表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
腐令嬢が往く!  作者: 空廼紡
本編
2/14

現状、絶望、決意

 五歳の春、馬車に牽かれそうになって、唐突に思い出した。

 その時は、傍の使用人がいたから牽かれずにすんだが、以前もこんなことあったなという既視感が生まれ、その夜に思い出した。


「なんていうこったい……」


 立ち鏡で己の姿を見て愕然した。

 見慣れた姿ではなく、いかにも少女向けのアニメのクール系美少女(カラーが紫とか青に分類されそうな)だったからだ。

 菫色の髪に空色の目。少し切れ目で唇は桜色。利発そうな顔立ちは、将来有望という感じだ。

 さて、お気づきの方もいらっしゃるだろう。そうわたしは、異世界に転生してしまったのだ。

 うわーい。よくある転生ものだー。ただし、自分がいた世界ではない。ファンタジーだぜ。笑えないぜ。

 その話はおいといて。


 さて、どこから話そうか。とりあえず前世の話をしようか。

 前世の名は、浅野有里。とある喫茶店で働いていた二十七歳の女。

 飛び抜けた能力だとか美貌とか持っていなかったけど、イケメンな彼氏がいた。アイドル以上に顔が整ったイケメンで、当然モテていた。女の子には優しかったし、実家がお金持ちだった。愛想も良かった。しかし、この男……弱点があった。天は二物を与えず、という諺があるが、彼の場合は三物は与えられたが、それらが宝の持ち腐れになるくらいの弱点があった。


 それは……かなりの浮気性だっていうこと。


 付き合い始めて七年。浮気された数は三桁になってから数えるのはやめた。

 どうして三桁越えても別れなかったのかって? しこかったからだ。別れる宣言したら、一日で着信とメールが百件越えた。それで私が折れて、なあなあで付き合い続けていたけど。

 思えば、浮気の数が三桁越えた時点で意志を曲げず別れるべきだった。住所も職場も変えてまでしてアイツから遠ざけるべきだった。


 そして……悲劇が起こった。


 いつもようにアイツの家に行き浮気現場を目撃して、今度こそ別れてやる邪魔をするな、と帰ろうとしたらアイツが引き留めるから、股間に会心の一撃をくれてやって飛び出した。

 わたしは激怒した。そしてBL漫画を思い出して気分が上昇したところで、トラックに跳ねられた。青信号で横断歩道を渡ったはずなのにだ。


 そして現世のわたしの名前は、ヴィオレット・オルタンス。

 外国人だと思うだろう。しかし違うのだ。何故なら、わたしが現在いる星は地球ではないのだ。ここはトルージェという世界で、その中で大国といえるタルズト。

 わたしはオルタンス伯爵の娘として生まれた。つまり、伯爵令嬢だ。前世はめっちゃ普通の家庭生まれだったのに!


 おっと、語り口調が解けてしまった。失敬。

 家族はとても暖かいし、嫌なこともない。優しい父と美しい母。そして天使のように愛らしい弟。そして良くしてくれる使用人たち。

 とても良い環境だ。金持ちで家庭環境も良い。そこに不満はない。だが、物足りなさがかなりある。それは思い出す前からあったが、思い出したおかげでその正体がやっと分かった。

 言っておくが別にあの人が傍にいないから、とかそういう乙女チックなことではない。そんなもの、前世で置いてきたわ。あの浮気野郎のせいで。


「漫画がないとか…オワタ」


 がくっと手と膝をついて、絶望した。

 ここには観劇と小説がある。テレビとか映画とか技術的に無理だから、諦めるしかない。

 けど! 漫画だけは譲れない!

 なぜこう絶望しているのかというと、私は前世、重度のオタクで腐女子だったのだ。


 そう腐女子。婦女子でも、部屋が汚い女だとかそういう意味でもない。

 男同士の恋愛が三度の飯よりも大好きなほうの腐女子だ! 彼らの生活を壁やベッドとかになって見守りたいほうの腐女子だ。

 そしてそれは現世でも受け継げられた。


 男同士の恋愛おいぢいよおおおおおもぐもぐもぐ。あ、ゴッホン。

 この国でもBLを題材とした作品があるが、小説と観劇しかない。

 そう、観劇と小説。漫画がない! そもそも漫画自体存在しない!!

 元々小説は読むが漫画のほうを好む私にとっては、ああああああああああ! な、感じなのだ! 語彙力がなくてごめんなさい。


「そうだ……」


 ゆらり、と立ち上がる。


「ないのなら、作ればいいんだ……」


 漫画というジャンルを、文化を!

 道のりは険しく長いが、やってやる。やるしかない!!

 私にとってマジで死活問題だからね!!


「ふ、ふふふふふ腐腐腐腐……待っていろ、BLうぅぅぅ!!」


 ああ、早く、早く! 絵で男と男が絡んでいるのが見たいいいいぃぃぃぃぃ!!


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ