最終話「職人の前で」
「殺してくれって、貴方『不死』なんでしょ?」
「ああ、自分で殺る分にはな」
「だが無意識の間に致命傷を負えばわからない。さっき買ってきた睡眠薬で寝てる間に『お前』が俺に致命傷を与えれば……」
「そんなこと、できるわけないじゃない!」
依頼人の言葉はしかし静寂を生むだけであった。その言葉に今度は職人の口元がつり上がる。
「なんだ?人を殺す覚悟もないのに『心臓を下さい』なんてほざいてたのか?」
「だって、貴方がやるものとばかり」
「もう俺は研究所のモルモットじゃないんだ。そんドMなことしねえよ」
「でも村の人たちにはしてるじゃない!」
「あいつらには俺を匿ってくれた恩義があるからな。腕の一本や二本大したことない。だがお前にそんなものはない」
「自分でやれっていうの?」
「隣の部屋に生理食塩水と臓器保護ケースがある。俺を殺した後、心臓を摘出して移せば四五日はもつだろうよ」
「……」
「さあ、どうする?」
▼▼▼
長い長い夜が明け、依頼人は職人の家を後にする。
手元にあるのは生理食塩水漬けにされた職人の最期の『作品』
「……」
それを大事そうに抱えて依頼人は歩く。だが、その顔に生気はない。彼女はただ、遠い祖国で待っている彼女の母親の元へと帰るだけーーー。
「ありがとな」
そんな言葉がどこからか聞こえた気がした。
完
これにて物語は完結です。最後までお読み頂き誠にありがとうございました。作者の次回作にご期待下さい。ではまたどこかで。




