カイともう1人
「ねえねえもっと遊んでよ!」
こいつカイっていってたけど、弟の方なのにまぁまぁ強いな、つっても速さも重さもルシには遠く及ばないようだしあっちも問題なさそうだな、森の方ででっけぇビームみたいなやつが見えてから静かになったし、終わったのかな?
カイは自慢げに名乗った後三色の球を撃ってきたが、めんどくさくなったのか爪で攻撃してきたり噛みつこうとしてくる
「遊ぶのもいいけど空が暗くなってきたし腹も減ってきたから帰りたいんだよ、つか元々お前らと闘う気なんかなかったし遊ぶのはもう終わりな」
さっき腕の借りを返してやるだとかフルパワーで行くぜとか言ったけど俺の腕はこいつにやられたわけじゃないんだよな
ちなみに左手の黒い線は骨に沿っているようで、体中にこの線が浮かび上がっている、この線はどうやら魔力の流れを円滑にしているようで身体属性付与や魔力を適当に放出するのが早い
さっきまで守りに徹していたが攻撃を受けても問題ないようだ、近くに行かなくても相手が近くに来るしカウンターを狙うことにする
「終わりなの?んーしかたないから僕が魔王を倒して終わりだね!」
そう来ると思ったが勝つ気満々だな、まぁ俺はあんまり攻撃してないから馬鹿ならそう思うのか?
今までよりも数段速い噛みつきをしてくるがそれは俺のアッパーの餌食だぜ
「ラァァ!」
右アッパーが顎に直撃した、魔力の塊の馬鹿みたいに硬い拳だ、頭を貫通してないってことは顎にあたる前にバリア的な何かを張ったか骨がクッソ硬いかだな
激痛で叫びたがっているようだが声を出そうとするとまた激痛に見舞われる、それをわかっているようで叫ばないようだ、もうさっきまでの子供っぽさは微塵もない
「終わったかな」
意識はあるようだが今にも倒れそうに見える
途端カイが白い煙に巻かれる、数秒後中から俺と同じくらいの身長の男が出てきた
黒髪の男は首をコキコキとならしながら腕を回している
「おいおい……誰だよあいつ、変身にしても変わりすぎじゃね」
「あ゛?てめぇ魔王だか何だかしらねぇが俺の身体に何しやがんだよ、こちとら気持ちよく寝てたのに起きたら顎砕けてやがるし……とりあえずてめぇぶっ殺す」
こいつカイだよな?魔族のやつらはすぐに人になるな、誰でもなれんじゃねぇの?
にしてもさっきとは雰囲気が真逆だな、本当に同一人物か?
なんて考えた瞬間身体は宙に浮き、顎への痛みと共に脳が揺れる
「チッ、砕けてねぇな、魔力の壁が厚すぎんだろ」
今の一瞬で俺にアッパーしてきたのか?気を抜いていたとはいえ速いな
空中で体勢を立て直す、翼の扱いは難しいがそれなりに慣れてきた
「お前の負けってことでとりあえず終わらね?お前じゃ俺には勝てねぇみたいだぜ」
実際痛みはあってもそれだけだ、俺のステータス的な意味での体力へのダメージはほとんどない
「んなこと言ってる暇があったらかかってこいよ!」
「はぁ……魔族はめんどくさいやつしかいねぇのかよ……」
バアルはどこかデリカシーにかけるしルシはバカだしライは……子供の割にしっかりしてるな、さっきの言葉は撤回だ
でもまぁさっさと終わらせてやるかな、今できる事を一旦試してみるか
まずは身体属性付与だな、これルシがトリプルだとかなんだとか言ってたよな、黒い炎って炎と闇属性ってことなんだろうな
水をイメージしても炎に消されるな、聖属性はどうやってイメージすんだろ?神様?なんか嫌だな、敵なんだし
実際属性を付与してもどれだけの効果があるかわからないし属性付与は別にいいか
次はこの右腕だ、どうやら身体属性付与はできないらしい
魔獣型のときの球は殴ったら砕けたし、魔力に耐性があるのかもな、これも魔力なんだけどな
魔力を物質化する事も二度目はすんなりとできるようになった
強度はあるが耐久度は無いようで、さっき野球のボールをつくったが球に投げたら球と共に砕けた
壊れるなら壊れないようにすればいい、使い方はまだまだある、右腕のように
空中から急接近し、接近戦に持ち込む
殴り合いになるが攻撃力に圧倒的な差があるようだ
「破壊力やべぇなおい、こんなのまともにくらいまくったら流石に死ぬぞこれ」
「んなこと言ってるってことはまだ余裕があるってことだよな!」
渾身の一撃がカイであろう相手を吹き飛ばす、ガードをした両腕が変な方向に曲がっている
「クッソいてぇなおい、さっきからやられっぱなしってのも性にあわねぇんだよな……」
折れていた両腕がバキバキと音を鳴らしすぐに元に戻る
え、なんなのこの治癒能力ちょっとキモくね?
「てめぇが強いってのはよぉーくわかった、俺の攻撃も意味なかったんだろ?」
「まぁ、普通?」
頭を掻きながら適当に答えた
ダメージが無くても痛いのは痛いしな
「舐めやがって、そうだな、3分で終わらせてやんよ!」
「3分ってマジかよ、え、なに、リミッター解除かよ、3分後破壊されるんですか機械族なんですか?」
「あ゛?なんで知ってんだよ、つか破壊もされねぇし機械でもねぇよ」
昔少しやっていたカードゲームのカードのような能力だな
てかこの世界にも機械はあるんだな、まぁそんなに活用して行くつもりは無いけどゲームくらい造りたいな、この世界でRPGとか需要あるのか?
などと考えている俺が魔王の面で間抜けな顔をしているのがいらだたしいのか顔を引き攣らせている
「あ゛ぁ゛うっぜぇな、もうめんどくせぇんだよ!ぶっ殺してやる!いいよなカイ!……身体を縛る枷を外す、リミッター解除!」
一呼吸をおいて呻き始める
「ガアァァァァ……」
目や鼻、口から血が少しずつ垂れてくる
今すぐに倒すことくらい出来るがどうせならどれくらい強くなるか見てみたい
ただ、強くなると聞いたら大地が揺れたり風が吹いたり小石が浮いたりしそうなものだが全く無い、静かなものだ
「ふぅ……終わったぜ、もう明日の事なんか考えたくねぇな」
やっぱりデメリットがあるんだろう、少し憂鬱な顔をしている
「お前ってさ結局誰なんだよ、お前はカイじゃ無いんだろ?」
「ん?あぁ、言ってなかったっけか、俺はラクだ、魔獣神フェンリルの次男だ、まぁそんなことはどうでもいいんだよ、俺はてめぇをぶっ飛ばしてぇだけだからな!」
「ガハッ!」
突然腹に衝撃が走る、どうやら速さも威力も2倍どころじゃないようだ
ラクはそのまま俺を殴り続ける、一撃一撃が重く速い、これを3分間受け続けるのは流石にまずい、だがこのままじゃ体制を立て直すことすら難しい、なら時間を止めればいいのだ
「魔王之世界!」
このまま後ろに下がってもまた同じことが起こるだけだ
俺に向かってくる拳を持ち、背負い投げをする
「なっ!?」
やはり驚いているようだな、魔王之世界が発動してから解けるまで大体2秒弱くらいだ、2秒もあればもっとマシな事が出来るだろうが何をすればいいかは俺の頭じゃわからない
空中に放り出されているラクに追い打ちして叩き落とす
3分で終わらせてやると言ってきた、要するに3分間耐え忍べばいいってことだ、殴り合いよりも逃げた方がいいのだろうがそんなのは俺に合わない、逃げると負けたような気がしてならないからだ
だがやはり少し押されている
魔王とはいえ元々ただの不良、どっちかと言うと陰気な奴で家にいたくなくて学校に行っていただけでケンカなんかもほとんどしていなかったからこういった殴り合いも技術がないのだ
「さっきの背負い投げは驚いたな、てめぇもクソ速ぇし重いんだよな、だが技術がねぇな、本当に魔王か?」
「うるせぇよ、それよりこのままじゃ俺が時間切れで勝つぜ?」
「みてぇだな、あと1分ちょいか……これでも互角くらいなのか、仕方が無いな、現れろ!イクスパーシャン!」
ラクの手にゲームでよく見るような直剣が現れた
相手が剣を使うなら俺もこいつを使うかな、そろそろ名前を付けなきゃだな、思いつかねぇけど、と考えながら腰の刀を抜いた
憂鬱な顔でラクは剣を見ている
「こいつ使うの嫌いなんだけどな……」
その剣は1秒2秒と経つ度に気のせいか大きくなっている気がする
「この剣は持ち主の魔力を吸収してデカくなる、問題は無理やり魔力を吸収することなんだけどな!」
最初の方は剣を捌き避けているが段々大きなってきて威力もその分強くなっている
もうその大きさは直剣ではなく大剣と言った方がしっくりくるだろう
刀で受け止めているが一撃が重すぎる
刀が押され眼前に迫っている
「ウラァァァ!」
「ガッ!」
そのまま地面に叩きつけられる、大ぶりの一撃が降ってくるが間一髪で避け体制を立て直す、もう剣の大きさは4mを超えている
「チッ、もう時間がねぇなあと一撃だ、これでてめぇをぶっ殺してやるぜ!」
ラクは巨大剣を構え、その巨大剣はみるみると大きくなっている
「ラストブレイカー!」
なんともシンプルに厨二くさい技名だな、だが名前のまま最後の一撃なのだろう、大きな刃状の魔力が打ち出されたと同時にラクは倒れ剣は元に戻った
考えている暇も試している暇もないが先日の騎士がした二属性付与を飛ばしていた真似をする
まだ放出するのは慣れていないがやるしかない
左腕の身体属性付与を外し、刀に三属性属性付与する
それを魔力を物質化させる時のように、外へ!
刀を振り、黒いイナズマと黒い炎打ち出す、だが威力が足りないようだ、また打ち出す、まだ、まだ打ち出す、だがまだ止まらない、もう受け止めるしかない
俺には元々避けると言う選択肢はないのだ、この技は避けたら負けな気がするから
刃を受け止め後方へと押される
「クソ……負けたく……ねぇんだよ……何より、弱い自分には!」
すると三属性付与されていた刀が赤黒い元の色に戻り、一部分が青く光る、よく見ると刀の腹に青い薔薇が浮かび上がる、どこかで見たことがあると思えばコートの胸の刺繍と全く同じなのだ
そしてその青い薔薇が刀から出て刃状の魔力を吸収していく、瞬きするうちに目の前の魔力は吸収しつくされ大きくなった青い薔薇が刀に入っていく、もうそこに青い薔薇は無く、いつもの赤黒い刀身に戻っていた
「なんだよこれ……はぁ、もうしばらくは戦いたくねぇな……」
もう空は暗い、早く帰って飯を食わせてやらなければいけない
「帰るか……」
俺は倒れているラクを背負い、観戦していたルシ達の元へと走り向かったのだった