第3話「薬屋の前で」
「この店で睡眠薬と調合に失敗した薬をわけてもらう」
「それって美味しいの?」
「効いても効かなくても薬は苦いものさ」
「そうでしょうね。わたしも行くわ」
職人は勝手にしろとばかりに目の前の『薬屋』と書かれた扉を開けると店内にドカドカと入っていく。そして依頼人も当然の様に職人の後ろからトテトテとついていく。
「いらっしゃいな、『死にたがりの職人』さん。今日も駄目だったのかい?」
「だからここに来たんだろ。いつものを」
「はいはい。前みたいにその辺の川にでも捨てられたらいいんですがね?こっちも処理が楽になって助かってますよ」
「本当はまだやってるんだろ?」
それを聞いた薬師はカッと怒りだした。
それはもう見られてる職人の顔に穴でも空くのではないかというほど強い威圧感を放っていた。
しかし二人の態度に気付くとふんっと鼻をならして戸棚からいくつかの包み紙を取りだし職人に手渡した。
「そんな怖いこと言わないで下さいよ」
「悪い冗談だ。だが取り扱いには気を付けろよ。今日はこれだけか?」
「弟子たちも成長して失敗作が少なくなってきたんでね」
「俺としてはまだまだ失敗してもらいたいんだがね」
それを聞いた薬師はまたカッと怒りだした。
それはもう見開いてる目から血がピューピュー飛び出る程遠慮のないものだった。
しかし二人の態度に変わりがないのに気付くとチッと舌打ちをして目薬を取りだし、慣れた要領で両目に差した。
「そんな意地悪なこと言わないで下さいよ」
「悪い冗談だ。支払いと、いつもの燻製肉だ」
「有り難い。これ位のご褒美がなきゃ弟子たちもやる気にならないんでね」
「おいおいちゃんと勘定したのか?俺がちょろまかしてるかもしれないぞ?」
それを聞いた薬師はもう怒らなかった。目からは血の涙が滴り落ちていた。
「何年の付き合いだと思ってるです?」
「悪い冗談だ。因みにまだ朝の洗顔は川でしてるのか」
「まさか、あれ以来井戸水を使う様にしてますよ」
「そりゃそうか……じゃまたな」
職人は薬屋を出ると雪が降り積もる中ノシノシと歩き出した。そんな職人を追いかけて依頼人は問いかける。
「ねえ、またどこかに行くの?」
「ああ、次は服屋だ」