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第1話

 私だって、時々夢を見る。

 普段から摩訶不思議な夢ばかりを見てるわけではないけれど、この日の私は、何故かだだっ広い荒野のど真ん中にポツンと棒立ちしていた。


「……ここ、アフリカかしら? ということは……」


 私がまだ行ったこともないような異国の夢を見る時は、決まってある人物が登場する。

 気が付けば完全にポンチョを着こなしている自分の身体を右に左に動かしてみると――見つけた。

 タンブルウィード(西部劇によく出てくる丸い草……あら、じゃあここはアメリカね)が転がっていくその先、赤い砂塵が舞い上がる大地に非常に似つかわしくない紺色のスーツの青年が「よッ」と爽やかに右手を掲げていた。

 空を彩る太陽に負けじと眩しく光る笑顔。

 もう三十路に片足突っ込んでるのに、その表情はまるで純真無垢な子供のよう。

 つやつやの革靴で赤褐色の砂を蹴散らしながら青年は長い足で私に近づいてきた。


「元気そうにしてるな、でっかい(、、、、)妹」

「えぇ。兄さん(、、、)も、相変わらずみたいね」


 そう。

 この笑顔の青年は私たちの『兄さん』だ。

 兄さんは、私たち三人兄妹の長兄で貿易関連の仕事に勤めている。

 日夜世界中を縦横無尽に飛び回っているらしく、基本的に日本に居ることは滅多にない。お正月には帰ってこないくせに、何故か自分の誕生日の時にだけはきっちり私のお店に帰ってくる。

 まだ若い私が喫茶店を経営していられるのも、実を言えば兄さんの援助のお陰である。

 最初のうちはその援助を丁重に断っていたのだけど、いつの間にか家賃や光熱費のほとんどが免除、というか「この先ずっと払わなくてもいいですよ~」と大家さんや業者さんから笑顔で言われてしまって私の方が面喰う始末。いったいどれだけの額を支払ったのだろう。何度も兄さんに聞いても笑い声しか返ってこなかった。


「今はアメリカに居るのね」

「仕事場はニューヨークなんだがな。ちょいとリフレッシュがてらこっち(、、、)に来てたんだ。大自然ってのは偉大だよなぁまったく! 大地のエネルギーがメキメキ溜まってく感じがたまらんよ」


 実は、私の夢に兄さんが出てくる時は決まってあること(、、、、)が起こる。それは私が目を覚ました時になれば分かるんだけど……ん?


「兄さん、その子は?」


 気が付くと、兄さんの傍にムッと唇を結んだ少年が立っていた。

 麻で作られたローブのような独特の民族衣装に身を包み、袖口から伸びる日焼けしたその手には石器時代から拾ってきたかのような木と石とで作られた簡素な槍を握りしめている。背格好は私の妹と同じくらいだけど、その顔は何というか歳に不相応なほどピリッと緊張感に締まっている。ここがアメリカ、そして独特の民族衣装とくれば答えは一つしかなかった。


「おう。つい最近知り合ったインディアンの子だよ。名前は…………その、すまん。忘れちまった。けど、コイツ()でっかい妹とちっこい(、、、、)妹たちのチカラになる気がしてな」


 そう言いながら、兄は大きな羽飾りを乗せた少年の頭をぽふぽふと軽く叩く。ちっこい(、、、、)妹、とは言わずもがな私の『妹』のことだ。

 兄さんは私たち姉妹のことを区別するためにでっかい(、、、、)だのちっこい(、、、、)だの言うのだけれど、どちらかと言えば身長が190センチ越えてる兄さんが大き過ぎるのよ。


「私たちの“チカラ”……か。うん、わかったわ。覚えておく」

「んむ、俺もそろそろ仕事に戻らなきゃいかん時間だから失礼するわ。……あ、そうだ。飯はちゃんと食ってるか? ちっこい妹も達者にしてるか? つか、そろそろお前は結婚をだな――」


 徐々に遠ざかっていく兄さんの言葉を合図に、私の夢の世界は静かに暗転していく。

 夢の終わりなんてあっという間。

 やがて訪れた暗闇の先にぼんやりと白い光が零れ落ち、手を伸ばすと同時、私の目覚めかけの意識はだんだんと現実へシフトしていく。

 兄さんとの再会を名残惜しむ間もなく、やがて――私の下に別の声がやってきた。

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