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悪魔公女Ⅱ 『ネタバレ倉庫』  作者: 春の日びより
第二章・現代社会見学編
27/47

2-05 ユールシアの日常。その3



 

 私とリンネは恩坐さんの後を追う。

 メイド服だと目立つので早き替えできるゴスロリ衣装に着替えた。……これどっちが目立つだろ?

 ちょっと想像してみて欲しい。

 黒猫を連れた金髪ロリメイドと、黒猫を肩に乗せた金髪ゴスロリ少女。

 ……あ、うん。目立つなと言うほうが無理だね。そもそも私の悪魔の毛皮であるキラキラ金髪のせいで、私は遠くにいても凄く目立つ。

 まぁそのキラキラのおかげで、私を携帯で撮影しようとしてもまともに写らない訳だけど……。心霊現象かよっ。

 そんな訳で普通の尾行はまず不可能。車で移動されたら悪魔の身体能力を使わないと追えなくなるけど、そんなので移動するのは真夜中だけにしておきたい。

 

「俺が何とかしよう」

 

 そんな声が聞こえるといきなり目の前に褐色の美丈夫が現れる。

「……なんだか見るたびにリンネっぽい外見になっていってる気がする。元の…えっと何とかさんの原型が思い出せないくらい変わってるよ?」

「そうか? まだ慣れてないからな。そのうち安定する」

「別にいいんだけどさ。……その服はどこから来ているの?」

 前回までのダークスーツは、何とかさんが元から着てたみたいだからいいんだけど、今回は若干ラフな格好になっていた。

「どこからって、……毛皮の体毛を使えば服ぐらい作れる。あの金髪と白髪の悪魔も普通にやってただろ?」

 ……え? 私、出来ないんですけど。

 そう言えばティナとファニーが私のドレスを作ったんでしたね。

 どうやってやるんだろ? でも教えてもらってもぶきっちょスキル持ちの私は出来ない気がするわ。

 でも本当に私って悪魔的なスキルが無いなぁ……。人間属性の弊害かしら? 悪魔的な本能が弱い気がする。……悪魔的な食欲は消えないのに。

 

「それで俺が連れて行くので問題ないか?」

「うん、お願い」

 

 一緒に並んでリンネが私の肩を片手で抱いて歩き出す。

「……お? おおおお?」

 ……面白い。街の中を歩いていると、気づくと自然に数百メートル進んでいる。

 私も歩きながら高速移動は出来るけど、ここまで自然には出来ない。っと言うか、私のは虚仮威し用だからすっごく目立つのよね。

 でもこれってさ……リンネが人型にならないと出来ない訳じゃないのよね?

 いいんだけどさ。デートみたいで。

 ただ……どう見ても兄妹には見えない、一回り以上歳の離れた男女で、しかも女の子が12歳だと見られまくるねぇ……。

 これが日本人同士なら確実に通報されるね。

 それはいいんだけど、

「……遊んでいるうちに恩坐さん見失ったね」

 隣を歩いていたリンネが足を停めて呆れたような視線を向けてくる。むぅ、何よぉ。自分だって気づかなかったじゃない。

「違う。ユールシア……お前、あの男と『契約』してただろ?」

「……あ」

 そう言えばそうでした。

 思い出して片手を見ると、普段は消えている細い鎖が浮かび上がってきた。…あれ?2本あるよ?

「片方はヒライネスから奪い取った男の魂だろ」

「ああ、ギアスさんのかぁ」

 この世界への道案内で放流したギアスさんとの鎖でした。……すっかり忘れてた。

 でもどうして繋がっているの? 放流した時は、鎖は魂に巻き付いて私の手から離れていたのに。

「放置しすぎて転生したんだろ。時間軸もずれたみたいだからな」

「生きているのか……」

 ギアスさんとの契約は完了しているから次に死んでも魂は私のものだけど、そのうちに様子を見に行きましょう。とりあえず今は恩坐さんの後を着けます。

「そのギアスの鎖と間違えるなよ?」

「ははは、まさかぁ」

 

 

「……間違えるなって言っただろ」

「あ、あれぇ?」

 

 気がつくととても遠くに来てました。距離的に言うと東日本から西日本に行ったくらいです。大したことありませんよ? ホントに。

 目の前には、少し古めの大きな和風家屋。表札を見ると6人家族みたいだね。

 まだ学校が終わる時間じゃないから辺りはとても静か。

「ちょっと行ってきます。リンネは待っててくれる? 目立つから」

「ユールシアほどじゃないが」

 うるさいですよ。

 そっと裏手のほうへ回ると、そこそこ広いお庭に縁側があって、お庭が見えるように開かれていた障子の向こうに仏壇と……一人のお爺さんがいた。

 

   *

 

 その老人は二年前に亡くなった妻の遺影にそっと手を合わせる。

 心から愛していた妻に先立たれ気も弱くなり、それから寝込むことも多くなって自分がそれほど長くないと感じていた。

 何故だか分からないが、彼は死後の世界を信じてはいなかった。魂は生まれ変わり、愛する妻も問題がなければ、いづれどこかの世界に生まれてくるだろう。

「……悔いのない人生だった」

 思えば幼い頃から不思議な想いに囚われ、妻と出会い結ばれたことで、すべてが満たされた思いがした。

 死ぬことに恐怖はない。ただ、……何かを忘れているような気がした。

 

 その時、庭に誰か入ってきた気配がした。

 孫の学校が早めに終わったのか、近所の誰かがお茶飲みにでも来たのかと考え、ゆったりと振り返る彼の目に映ったのは、金色の天使のような美しい少女だった。

「君はどこの、…………っ!」

 その少女の顔を見て、彼はすべてを思い出した。

 前世のこと。いや、それ以前のことさえ。

 だがその恐ろしい『悪魔』の正体を知って、老人はゆっくりと頭を下げた。

 

「……ありがとう。もう思い残すことはない。私の魂をあなたに捧げよう」

 

 その言葉に少女は少しだけ微笑むと、彼に向けて新たに数本の鎖を巻き付ける。

 

「では契約により、あなたは死した後、魂となって永遠に私に仕えなさい。ではその時までしばしのお別れです。あなたに『光在(ひかりあ)れ』……」

 

 少女の言葉が終わると黄金に光が満ちて、光が消えると少女の姿も消えていた。

 それだけでなく、持病や古い怪我の痕まで消えて身体が楽になっていることに気付いた彼は、意外と甘い悪魔である彼女に仕えることを楽しみにしながら、彼女が居た場所にまた深々と頭を下げた。

 

   *

 

「あれで良かったのか?」

「うん」

 神聖魔法で目眩ましを掛けてこそこそダンボールをかぶって抜け出してきた私を、リンネが迎えに来てくれた。美紗がすにーくみっしょんはこれが正装だと言っていましたが、これで合っているのでしょうか。

 リンネが言いたいことも理解できる。一度契約は完了しているのだから、私があそこですぐに魂を回収しても問題はない。

 でもそれは『食料』として使うならだ。

「ギアスさんが折角やる気になっているから、有効に使わないと」

 彼は自分から魂を『捧げる』と言った。

 その瞬間からギアスさんの魂は、契約で縛られた魂から一段階昇華して、私の眷属として使えるようになった。

 私の従者(アクマ)達と同じだね。悪魔としては言い方は変だけど、言わば私の『信者』のような感じ? 身内になったと言ってもいい。

 うちはブラックな企業じゃありませんから、出来れば気持ちよく仕えて欲しい。

 次の転生も記憶が残るのか分からないけど、二度の異世界転移を耐え抜いた魂なら、下っ端悪魔からの下積みからでも頑張ってくれるでしょう。

 

「それじゃ、恩坐さんを捜しましょ。リンネ先生お願いします」

「次は間違えるなよ」

 

 またリンネに肩を抱かれた状態で移動する。

 この移動ってかなり速いよねぇ。私が翼で飛ぶほどじゃないけど、私がそんな速度で飛んだらネットで騒がれるんだろうなぁ。

 速いは速いんだけど、それなりに時間も掛かる。来る前は午前中だったけど、目的地に着いた時には空が茜色に染まっていた。

「人間の血のような色だな」

「……そうね」

 なんだそれは。『まぁ、ロマンチック』とでも言って欲しいのか、この悪魔め。

 私もちょっとそう思ったのが悔しい。

 

「それであの男はどこだ?」

「ん~…、あっちかな」

 手に巻き付いた『契約の鎖』を表示させて方向を確認する。

 ちなみにギアスさんの鎖は私に隷属したことで『イチゴ柄』に変わっていた。これでもう間違えないね。……なんでだよっ。

 これはなに? 私のとこのチームカラーみたいなもんなの? 誰が決めてるのよ? まさか、私の『自称お兄ちゃん』じゃないでしょうね?

 ……有り得るな。

 あの魔神(ひと)、こっちの世界でもかなり有名だったはずだから。

 

 そんな感じで歩いていると、数百メートル離れた古いお寺に数人分の人の気配を感じた。気配というか、何か騒がしい。

「……む」

「どうしたの?」

 ふと横にいるリンネの顔を見ると、何かに気づいたって言うより、何かを思い出したような顔をしていた。

「そう言えば、あの場所に障気を撃ち込んだ気がする」

「……は? なんでそんなことを?」

 そんなことしたらここら辺が汚染されちゃうじゃないか。ここは人が住んでいるところから離れているけど。

「単純に魔力が欲しかっただけだ」

「……ああ、なるほど」

 何となく空気が美味しいと思ったら、大気に魔力が帯びているのね。……でもこれって、勝手に『魔物』とか発生しちゃうんじゃないの?

 

『グォオオオオオオオオオオオオオオオオッ!』

 

「…………」

「ヘルハウンドみたいな鳴き声だな」

 フラグ回収速いなっ、こんにゃろ。しかも『みたい』じゃなくて、そのヘルハウンドそのものではないですか?

 確かそれって普通の魔物じゃなかったはず。……カバより弱いけど。

 つまりは魔物に疎い私でも知っている、悪魔系の魔物だったよね?

 

「一匹だけかな?」

「わからんが、ああ言う知性のないモノに彷徨かれると鬱陶しいな」

「それじゃ目立たないように始末をお願いできる? 私はお寺のほうに行ってみる」

「殺しすぎるなよ」

 それだけ言うと、リンネは『人型』から『黒猫』になって、一瞬で見えなくなった。

「……失礼な」

 人のことを殺戮鬼のように言わないで欲しいわ。

 そもそも悪魔は快楽的に人を殺しはするけど、それは趣味と食欲的なもので無作為に大量殺人なんかしない。……うちの子達以外は。

 なんなんでしょうね、ティナなんか愉しんで殺しているんじゃなくて、歩いている先に蟻の行列があったから、とりあえず踏んでおいた的な殺し方をするんだよねぇ……。

 とにかく、お寺のほうを見てみましょ。

 

『グァオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!』

 

 私が近づくと、お寺を囲む塀が内側から吹き飛び、炎と共に数人の人間を外に吹き飛ばした。

「ぐ、あ」

 私の足下まで転がってきたその人はまだ生きていたけど、全身に火傷を負っている。

 ……こっそり様子見しようと思っていたのに、あっさりダメになったわ。

「……きみ、…にげ…ろ…」

「…………」

 やだなぁ……見捨てにくくなるじゃない。

 

 壊れた塀の向こうには数人の人影と、それ以上に倒れている人達が居た。その中からゆっくりと真っ黒で巨大な『犬』が壊れた塀から外に出る。

 ヘルハウンド。……獣型の【下級悪魔(レツサーデーモン)】だ。

 その力は普通の下級悪魔を上回り、順当に育ては【魔獣】にまでなるけど、あまりにもアホすぎて暴れまくるからすぐに討伐されちゃう。

 でもそれは聖王国があったあちらの世界での話だ。弱点も特性も存在さえも知られていないこの世界では、倒すのには軍隊が必要だろう。

 

『グァアッ!』

 

 私が気配を抑えているせいか、ヘルハウンドが私に向けて牙を剥き出す。

 ………そうか。私に牙を剥くか、愚かな獣め。

 じわり…と瞳にだけ悪魔の気配を宿らせると、ヘルハウンドがビクッと身体を震わせて硬直した。

 おお、よしよし、いい子ですねぇ。この世界で無理矢理発生した個体だからどうかと思ったけど、君はちゃんと『私』のことが判るんだね?

 でもゴメンね。うちにはネコが居るから君は飼えないんだよ。

 

「……『天照らす光在(ひかりあ)れ』……」

 

 黄昏に迫る闇に染みいるように柔らかな光が辺りを包み込む。

 またあるかも知れない対【悪魔公(デモンロード)】戦用に創った『広域浄化魔法』。この中では悪魔は弱体し、失った力を回復できない。この私以外は。

 実験だからリンネに被害が及ばないように控えめに使ったけど、ヘルハウンドは目に見えて弱体化したように感じる。

 ……調整すれば結構使えるかも?

 

「……なに、が……」

 私の足下で倒れていた男の人が、意識を取り戻してそう呟いていた。

 ……回復している? 今の魔法に回復効果もあったのか。

 でもどうしよ。これって、目撃者は消さないとダメですか?

 

『……グァアアアアアアッ』

 

 不意にヘルハウンドが動いた。私に敵対する根性があったのかと感心していたら、どうやら弱体から回復するために人間の血肉を求めたみたい。

 さて、どっちに味方するかな?

 そんなことを考えていると、ヘルハウンドの背後から誰かが飛び出し、拳を後頭部に叩き込んでヘルハウンドにトドメを刺した。

 かなり弱体していたとは言え、一撃で倒すとは……。かなり強い人間もいたものだとその人に視線を向けると……。

 

「……じょ、嬢ちゃん!?」

「……あ、」

 

 恩坐さんのこと、すっかり忘れておりました。

 

 



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― 新着の感想 ―
うちはブラックな企業じゃありません > 嘘だああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! ほら、すぐそこに焼酎一杯で戦わなくちゃいけないヒトが!
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