろける普通にいい肉だな。高級肉なんて食ったことないけど。豚なのかこれ?
『いえ、オークの肉でございます。』
……え、オークって何?
『魔物です。』
…………魔物って食えんの?
『この世界の食肉は家畜と魔物の二種類にわけられます。家畜が安定した味を出す一方、魔物は強さによって肉の旨みが強いです。勿論例外は山ほどありますが。』
……これオークなんだ。オークってあれだろ? 豚顔の魔物だろ? 知らなきゃよかった……
何も考えないようにカツサンドを口の中に押し込んだ
「ちょっと適当に観光してみっかな」
『案内いたしましょうか?』
「いや、道もちょっと覚えとたい方がいいし、適当に散歩しとく。8時になったら教えてくれ」
『了解致しました。』
ぼちぼちと適当に歩き出した
『8時になりました。』
おっ、もうそんな時間か
あの後色々と買い食いしたが、聞いてもないのに『それはオークの"タン"と呼ばれる部位です。』やら『それはベノムコブラの肉ですね、日本で言うところの鶏肉のような味がします、ベノムコブラは毒持ちですが毒抜きされているようなので問題ありません。』とか言いやがる、マジでありえねぇんだけど……
「とりあえずギルド行くか、案内はいらねぇからな」
『了解致しました。』
ほんとにこいつ何なんだよ……
便利だけどさ? 何ていうの、頭いいけど馬鹿なヤツだろ
ギルドの扉を開け、堂々と入る
こう見えて、本気ではないだろうが、ギルマスを倒したしな
「ちゃーす」
雑だが挨拶をしておこう
「おお、ガルか!」
「エシュールさん!?」
待ってたの? ギルマス本人が?
予想以上に大きな声で、
「待っておったぞ!」
「い、一応いつ来るとは言ってなかったと思うんですが」
「一時間前から待っておるのじゃ」
一時間前って……ギルマスって案外暇人なのかな?
「さあ、武器屋に行こうではないか!」
「え、エシュールさんも行くんですか?」
本当に暇なんじゃねぇのこの人
「近くに用事があるからのぅ、そのついでじゃ。もう仕事は終わらせておる。早く行こうじゃないか!」
「は、はあ。行きましょうか」
周りの冒険者達すごい驚いてるなぁ
そりゃ新参者がギルマスと一緒にいたらビックリするよな。俺達はギルドを出て歩き始めた
「今のうちに軽く依頼の話をするがよいか?」
「え? あ、はい」
ほけーっと歩いていたので急に話しかけられたからマヌケな声を出してしまった
「依頼内容はサイクロプスの討伐じゃ」
「サイクロプスですか」
どんな魔物だ?
『一つ目の巨人です。青い体にとても硬い皮膚を持ち、武器は巨大な棍棒の場合と素手の場合があります。亜種として巨大なハンマーを持っていることがあるAランクの魔物です。』
Fランクを倒した後にいきなり次Aかよ!? 順序どうなってんの!? 馬鹿なの? 死ぬの? その場合死ぬの俺だけどね!
「通常サイクロプスは通常ランク6以上の魔法使い達で囲み魔法を撃ち討伐する。ただこの町にはランク6以上のパーティーはそなたを合わせ三つだけなのじゃ」
「少なくないですか?」
「辺境とはいえ田舎じゃからな、仕方ないんじゃ。が、こんな所にサイクロプスが出現するのはおかいしのじゃ。何かあるのかもしれんが……」
「それをエシュールさんと同等の俺にやってほしいと?」
正直ちょっと無茶だろそれ
『ちなみにサイクロプスは準Sランクと呼ばる上位の魔物ですが、知性がないので殺しても問題ありません。』
準Sランクですかぁ……素手で勝てるのかよ? 知性がないのに準Sってのもすごいんじゃねぇのか?
『中途半端な剣などを使うよりは拳の方が威力は高いです。戦闘力に特化していますが、何分知性がないので準Sと呼ばれる意味は私にもわかりません。』
ちゃんと戦えば簡単に倒せるってことか
「まぁ、そういう事じゃ」
「ですが俺1人じゃ荷が重いと思いますが」
問題ないと言わんばかりにエシュールさんが詰め寄ってくる
「大丈夫じゃ、魔法使い三人のパーティーがあってな、その三人に支援魔法を掛けてもらえば問題ないじゃろ。それにその三人はこの町で私を抜いたら最大のランク7の強者達じゃぞ」
え、俺いきなりこの町最強のパーティーと一緒に仕事すんのかよ
「俺そんな人達とするんですか?」
「心配するでない、圧倒的にそなたの方が強いからのぅ」
さいですか……
「着いたぞ、ここが知り合いの武器屋じゃ」
なんだここ……話に集中して気が付かなかったけど暗いぞ? まだ昼前じゃねぇのかよ
にしても汚くないか? なんというか、建物自体がすごい汚れてる気が……
心配しているように見えたのかエシュールさんが俺の肩に腕を置いた
エ、エシュールさん……スキンシップ多いんだな。こういうの慣れてないからなんか恥ずかしいんだけど……
「確かに見てくれは悪いが武器は本物じゃぞ? この店の武器は店主が造っている物じゃし、防具も造ってあるから武器屋と言うより鍛冶屋じゃがな」
「い、いやそんな事ない……とは言わないでおきます……」
「はっはっは、素直なやつじゃのう。じゃが腕は確かじゃ、私の愛刀"雫"も店主が作ったのじゃ」
エシュールは腰に付けている刀を触り嬉しそうに微笑んでいる
やっぱりエシュールさん美人だわー。エルフってだけで美人なのかな?
と和んでいると店の中から背が低く髭を伸ばした初老の男が出てきた
「わしの店の前でうるさいわ!」
なんだこの小さなおっさんは
大きな音をたててドアを開けたのは、所謂ドワーフと呼ばれる人物だった
種族の特徴として背が低く、毛が濃い。そして酒が好きというものがマンガでも一般的で、この世界でもそうだとナビさんは言った
「おお、オルード」
この人が知り合いの武器屋もとい鍛冶屋か
エシュールが片手を挙げ挨拶している、オルードと呼ばれていたおっさんも片手を挙げるだけ挙げている
「お前か、わしの武器を売って欲しいやつってのは」
「う、うっす。ガルと申します」
うわっ酒くっさ。まだ昼前だぞ……酒飲んでのんかよ……
「おいお前、今酒飲んでんのかよって思っただろ?」
「え、おん」
つい正直に言ってしまった。これで機嫌を損ねて武器を売ってくれないとかならなければいいんだけど……
「素直か! あとわしはドワーフだから酒は水の代わりに飲むんだよ!」
嘘つけ。だが心配は無用のようだった
「それは言いすぎじゃ。わかっているじゃろうが嘘じゃからな。こいつは無類の酒好きじゃから朝から飲んでいるのじゃ」
「はぁ」
ドワーフだかなんだか知らねぇけど、朝から酒飲むなよ
「ま、入れ」
手招きされ店に入る
店の中も酒くさいんだけど……それに埃くさいな
「で、何の武器が欲しいんだ?」
武器かー……。そうだな、とりあえず
「剣です」
「ナックルじゃないのか?」
エシュールさんいつから俺がナックル使うと思ってたんだろ。てか普通に殴った方が強い気がするし
「いや、武闘家もいいですが、剣士にもなりたいと思って」
「そうなのか? そなたの速さならなろうと思えば拳聖にも剣聖にもなれるじゃろうて」
そうなんだ、俺拳聖にも剣聖にもなれるんだな。なる気ないけど。聖の部分形無しだな
「ほーう、そこまで認めたのか」
感心するように両手を組み、俺を見ている
「認めたも何も私じゃガルには勝てんよ」
「そこまでの使い手だと!?」
「いや、剣は普通じゃ。ただ速い。最早見えぬわ」
普通って……そりゃそうだけど。ちょっと傷つくじゃん。まぁ、剣持ったの昨日が初めてだけどさ。筋がいいとかないの? ないよね
「とりあえずお金はこれしかないんで、剣だけでいいです」
と金貨が入った袋を出す。今あるほぼ全財産だ
「今回の依頼でも報酬は貰えますよね?」
「あたりまえじゃ、ガルを含めて二パーティで割るから大体金貨900枚じゃな」
サイクロプス一人でやったら1800枚ももらえんのか!?
「ならこれを予算に一番いい剣をお願いします」
「ふむ……待っておれ」
とオルードは店の奥に入っていった
んー、この剣もかっこいいなー。と武器を見ているとオルードは一本の刀を持ってきた
「これは刀だが、これがわしの最高傑作だ。剣は初心者なんだろ? 思い入れがないなら刀を使え。珍しいが切れ味はバツグンだ。買うなら銘は自分で決めろ」
刀身が赤黒く、光を反射していない。だが俺はその刀身に吸い込まれるように釘付けになった
「かっけぇ……」
「お前……わかってんじゃねぇか!」
「おっさん、すげぇセンスいいな!」
滅茶苦茶にかっけぇ! この赤黒い感じがまたいいよね。厨二心を刺激されて!
「お、お、おる、オルード!? こ、これは……まさか!」
エシュールは身体が痙攣したように震えている。ん? エシュールさんなんか焦ってねぇか?
「おお、流石はエシュール。素材が何か分かったか」
「オルード、そなたこれはアダマンタイトじゃないのか!?」
アダマンタイト? なにそれ
『アダマンタイトとは鉱物の一種でごさいます。最高峰の硬さと耐久性を持ち、最上位魔物であるドラゴン種の体内で稀に生成される鉱石でございます。その希少さ、頑丈さ、加工の難しさから、作られる武具は英雄が持つに相応しい武具として重宝されております。』
え、俺英雄クラスの武器持っていいの? まじで? 魔王ですけど
「そうだ。これはアダマンタイト合金で作られた刀。わしの最高傑作と言っただろ」
「じゃが金貨50枚や60枚程度で買える物じゃないぞ……。オルード、そなたが打った物なら、相場はミスリル貨2000枚から3000枚は下らんぞ?」
そんなに!? え、だってミスリル貨3000枚って!?
一応まだほとんど金貨は残ってるけどこれじゃ駄目だなぁ。かっこいいんだけどなぁ、駄目なのか……。てかさ、そんだけ金あったら一生暮らせると思うんだけど
心の中で項垂れいていると、オルードは問題ないと言わんばかりに刀を俺に押し付ける
「いや、別に金はいいんだよ。おかげで金には困ってないしな」
「じゃがこれは魔剣……いや、神刀クラスではないのか!?」
オルードは俺を親指で指しながら言う
神刀って大袈裟な……。でもそこまで言われるようなものを、初心者が持ってていのかよ?
「そいつはお前より速いんだろ? お前より強い……ならそれはそいつに持ってて欲しい。それにこいつの良さを分かってくれるガルに持っていてほしいしな!」
「いいのか?」
つい頬を緩ませながら聞く
「おう、その刀で1発かましてこい!」
そういい俺の胸を軽くパンチしてくる
「おう! おっさん!」
俺もオルードの胸を軽くパンチする、このおっさんいいやつじゃねぇか!
「「ガハハハハハ」」
肩を組み大笑いする俺たちを見て小さな声で、
「何をかますのじゃ何を……」
エシュールさん、何か言ってるけど聞こえねぇな。まぁいいけど!
「んでよ、おっさん、値段はどうするよ。これ全部持ってってもいいけど足りねぇんだろ? ローンでもいいぜ」
「ろーん? よく分からんが金貨55枚で手を打ってやるぞ」
まじで!? 即買いだ!
「よし! 買った!」
「いくらなんでも安すぎるじゃろ……」
俺は金貨55枚を払い刀を持つ。重いが丁度いい重さだ
「どうだ? 手にしっくりきたか?」
「ああ、こいつはいいな!」
「これはサービスだ、こうやって腰にかけるんだ。覚えておけよ?」
オルードは俺の左腰に武器を固定し、
「例えその刀で戦ってお前より強い敵を倒しても、調子に乗るなよ。それはお前だけの力では無い。お前とこいつの魂が繋がってこそ、自分の力だと言えるんだ」
と、よくわからないことを言っていたが、刀が強いからって調子に乗るなって事だな。んな事わかってる。だって竹刀でさえ持ったことの無い俺が強いわけがない。勝ったとしてもそれはただのゴリ押しで、技術じゃない
後は色々と武器を見て、おっさんの自慢話を聞いたりした
「依頼もあるしそろそろ帰るわ」
エシュールさんを待たせているようだしな
「そうか、防具も欲しくなったらこい! 流石にアダマンタイトはないがな。ガハハハハ!」
「おう、また来るぜ!」
手を振り、店を出た。いつかまたここで武器を買おうと誓って
「そういやエシュールさん、最後までいて良かったんですか?」
待っててもらってたけど用事があるとかなんとか言ってたよな?
「いや、問題ない。依頼の件じゃが……おお、いいタイミングじゃの」
そこに三人の冒険者らしき者達がいた
エシュールは俺に向かって言う
「この3人が例の3人のパーティーこそ我がギルド、正義の十字架で最強のパーティー。聖なる十字架じゃ!」