1-04 居候になりました ①
ほのぼのが続きます。
さてと、変なことに巻き込まれて時間を食われてしまった。
ところで神社やお寺はどこにあるんだろ? 流れ的にそろそろ見つかるかなぁと思っていたら何故か商店街に出てしまう。
『不器用にも程があるだろ』
五月蠅いですよ、リンネ。
おっかしいなぁ。ぶきっちょが方向感覚にまで影響を与えるなんて、ぶきっちょさん仕事しすぎですよ。
仕方なく商店街を歩いていると、妙に寂れた感じがした。
夜中だからシャッターが閉まっているのは当然なんだけど、そのシャッターの幾つかに貼ってある張り紙が目に止まる。
もちろん、ご察しの通り、店舗閉店のご案内。日付を見ると……あ、ダメだ。今日が何日か分かんない。
定番だけど、近くに大きなショッピングモールでも出来たのかな?
そんなことを考えながら商店街を歩いていると。
『お父さんなんて嫌いっ!』
突然そんな声が商店街のどこかから聞こえていた。
「へぶっ」
「きゃぁっ!?」
ちなみに最初の声が私です。本日二回目の曲がり角でバッタリ。……向こうが飛び出してきたのは路地だけど、真横から体当たりをもらった私はものの見事に吹っ飛んだ。
ぶつかってきた人も尻餅をついていたけど。
「いたた…きゃあぁ、あなた大丈夫っ!?」
「……一応は」
すっころんで逆さまになったまま私が答えると、その女の子は赤い顔で私の捲れたスカートを戻して立ち上がらせてくれた。
「ごめんなさいっ、私、前見て無くて…」
でしょうね……。
「大丈夫、慣れてるから」
「…慣れてるの?」
うん、本日二回目だからね。仕方ないね。
「あらためてごめんね…私、飯屋美紗。あなた……お姫様みたい…」
その子…美紗は私の全身をマジマジと見て溜息をつくようにそう漏らした。
歳は私より少し上かな? ヘルメットみたいなボブカットのちょっと可愛い女の子だけど、なんだろ……ちょっと懐かしい感じがする。
「私は…」
「美紗っ、何があったっ!」
名乗ろうとした私の声を遮るように彼女の名を呼ぶ声が商店街に響いた。…ちょっと今は夜中ですよ?
「お父さんっ、今何時だと思ってるのっ!?」
美紗ちゃん、あんたの声もデカい。でも今の声でもどこの家からも窓が開く気配がないから、きっといつものことなんだろうなぁ。
「おお…、美紗が無事ならいいんだが……家出は止めてくれたのか?」
「そうそう、お父さんなんて嫌いよっ」
「なにぃ!?」
ダメだ話が進まない。
知り合いだったら、物理的にツッコミいれて黙らせてもいいけど、そこまでする気がない…と言うか関わる気がなかったので、そのまま歩み去ろうとする私の手を女の子が掴んだ。
「ダメよっ、怪我してるかも知れないから手当てしないと」
「そいつぁてぇへんだっ! 美紗っ、家に入ってもらいなっ」
「分かったわっ、お父さんっ」
……え? 喧嘩しなくていいの?
それに父ちゃん、どこの江戸っ子だよ。ここは東京じゃないでしょ。
何故か私は美紗と父ちゃんに引きずられて彼らの家に連れ込まれた。
怪我の治療とか言っていた気もするけど、ところがどっこい怪我なんてしていない。
まぁ油断して身体から魔力をすっかり抜いているとするんだけど、さすがに10歳くらいから身体に魔力が馴染んだのか、寝ている時に【勇者】クラスから攻撃されない限りは怪我なんてしないのです。
「ユルちゃ~ん、パジャマここに置いておくね~」
「は~い」
と言う訳で私は久々に日本のお風呂を戴いております。どう言う訳だ?
こう言う訳だ。
まず、家の中に入った時、明るい照明の下で私を見た瞬間、父ちゃんが固まった。
ほら、私の外見って特殊だからね。気味の悪いほど精巧なお人形から一歩だけ人間に足を踏み入れている感じだ。
だから父ちゃん、頬をバラ色に染めてモジモジすんな。
ところが、さっき私の顔を見ているはずの美紗も固まっていた。
「は、はう、どう、ゆう、どう?」
「日本語しゃべれ」
私、最初から日本語しか話してないよね? 美紗は私と日本語で会話してたよね? しかも英語のつもりかも知れないけど『神霊語』先生が翻訳拒否してるよ。
「ユールシア・ラ・ヴェルセニアと申します」
せっかくだから『公爵令嬢』モードで、スカートの裾を摘んで優雅に挨拶すると、美紗と父ちゃんはポカ~ンとした顔で拍手してくれた。
そんな反応は初めてだ。
そんな感じで打ち解けあって、じゃあ帰ろうかと思ったら、正気に戻った父ちゃんに泊まるように勧められた。
そんな感じでお風呂を戴いている訳だけど、何と檜風呂だった、すげぇ。
私の着ていた黒銀ドレスは、今はチョーカー形態で私の首に巻かれている。
やっぱり呪いは健在か。これは呪われた装備だから脱げないんですよ。海産物に呪われた装備だけど。
下着も靴も一体式で、チョーカー形態になると同時に玄関で脱いだ靴も消えているはず。靴を脱いだ時点で素っ裸にならなくて良かった。
でもそうなると御パ○ツ様はどうしよう?
あんなきわどいモノだけ残られても、単品で履く度胸はありませんけど。
久々に日本製のシャンプーリンスで髪を洗うと、悪魔の毛皮である金の髪が一段階、輝きを増した気がする。
半年近く亜空間にこもっていたから、髪も結構伸びてるなぁ。以前は胸くらいの長さだったけど、今はおヘソ近くまで伸びていた。
普通、貴族の女の子は長い髪を結い上げたりするんだけど、私は髪が傷みそうだから一度も結い上げたことがない。ちなみに生まれてから今まで切った髪は、侍女さん達が全部保存していた。愛が重すぎるわ。
お風呂場にある鏡に全身を映してみる。
聖王国でも硝子製の鏡はあったけど、大きくて歪んでない鏡は本当に久しぶり。
ふむ…。そこそこ育ってきたではないですか?
さすがにもうツルペタではありませんね。
まぁ11歳の身体描写なんて興味ないでしょうから、ここで止めておきましょう。
悪魔だからか生理現象がほとんどないので、身体はあまり汚れません。
私の肌には毛穴も汗腺も見えるほど存在しないので、ツルッツルで良いのですが、偶に出る冷や汗とかはどこから出ているのでしょ?
汚れないと言っても、やっぱり埃とかあると汚れる訳で、久々のあったかお風呂は気持ちよかった。
そう言えばユールシアになってから、一人でお風呂は初めての気がする。
はい、侍女さん達に身体を洗ってもらってましたよ?
ちっちゃい頃からそうだと、羞恥心なんてまったく残っていませんね。もちろん女性限定です。
だからもちろん、ここにリンネはいない。
悪魔に性別とかあるの? とか思ったことはあるけど、肉体的には曖昧だけど精神的にあるのです。
私は肉体的にも『女性体』なので特殊ではあるんですけどね。
リンネは今頃、父ちゃんの逞しい上腕二頭筋に抱かれているはずです。残念だが私の好みは細マッチョだ。
お風呂からあがって身体と髪の水分だけタオルで拭い取る。
ドライヤーもあったけど使わなくても問題ない。私の身体は適当だから、乾けばある程度勝手に纏まってくれる。
悪魔の身体が勝手に『最良』の状態になろうとするからだね。おかげで食べ過ぎても太ったりしないけど、どうせ人間の食べ物なんて美味しくない。
供物ならちょっとはマシなんだけど、悪魔にとって人間の高級お菓子は、砂糖も卵もバターも使ってないクッキーを食べている感じなのです。
……なんか思考があっちゃこっちゃ飛んでますね。でも女の子☆の思考なんてそんなモノです。気にしてはいけません。薄くなりますよ? ワカメ食べますか?
今なら特別に月あたり乾燥ワカメ200キロから注文受け付けますよ。ネット注文の場合は、私が改良した『自立型』を向かわせることになりますが。
さて、美紗が用意してくれたお着替えですが、ちゃんと御パ○ツ様も付属しておりました。青と白のストライプ。
……彼女はぎゃるゲーか、エ□ゲーのヒロインか何かなんでしょうか?
美紗は中学生だから違いますね。偉い人に怒られてしまいますから。
美紗のパジャマを着てお風呂場から出ると、こっくりこっくり船をこぎながらも居間で私を待っていてくれた。
父ちゃんはリンネを連れて寝室で寝てしまったみたい。凄いなリンネ。空気を読める悪魔ナンバーワンの称号はリンネに進呈しよう。
「…あ、ゆるひゃん、あがったぁ?」
「うん、お風呂戴きました、眠いでしょ? 寝よう寝よう」
口元から涎を垂らしながら幼児退行した口調の美紗を軽く揺さぶる。時計を見ると、もう夜中の3時じゃないか。
それにしても、ここでも『ユル』か。そこまでしてゆるゆるにしたいのか。
「ぱじゃま、だいじょうぶ?」
「うん、丈は丁度いい。掴んでないと下がずり落ちるけど」
「………」
別に美紗は太っていないよ? 年相応だよ?
美紗のお部屋に布団は敷いてあったけど、何故か落ち込んでいる美紗と一緒の布団で眠ることにした。
何かとてもつらいことがあったんだね。美紗と違って最近育ってきた私の胸でお泣きなさい。
そして私は、この世界に戻っての一日目を終えた。
そう言えば美紗って、父ちゃんと喧嘩したんでなかったの?
背中を見せたら追い打ちを掛けていくスタイル
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