第2話「肉屋の前で」
「この店で燻製肉を買う」
「それって美味しいの?」
「食べたことがないからわからん」
「わたしも行くわ」
職人は勝手にしろとばかりに目の前の『肉屋』と書かれた扉を開けると店内にドカドカと入っていく。そして依頼人も当然の様に職人の後ろからトテトテとついていく。
「よう、『死にたがりの職人』さん。今日も駄目だったのか?」
「だからここに来たんだろ。いつものを」
「しかも今日は子連れときたもんだ」
「子どもじゃないわ。依頼人よ」
それを聞いた店主はドッと笑いだした。
それはもう叩かれたテーブルが泣き出すんじゃないかと思うほど遠慮のないものだった。
しかし二人の視線に気付くと慌てて燻製された肉を職人に手渡した。目元にはまだ涙が残っていた。
「いや悪い悪い。あまりに面白くて」
「あまり手荒に扱うなよ?また壊れるぞ」
「それよりいい加減うちの屋根から飛び降りるのを止めてくれないか?」
「駄目だ。ここの屋根がこの村で一番高いんだからな」
それを聞いた店主はまたドッと笑いだした。
それはもうテーブルを叩く手が腫れ上がるんじゃないかと思うほど遠慮のないものだった。
しかし二人の視線に気付くと慌てて職人から代金を受け取り釣り銭を返した。目元にはまだ涙が残っていた。
「いや悪い悪い。その答えも聞き飽きた」
「それはそうだ」
「ところでまた明日もうちに来るんだろ?」
「それはない。今夜こそ死ぬつもりだからな」
それを聞いた店主はもう笑わなかった。目元の涙はいつのまにか乾いていた。
「もう止めときなって。どうせ死ねないよあんたは」
「そんなことはない。じゃあな。最期の別れだ」
「お得意様のあんたがまた来るように神様に祈っとくよ」
「なら俺は早いとこ神様とやらに会える様に祈っとくよ」
職人は肉屋を出ると雪が降る中ノシノシと歩き出した。そんな職人を追いかけて依頼人は問いかける。
「ねえ、またどこかに行くの?」
「ああ、次は薬屋だ」