1-17 秋景色になりました ③
おとし魂。
少しやり過ぎたかなぁ……。人間の事情に関わりすぎるのは悪魔としてはあまり良くないんだけど。
ちょっと説明しましょう。
人間が持つ悪魔のイメージが、獣や動物をこねくり合わせたような外見をしているのは、人に姿を見せる悪魔が【下級悪魔】程度しかいなかったからです。
もちろん【魔神】みたいに人間社会を普通に出歩いている悪魔も存在する。
高位の悪魔が『人間』の姿をとる者が多いのは、獣の牙や爪に頼らず、生物として脆弱な人間の姿をしていても他の者に負けないと言う意思表示でもある。
例外として【魔獣】は闘争本能が高いから姿に拘っていないけど、大抵の高位悪魔が人の姿をとるのは、人間との駆け引きを楽しみたい面もあるからだと思う。
つまりは、高位悪魔は趣味のために人間の姿をして、人間から身を隠す。
そんな訳で正体がバレるかも知れないのに積極的に人間と関わる私は、悪魔としてはイレギュラー的な存在だ。
しかもこんな情報伝達が発達しすぎているこの世界で正体がバレることは、下手をすると人間すべてを敵に回しかねない。
そんなことはどうでもいいと考えている『悪魔』もいるけど、美紗やこの家の人達に嫌われたくないと思っている『人間』もいる。
そろそろ潮時かも知れない……。
この世界には里帰り的な意味もあったけど、最初から本来の目的は、お父様やお母様の居る聖王国に帰ることなんだ。
美紗のお母さんの琴美さんが色々気遣ってくれて……弄られている感じもあったけど妙に居心地が良くて長居してしまった。
現在の私の力は、人間部分の魔力は自然回復したけど、悪魔部分の魔力は半分程度しか回復していない。
リンネはこの世界が魔力が少ないとは言っていたけど、ここまで回復しないとは思わなかった。
積極的に魂を刈る必要がある。
もしかしたら私の前世の家族や友人がまだ生きているかも知れないこの世界で……。
「………あ、外国なら問題ないのか」
あっさりと酷い答えが出てしまったので、外国で魂を集めよう。
するとどこがいいのか? 独裁国家のトップとかあたりはどろどろの魂が集められそうだけど、命の価値が低いと魂の価値も自然と低くなるので、上質の魂を大量に集めるには先進国家に行くのが手っ取り早い。
私の嗜好的な好みで言えば、堂々とあくどいことをしている魂より、聖職に就いていながら地位を固めるために人を落としいれている『背信者』的な魂が欲しい。
……すると、某巨大宗教の総本山的なあそこかなぁ。
観光地だし、あそこなら私の外見でも悪目立ちはしないから一石二鳥である。
「こんな時に限ってリンネが居ないし……」
これ以上飯野家に愛着が生まれる前に出て行きたいのだけど、リンネがどこか遊びに出て行ってからまだ帰ってこない。
……帰ってきたらピンクの肉球ぷにぷにしてやる。
そんな感じで私は美紗のお部屋で自分の荷物を片付け始めた。
って言っても、元から着の身着のままでこちらに来てしまったので、持ち物は全部、琴美さんに買って貰ったか作って貰った物しかない。
全部持っていく訳にも行かないよねぇ。荷物になるし、服とかは美紗がこのまま着られるから申し訳ない。
まぁバイト代だけでいいか。
そう考え直して、衣類の整理だけしていると、ふと背後に人の気配を感じた。
「ユルちゃん……」
「…琴美さん」
振り返ると琴美さんが少し寂しそうな顔で私を見つめていた。
少し気まずい……。散々お世話になっておきながら、大変な時に私があっさりと出て行こうしているのを琴美さんは察したみたい。
いつものように夕飯の準備を一緒にと誘いに来てくれたのでしょう。ぶきっちょスキル持ちの私がいくら失敗しても琴美さんはいつも嬉しそうに笑っていた。
「そっか……行きたいところが決まったのね?」
「……そんなにはっきりじゃないんですけど、長居しすぎたみたいなので」
「気にしなくていいのに……」
琴美さんはエプロンを外すと、衣服を畳んでいた私の前に腰を下ろす。
「相変わらず器用じゃないのね……。洋服はこう畳むのよ」
「……うん」
琴美さんは私が畳んだ服を畳み直して、私はそれを無言で見つめていた。
「……でもいい時期かもね。ほら、この商店街って問題多いでしょ? ユルちゃんみたいな子はあまり関わらないほうがいい。ユルちゃんのおかげで大分活気は戻ったから、あとは私達大人がなんとかしないと」
「……うん」
ダメだなぁ……こういう会話になると私は語彙が減ってしまう。
そんな私を見て、琴美さんはクスッと笑って、私の顔をジッと見つめた。
「私ね……出来れば、ユルちゃんにはずっと居て欲しいって思っていたの。…あ、もちろん、ユルちゃんを縛ろうとしているんじゃないわよ? ただね……私、ユルちゃんのことを妹のように思っていたんだ…」
「………え?」
娘の美紗よりも年下の私を妹……? そんな思いが顔に出ていたのか、琴美さんの慈愛に満ちていた瞳がジト目に変わった。
「なによぉ……文句がありそうね」
「……いえいえ」
「まぁいいわ。……ユルちゃんにちょっと見て欲しい物があるの」
思わず私が視線を逸らすと、琴美さんは軽く溜息をついてから、一階に何かを取りに行き、すぐに戻ってくる。
「これなんだけど…」
「写真ですか?」
かっちりラミネート加工された一枚の写真を見せてくれた。
それは幸せそうな家族の写真。
お父さんとお母さん、そして三人の子供達。
「……この子って、琴美さん?」
「そうよ。私が高校生の時の写真だけど、こっちがお兄ちゃん。そしてこの小さな女の子が……亡くなった私の妹よ」
「…………」
そこには家族に包まれるように、とろんとした目付きの女の子が映っていた。
琴美さんに似ている。そして美紗にも少し似ている。
そして……眼の色も髪の色も違うのに、私とどこか似ていた……。
「のんびり屋で…不器用で…鈍感で…悪意に疎くて、いつもハラハラさせられたわ」
「……え~…」
いくら妹でも言い過ぎではないですか?
「でもね。……どんな時でもこの子が居ると明るくなった。ハラハラさせられたけど、みんなそれを嫌じゃなかった」
「………」
「この子が映っているのは、中学に入る寸前までしかないの。……高校入学前に病気になってね、高校生になる前に……」
「……そうなんだ」
「ユルちゃんはね……この子に良く似てるの。不思議ね……仕草やすることがそっくりで……、私は……ごめんね、変なこと言って」
「ううん…」
死んだ妹さんの面影を私に重ねていた。
だから初めて会った時から、琴美さんは懐かしそうにしていたのね……。
「ユルちゃんが本当にどこにも行くところがないんだったら、うちの養子になって欲しかったんだけど…」
「……ごめんなさい」
「ううん、いいのよ、ごめんね。困らせたい訳じゃないの。ただ……私達は本当にあなたを大好きだよって言いたくて…」
「……うん」
妹さんのこともあるけど、それだけじゃなくて家族全員が私を家族のように思っていると言いたかったみたい。
私も亡くなった妹に似ていると言われて不思議な気持ちになった。
腑に落ちる……これが素直な思いで、この写真の家族を見ていると、不思議に私もこの家族と一緒に暮らしていたような気持ちになった。
「この子のお名前は……?」
「うん……柚子って言うのよ。みんなユズちゃんって呼んでいたの」
そっか……。
私とこの子に何の関係があるのか分からない。
今の私の家族は、聖王国にいるお父様とお母様だ。
前世の記憶は曖昧で、自分のことは何も分からなかったけど、もしこの子が……ううん、何も関係がなくても、
このまま何もしないで消えるのは悪魔らしくないよね……?
あけましておめでとうございます。
本年も皆様が良き『なろう』ライフが送れることをお祈りしております。
さて第一章のクライマックス2話を2日と3日の0時に予約しております。
私はPC環境のない地元にいますので触れませんので失敗したらごめんなさい。




