1-09 中学生になりました? ③
学園編なんて夢だったのです。
最初のアレのせいで、まともな友人作りなんて入学一時間で諦めました。
そうなると学校にいる時間が無駄のように思えてきますが、そもそも何でこっちの世界に来たんだっけ?
ああ、そうそう美味しそうな魂を捜そうかと思っていたんですよ。
「あなたっ、公貴くんとどういう関係ですのっ!?」
ブレザーの制服を着た、少し釣り目の気の強そうな女の子が私に向かってそんなことを言い放った。
この話し方は、どっかのお嬢様かな? 話し方とか目付きとか私の上のお姉様を彷彿させて懐かしい。
「アタリーヌ姉様は元気にしているでしょうか」
「なんのこと!?」
「四集院さん、お店で騒がないでっ」
美紗の言う通り、父ちゃんのお店でそんなことを言われても困る。
公貴くんには学校で『お詫び』として、薔薇の花を一輪貰っている。
ぶつかったお詫びに薔薇の花とか、私も女の子なのでちょっと嬉しかったのですが、それが毎日貰うとなれば問題も出てくる。
ちなみに肉玉くんからは毎日、生きた鶏や豚を貰っている。勿体ないので、ちゃんとリンネが美味しくいただいています。
これがかなり質の良い供物らしく、うちの黒猫さんは機嫌がいい。
公貴くんも肉玉くんも私がウェイトレスしていると偶に食べにくるんだけど、それ以外にもこの四集院さんのように学校の子が来ることがあるのです。
「公貴くんとはお友達です。それ以上の関係は有り得ません」
「そ、そうですの…?」
「………え?」
美紗が何か言いたそうだけど黙っていなさい。
要するに四集院さんと久遠家の公貴くんは親同士が決めた許嫁らしいのです。はい、ありがちですね。
私だっておバカじゃありません。出会いがあんなでしたから、公貴くんが私に興味を持っているくらい気付いていますけど、あくまで興味段階だと思うんですよね。
私が積極的になれば俗に言うフラグが立つのでしょうけど、今のところそんな気はない。王子様系は従兄弟だけでお腹いっぱいですし、私にはリンネが居ますから。
父ちゃんと琴美さんにお店から追い出されて、私達は美紗のお部屋に場所を移して、お話しをさせてもらっています。
「四集院さん、公貴くんは私が外国人だから物珍しいだけですよ」
「で、でも…、公貴くんのお母様も外国の方だから…」
四集院さんは気が強そうなのは見た目だけで、中身は普通の女の子でした。ちょっとおバカそうなところが私好みです。
「大丈夫よ。私と美紗が協力してあげるから」
「え…」
「本当ですのっ!?」
「うん」
四集院さんを安心させるように、真正面からお上品に笑って頭を撫でてあげたら、四集院さんは顔を真っ赤にして俯いた。
「あ、ありがとう……。あの、ユ…ユル様って呼んでもいいですか…?」
「………」
「………」
……あれ? なんで四集院さんはそんな潤んだ瞳で私を見てますか? そして美紗はどうして引きつった笑みで私を見ているの?
まぁこんな感じで恋愛相談にも乗ったりしているんだけど、問題があるとしたら約一名、何とかサクラちゃんでしょうか。
彼女は公貴くんや肉玉くんがお店に来ると、お店の中が見える電信柱の影からジッとこちらを見つめているのです。美紗が気付いて声を掛けようとするともの凄い速さで逃げていくくせに、偶にサングラスにトレンチコート姿で普通にお店でラーメン食べていたりする。……何がしたいのサクラちゃん。
そこまでならいいんですけど、何故か私と美紗に憎しみのこもった視線を向けてくるんですよ、あの子。
まぁサクラちゃんは公貴くん達に興味があるみたいだから、私を睨むのは分かるんですけど、なんで美紗まで?
でも熟成すれば、そこそこ美味しそうな魂をしているのかな?
後こちらは学校関係者ではないけど、あのチンピラさん達も普通にラーメンを食べに来てくれるようになりました。
……ちょっと普通じゃないかも?
二人揃ってお店に来ると無表情に『ユル様ノ、ラーメン、タベル』と呟いて、私が特製ラーメンを出してあげるとすぐに完食して帰っていくのです。
私の特製ラーメンを食べるたびに、人の言葉を失っている気がします。
何でしょうね……やばいモノに寄生でもされたみたいです。
疲れているのでしょうか。大人は色々大変ですね……。
***
南都サクラ13歳。卯月学園中等部二年生。
サクラは自分の髪が生まれつき栗色であることを不思議に思っていた。
純日本人である家族の髪はもちろん黒であり、それを家族に聞くと不思議そうな顔をされた。どうやら、家族にとってはサクラの髪が栗色で、容姿が整っているのは当たり前のことだったらしい。
間違いなく父と母の子であり、兄とも血は繋がっている。
五歳にしてそれが不自然なことだと気付いたが、そのことで血縁や遺伝子などを普通に調べようとした自分にも驚いた。
幼稚園児にしては知識が多すぎる。自分は何なのかとあまり家族とは似ていない自分の姿を鏡に映していると、サクラは突然雷に受けたような衝撃を受けた。
乙女ゲーム『恋の花咲く卯月学園 ―恋のミルフィーユ―』
自分の姿が、その主人公にそっくりだったのだ。
まだ五歳のサクラは、そんなゲームは見たこともしたこともない。そして思い出したのは、自分が三十歳の時に豚まんの食べ過ぎで亡くなった記憶だった。
サクラは、自分が『乙女ゲーム』の世界に生まれ変わったのだと確信した。
前世のサクラはそのゲームを2000時間ほど嗜み、ほぼ100%のイベントを達成していた。
ゲームの舞台は卯月学園の中等部か高等部を選べるようになっている。
違いは中等部編のほうがイベントが多く、高等部編のほうはアダルトな展開が含まれることだ。
前世のサクラは迷わず後者を選んでいたが、さすがに逆ハーレムを目指すと、全員とアレな関係になってしまう。
一週間迷ったあげく知恵熱で寝込んだすえに中等部に決め、それからサクラは中等部入学まで自分磨きに勤しんだ。
卯月学園はすぐに見つかった。この地域に私立中学はそこしかなかったからだ。
中等部編が始まるのは二年生になってからで、何とか卯月学園に入学できたサクラは二年になるまでに攻略対象を捜すことから始めた。
攻略対象は生徒四人に教師一人。
微妙に名前も容姿も違ったが、入学三週間ほどで攻略対象は特定することは出来た。
―久遠公貴―
メイン攻略キャラ。地元の名士である久遠家の御曹司で日独ハーフ。
彼は実家がこの地域の開発で地上げをしていることを気にしていて、偶に家出をすることがあり、任意の場面で家出中の彼とぶつかることでフラグイベントが始まる。
―二句之美王子―
食肉加工メーカー・『お肉バンザイ』のお坊ちゃま。公貴の親友。
最初は太っているが、彼は精肉となった動物に取り憑かれていると思い込んでおり、食事も喉を通らず痩せて美少年となる。
彼の悩みを聞いて、問題を解決することでフラグが立つ。
―原黒目鐘―
生徒会長・銀髪の腹黒眼鏡。日露ハーフ。公貴の親友。
高貴な人間に憧れている。容姿ポイント80以上(最高100)で、公貴の好感度ポイント80以上でフラグイベントが発生する。
―四十万勇気―
クラスメイト・両親から離れて祖父母の家に住む少年。
彼は不思議な力を持ち、そのことで悩んでいるので、夜に出歩く彼と出会うイベントを経て、彼の力で美王子の問題を解決することでフラグが立つ。
美少年ではないが、不器用ながらも真剣なデレ具合に人気が高い。
―日寺電光―
クラス担任・26歳。
優しい教師であるが、下の名前が某ゲームモンスター名の初期きらきらであるため、トラウマを抱えている。美王子の名前を呼べる間柄になり、美王子の問題を解決することでフラグイベントが発生する。
もうお分かりだろうが、久遠公貴と二句之美王子を攻略しなければ、残る三人を攻略することは出来ない。
そしてこのゲームには、この手のゲームには珍しく『難易度』が存在した。
イージーモード。ライバルキャラが出てこない。
ノーマルモード。ライバルキャラ1名。
ハードモード。 ライバルキャラ2名。
イージーは問題なく、ノーマルのライバルキャラだと思われる『四集院花子』は、選択肢さえ間違えなければ簡単に心を許してくれる。
だが問題はハードモードで、飲食店の娘であるライバルキャラの少女は、主人公と同様に公貴と道でぶつかり知り合いとなる。彼女の家は公貴の家の地上げに遭っており、その問題を二人が独自に処理する前に解決しないと公貴のルートが進展しない。
だが問題はそれだけではなかった。前世のサクラはほぼ100%のイベントを見た。
だがあくまで『ほぼ』であって完全ではない。
このゲームの難易度には、ある特定の条件のみで解除されるゲームモードがある。
その名も、ルナティックモード。
前世のサクラもこれだけは経験したことがなかったが、おそらくは新たな第三のライバルキャラが現れるのだろう。
そしてある日、第二のライバルであると思われる『飯野美紗』の知り合いが留学生として現れた。そのゲームから抜け出してきた人形のような完璧な美貌に戦慄し、サクラはその『金髪の少女』こそがルナティックモードのライバルキャラだと理解する。
公貴と美王子があっと言う間に彼女に惹かれ、この日からまったくイベントが発生しなくなったサクラの苦難の日々が始まった。
テンプレストーリー
【恋の花咲く卯月学園 ―恋のミルフィーユ―】
全キャラルート及びフラグ、完全粉砕中。
【らーめん太腕繁盛記。下町商店街の看板娘】
主人公美紗のラーメン職人及び看板娘への道、迷走中。
次からはある程度不定期になると思います。出来るだけお待たせしないように頑張ります。




