1-15 秋景色になりました ①
まさか飯野家に半年近くもご厄介になるとは思わなかった。
もう秋になって私もそろそろ12歳になります。
たぶん10月が誕生月。聖王国もこちらと同じ一年は12ヶ月だけど、9月~10月は、秋初めの月、秋中の月、秋終わりの月と言われて、私は秋中の月の10日生まれだから、10月10日が誕生日になる。
はい、どうでもいいですね。
身長も伸びています。158センチ。……もう美紗より大きいのですよ、私は。
私がデカい訳じゃない。小学六年生なら160センチの女の子とかクラスに数人居ましたよ?
でも全体的にパーツは小さいから、そんなに大人っぽくはなっていないかも。
お父様の娘だからそれなりに期待している。この身体は結構脚が長くてその分だけ背が伸びていますが、私的には後10センチほど背が欲しい。
前世の自分はほとんど覚えてないんだけど、美紗くらいだった気がするからその反動かもねぇ。
ちなみに、久々に黒銀ドレスを着てみたら、色々育っているせいか、御パ○ツ様だけじゃなくて上の下着も生成されていた。……無駄な機能が満載だ。
さてどうして私が飯野さんちにずっと居るのかと申しますと、居心地良いのもあるけど、リンネが一週間とか平気で出掛けちゃうんですよ。
順調に野良の道に進んでますね……。
「いらっしゃうませー」
「おう、嬢ちゃん、いつもの奴くれ」
夏頃から常連になったお客さんが店に入った早々そう言った。
「まだ明るいのに……」
「いや、頼むよ…」
「うん、らーめん一丁と、焼酎、……氷割り?」
「…オンザロックで」
このお客さん、最近お仕事が忙しいらしくて、夜中に働いているんだって。昼間からお酒を飲んでる駄目な人…とか思ってゴメンね。
父ちゃんのらーめん屋にくるのは、こんな明るい時間にお酒を出してくれるお店が近所には無いからです。もちろん、父ちゃんのラーメンも美味しい。
ここには父ちゃんが集めた焼酎がいっぱいあるからね。父ちゃんとも意気投合しているようで良かったかな。
「はい、お酒」
「おう、………おう?」
ラーメンは父ちゃんが作りますが、お水やお酒を出すのは私の仕事です。コップに注いで持っていくだけだから。
「サービスです」
「………」
父ちゃんからは、他のお客さんが居ない時は常連さんにサービスして良いと言われています。
疲れてそうですからね。たっぷり呑んでね。
「………何故にドンブリ」
「あ、すみません、レンゲを付けます」
「………」
何か言いたそうにドンブリに注がれた焼酎と私を交互に見て、私がレンゲを差し出すとジワリと額に汗を浮かばせた。
「ストローのほうが良かったですか?」
「いやいやいや、ストローなんかで酒呑んだら一気に来るって…」
なんだかんだ言いながらも、お客さんはレンゲで焼酎を飲み始めた。
私はおっさん萌えじゃないけど、この人は妙に可愛い。
年齢は無精髭で老けて見えるけど30歳くらいかな? ちゃんとお髭を剃ればそこそこ格好良くなりそうなのに勿体ない。
難点はハードボイルドな外見に反してお喋り好きなところかな。
「それでベンザさんは、お仕事大変なのですか?」
「……どこの風邪薬だよ。俺は恩坐だ。相変わらず嬢ちゃんは綺麗な顔してよくわかんねぇ子だなぁ……。俺の仕事は肉体労働みたいなもんだし、夏の終わりから異様に仕事が舞い込んでくるようになったんだよ」
「へぇ……景気が良くていいですねぇ」
「……いいのかねぇ。俺みたいな仕事は暇な方がいいんだけどよ」
「暇なほうが良いの? 恩坐さんのお仕事ってなぁに?」
「こら、ユルちゃんっ」
不思議に思って首を傾げて聞いてみると、さすがに父ちゃんからカウンター越しにお叱りを受けた。まぁ、そりゃそうね。常連さんとは言え、根掘り葉掘り聞くのは宜しくない。
「いいんだよ、親父さん。そんなたいした仕事じゃないしな」
恩坐さんはそう言って何故か自嘲気味に笑う。
恩坐さんいい人だなぁ。これでもう少し年上で、もう少しダンディで、身なりに気をつけてくれたら惚れちゃいそうですよ。
でも私に構ってくれるのが女好きなのか、子供好きなのか、ロリ好きなのかで、だいぶ私の見る目も決まってくるんですけどね。
恩坐さんは声を小さくして内緒話のように話し出す。
「嬢ちゃん、俺は『正義の味方』なんだよ。悪い奴からみんなを守るのが仕事さ」
「おお~…」
思わず拍手してしまったけど、…あれ? これって私、幼児扱いされてる?
でも『正義の味方』って……それで夜のお仕事なら、警備員さんとかでしょうか? 自宅じゃないことを祈りましょう。
おざなりに拍手してしまったけど、若い娘に褒められるのは満更ではないようで、恩坐さんは焼酎をレンゲで掬いながら胸を張る。
「嬢ちゃんに困ったことがあったら、俺がやっつけてやるぜ?」
「やったぁ。じゃ、その時はお礼しないとね」
「ははは、焼酎一杯ご馳走してくれりゃいいさ」
「おっけーっ。恩坐さんが困った時は私が助けてあげるよ?」
「そりゃいいなっ。でも、嬢ちゃんに助けられるのは男として情けないから、命を賭けねぇと駄目だなっ、ははは」
「…………あ、」
突然、私の手に黒くて細い鎖が巻き付いた。
一瞬やばいかと思ったけど、この世界の人は魔力で出来た鎖は見えないらしく、恩坐さんも父ちゃんも気付いた様子はない。
でも……
「嬢ちゃん、どうした?」
「……ううん、ナンデモナイノデス」
「そうか? ……ちと呑みすぎたかな」
恩坐さんは違和感があったのか、心臓の辺りを擦りながら、ラーメンを美味しそうに啜っていた。
………やっちゃった。
恩坐さんと『悪魔の契約』をしちゃいましたよ。
私の手から伸びる細い鎖は恩坐さんの心臓辺りに伸びている。悪魔の契約は、悪魔か召喚術者くらいしか感じないはずだから気づかれはしないと思うけど、無意識にとんでもないことをしてしまった。
その驚きの契約内容は……っ。
悪魔の私に敵対する者を倒すことで、恩坐さんに焼酎一杯。
恩坐さんを私が助けると、恩坐さんの命……死後に『魂』が私の手に入ることになるのです。
しかも高位悪魔である【魔神】との直契約です。契約破棄はありません。魔神との契約を解除するには、違約金として千人分くらいの魂が必要ですから。
……うわぁ、すっごく詐欺っぽい。
わ、私は悪くない。……たぶん。
うん、大丈夫よね…? どこの警備員さんだか知らないけど、普通にお仕事をしている人は、悪魔の助けを必要とする機会なんて有りっこないもんねっ!
口は災いの元。
こうして罪のない一人の男性が悪の手に落ちてしまうのですね……。
……はい、少し自重します。
大人しくしている限りは、問題ごとがやってくることはない。……はず。
「失礼、ご主人はおられますか?」
お店の扉が開いてそんな声を掛けてきたのは、どこかで見覚えのある、厄介そうな人物だった。
恩坐さんは何気にお調子者
今年はあと年末に1話くらいですかね。




