第7話「暖炉の前で③」
「5年前の医療用人造人間研究所爆破事件。それによって不死である筈の貴方たちは何故かほぼ『全滅』した」
職人は依頼人の言葉一つ一つに注意を向ける。
最早暖炉の薪は炭と化していたが二人がその事に言及する事は無かった。
「実は貴方たちの人権を訴えるテロリストたちが未知のウィルスを感染させたなんて説もあるけど、それだって虐殺したことには変わりない。それに重要なのはそこじゃない」
職人の額から汗がこぼれ落ちる。
依頼人は口元をクイッと上げて微笑む。
「後の調査で判明したのは医療用人造人間の遺体の数が一体だけ足りなかったってこと」
「!!」
「爆破の衝撃で木っ端微塵になったのか、または爆破事件の首謀者だったのか。どちらにせよ人類は彼を血眼になって探したわ。研究員も資料も焼失してしまったんだから当然よね。そうして始まった大捜索のターゲットはかの有名な児童本になぞらえてこう呼ばれたわ」
「……ウォーリー」
「流石ね」
「お前はどこの国の調査員だ?」
「どこの国にも属してないわ。私はただの一般市民よ」
「なら『何を』望む?」
依頼人はここにきてその表情を初めて暗く落ち込ませた。そして出てきた言葉はとても弱々しいものだった。
「母が重い心臓病なの」
「なるほど」
「色んな病院を回って、ちょっとでも効果がありそうな噂なら全部試した!でも良くならない。医師が下した余命はあと半年」
「ほー、そりゃもう詰みだな」
「もう駄目だと思った時に親戚の友達が噂で聞き付けたのが、北の国の名医の噂」
「……」
「その人は自分を『職人』と名乗り、どんな病気でもたった一人で完治させる名医だけど、村の誰一人として紹介はしてくれないし、そもそも余所者は村に入れない」
「その筈だったんだけどな」
「この小さな体が役立つ日が来るとは思わなかった」
「どうやって入った?」
「車のタイヤとタイヤの間にしがみついて」
職人は思わず口笛を吹いたが、依頼人はお気に召さなかったらしく話の路線を無理矢理戻す。
「お願いします。貴方の心臓を下さい」
「お断りだ」
だが職人の気持ちにも変わりはない。全てを話した依頼人は焦りから早口になるのを抑えられなかった。
「お金ならあります!一生ここで下働きもします!この体も貴方に捧げます!だから……」
「何度も言わせるな。答えはノーだ」
「そんな……」
「だが、俺の願いを叶えてくれるなら作らんでもない」
「……!」
「俺を殺してくれ」