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SPIRIT SOUL  作者: 天奏流離
3/4

episode:first《第二章》

今回はセリフを多めにして見ました。

だけどその分描写がうまくできてないかもしれません(苦笑)。



―――貴方は、一人なのに誰かに助けられていると思うときはありますか?



――――それの正体をつかめないで、それを“自分の力”と考え直していませんか?



―――――――でも、“彼女達”が知っている正体は、それを望んでいるのかもしれません。



          ――――――だけど、たまには自分の味方に感謝してみるのも、そんなに悪くはありませんよ。






:第二章:スピリットマスター×スピリットオーラ×スピリットソウル:




 この学校の昼休みの制限時間は五十分。始まってから十分ほど経ったところだ。

 学校の屋上には小さめの避雷針や給水タンクがあり、まだ黒いめっきが剥がれていない柵は肩ほどのものなので寄り掛かるのに最適である。ちょうど雲が太陽を覆ったので、五月の涼しさが肌寒く感じた。

 そこに、少年と少女―――了斗と未麗が空を眺めていた。二人の頭一つ分の身長差がよく分かった。それはとても穏やかに見えて、とてもこれから世界に干渉する話をするなんて思えない。とても了斗が覚悟しているなんて思えない。

 長い髪をなびかせながら、未麗が口を開いた。



「たまに、幽霊とか妖怪とかって聞くことあるでしょ? でも、それの名前は幽霊でも妖怪でもないの。それはいろいろな生命が持つ想いの負の部分や正の部分が現している“ある存在”なの」



 まるで物語を語るように、彼女の言葉は続いていった。それに了斗にはどこか神秘的な雰囲気が伝わった。



「それの正体は―――精霊なの。精霊は、全体的に言うと世界全体と干渉する、根源そのもの」


「つまり、それは俺達がこの世界に存在できる本当の理由がそれなんだな」



 コクリと、軽く頷く。未麗にとって、すぐに理解、納得してくれる了斗とはとても話しやすかった。



「その根本的なエネルギーが“精霊気スピリットオーラ”。これが生命の生きるための力。精霊気の総量よって寿命が確立されるの」


「……なるほど」


「んで、それを使って、身体能力を向上させたりいろいろな魔法みたいなのを使ったり、武器を生成したり“ある所”に適応できるようにして“あれ”と戦うのが―――



 大切な言葉を吐き出すために、一度言葉を切る。



「私達“精霊士スピリットマスター”」


「達ってことは、お前だけじゃないんだな」






「うん、所々に支部があってどこかに本部があって、普通の人や私と同じ精霊士がサポートしてくれてたりする」


「……普通と違うのか? それに、精霊気ってようは命の燃料だろ? 何度も闘ってたらすぐに死んじゃうんじゃないか?」



 少しずつ現実離れしているなと頭の隅で考えた。だがそうじゃないとすぐに気づく。ただ“こちら”の現実に慣れすぎているだけで、“あちら”の現実にたった今触れているのだ。そう理解する。

 理解したが、それが日常と非日常という隔たりがあることは変わらなかったが。

 そんな了斗の葛藤に気づかず、未麗は続ける。



「そうじゃないの。精霊士は、“あるもの”を生まれ持っているの。それのおかげで闘える」


「あるもの?」


「それはどう覚醒するか分からない。唯一分かっている方法は精霊士に別の意味で接触しないと目覚めないこと。でも、持っているだけでは奴ら―――“ロストスピリッツ”に喰われる」


「……その“あるもの”について話す前に、そのロストスピリッツについて教えてくれ」





 昨晩の恐怖を急に思い出しつつ、彼はわずかに身震いしながら聞いた。




「ロストスピリッツは、負の精霊気の結晶。それがどう生まれてるのかは不明。でもそれは人の精霊気を喰らう。なぜ人なのかは、人がこの世で一番精霊気を持っているから。主な活動時間は太陽が沈んでからの闇……闘っている相手にしては謎の多い怪物よ」


「……殺すのか?」


「間接的にってことになるの。奴らは本能で精霊気をわずかに残し、失踪した場所に戻す―――“リバース”するの。でも、その人はすぐに死んでしまう」


「……だから失踪していた人は……」


「私たちの言う“失踪”は、奴らに喰われたと思ったほうがいいわ」


「喰われた人は……もう助けられないのか?」



 恐怖を覚え、彼は恐る恐る聞いた。もし自分が、いや自分よりも友達が、両親が食われたら、もうその時点で終わりなのだろうか。



「いいえ、ロストスピリッツは、生きるためにそれをゆっくりと消化していくの。そのロストスピリッツを倒して、その後でまだ奴らの意思でリバースされていない人達は強制リバースされる」


「でも、精霊気が尽きかけてる人は……」


「ううん、それはロストスピリッツを倒した後に散らばる精霊気を与えて個々の精霊気を喰われる寸前の数値に注入するの。それで足りなかったら、私達が追加するの」



 


 なんか少し気持ち悪く感じた。



「なんかそれって気持ち悪くないか? 負の精霊気を与えるなんてさ。それに俺も喰われたことがあるのか?」


「命って言う源がない精霊気は正でも負でもないの。だからそれを人の精霊気に“転換コンバート”して注入するの。それに、君は喰われていない」



 「なんで?」

と了斗は不審に思いながら聞き返した。




「食われたら、君の場合その時点で死んでしまっているから」






 同時に、冷や汗と疑問が湧き上がった。



「え……!? なんでだよ。別に喰われていたとしても、精霊士が精霊気を俺の標準値に戻しているんだろう!?」


「それの答えは、今から話すことに含まれている」



 幼さの残る顔だと忘れさせるほどの真剣な表情を見て、了斗は、頼むと促した。



「……だれでも精霊士だというわけじゃないの。精霊の気まぐれで、個々の元素を持つそれを宿した人間だけが成れるの」



 そして、彼はついに根源を知った。






「それが精霊気の結晶であり、精霊士の力の源――――それが、“精霊魂スピリットソウル”」




 

「スピリット……ソウル……?」



 その言葉に、了斗は思わず呟いた。意味も知らないのに、それは大きな言葉だと思ったからだ。



「うん。闘うためだけじゃなく、その寿命を延ばしたり、治癒力を上げたり、、自分の属性の元素を操れたり……いろいろなことが、“自分”の精霊魂の許容範囲でできるの」


「そして……闘うための精霊気を生み出す……」



 「そのとおり」

と、未麗は頷いた。



「だから、私達は精霊気の使って死ぬことはない……使いすぎては分からないけど、ね」





 苦笑するように、未麗ははにかんだ。



「かわりに、ロストスピリッツに喰われて助かることはない。精霊魂は奴らの好物だから、完全に取り込まれてしまう」



 その苦笑に影があることに了斗は気づいた。だから、なぜ君みたいな女の子がそんなことをするのか、他の人はどのような理由で闘っているのかと聞くのはやめた。躊躇われた。 



「最後に、ロストスピリッツは精霊気を吸収することにより進化する。それはランクで分けられて、C1〜C10が低級、B1〜B10が中級、A1〜A10が上級って分けられる。B3に入ったら自我をを持つようになって、A1になると多少なら昼でも動ける。それに強さも格段に増す」




 「これで、基本話は終わり」

といい、少しお茶らけて見せた。

 ……かなり大きな話で、それが彼女らにとっては基本だということが驚いた。自分がとんでもないことに首をつっこんでいることがわかった。



「……なんで、俺にそんなことを話したんだ?」


「……落ち着いて聞いてね」



 彼女は深刻な表情をした。






「貴方にも、精霊魂が宿っているの」






 思考がスコンと抜け落ちた気がした。しかしすぐさま我を取り戻す。



「え……なんで俺にまで!?」


「だって君は、彼らの付近によっても動けたんだもん」


「な……それ、どういうことだよ」


「ロストスピリッツがその場に顕現すると、それの意志によってある領域が広がって人の動きを止めるの。それが“混沌領域カオスフィールド”これは私達でも広げられる。その中を君は動いていた。その中で動けるのはロストスピリッツと私達精霊士。そして精霊魂を持っている“適合者アダプター”しか行動できない」


「それってつまり……」



 愕然としたと同時に、心のどこかで納得している自分がいた。



「そう、君も精霊士になることが出来る。でも、それを選ぶのは君自身だよ」


「……闘うも逃げるも、俺しだいか……」


「うん、逃げても怒らないから安心して。今の精霊士は意思のある人しか闘っていないから」



 ……考えさせてくれと、了斗は空を見上げた。その澄んだ空を見ても、今知ったばかりの真実は心の中でリピートされていた。



「……だから、聞こえたのかな」


「ぅえ、何が?」



 しばらくは空を見上げたままだと思っていた未麗は、知らず知らず呟いた了斗の言葉に少しばかり驚いた。



「……子供のころからさ、何かの声を感じていたんだ。これのおかげで自分の危険を避けたこともあるし、人を少し助けたこともある、赤点寸前のテストも、分かんないはずの答えも分かったんだ」


「…………?」


「集中すると自然に聞こえて……子供ころの俺でさえそれが“普通”じゃないって分かった。だから親にさえ話さず、ずっとそのままだったんだ」



 了斗は、自然とその声に助けられたことを思い出した。

 小学五年のころ、自転車で友達の家からまだ親のいた家に帰る途中、“声”を感じて青信号の横断歩道前で急ブレーキを掛けた。その数瞬あとに、大型トラックが唸りを上げて信号も交通ルールもぶっ飛ばして行ったのだ。後に聞いた話だとそれは飲酒運転で、人を轢く前に逮捕となったそうだ。もしかしたら白紙の犠牲者リストに自分の名前が載ってたかもしれないと思い冷や冷やした。

 中学三年のころ、のんびりと学校から帰宅するため住宅街とビル街の狭間である橋、神楽橋を渡っている途中、“声”に導かれるままに橋の影に降りてみると、高校二年辺りの五人の不良が同い年くらいの少女を囲んでいたのである。

それを見た了斗は躊躇いもせず飛び蹴りで一人を川に落とし、唖然としている間に残った全員も渾身の力で川へとダイブさせたあと、相手に顔を覚えさせないように彼女を引っ張って逃げた。そして逃がして自分も逃げた。あの不良はかなりの問題行動が目立っていたようで、またどこかで悪さをして捕まったということを聞いた。

 高校一年のころ、最近のことだが、実力テストで苦手な数学で一番苦手な図形分野が半分以上を占めており、赤点を取り入学早々補習という危機に冷や汗が流れた時に“声”が聞こえた。その瞬間記憶の中の奥深くに封じ込められたそれの公式が浮かび上がり、赤点どころか九十点以上を取ってしまったのだ。

 その“声”は、自分が意識的・無意識的なんてものは関係なく、集中した時に現れる。聞こえる確立は五分五分。それが聞こえたからといって集中が乱れることはない―――

 ―――ということを、未麗に話した。彼女が真実を話してくれたせいか、わりと饒舌に話すことが出来た。



「……うん、確かにそれは精霊魂を持っている証だわ」



 というわずかな間に、彼女はわずかに葛藤した。

 ―――彼も闘わせなきゃいけないのだろうか? ―――そんな“声”の例なんて聞いたことがない、と。

 そういった声が聞こえる例はよく聞く。しかしそれは適合者の意志とは関係なく起こっているのだ。どんなに集中しても、確立が五分五分とはいえ自らの意志で聞くことが出来るなんて例は聞いたことがない。



「……君は、闘うの? 日常に身を置くの?」



 その疑問は頭の奥に押し込めつつ、未麗は問う。それに対して了斗はクシャクシャの髪を掻きながら答えた。



「……今はまだ分からない。とりあえず考えさせてくれ。そんなに簡単に決められるものじゃないから」



「……そっか」



 二人は、非日常についての話題が終えたことを暗に感じた。その空気の中、彼女は少し背伸びをした。



「十聖君ってさ、部活とかやってる?」



 いきなりの日常の質問に、了斗は驚きながら答える。



「いや、あんまり身に入りそうにないからさ。それに友達とバンド組んでるし」


「え、それホント!?」



 瞳をキラキラさせながら未麗は聞き返す。



「ああ、俺の友達でやってて、ボーカル兼ギターが一人。ギター、ベース、ドラムが一人ずつ」


「十聖君は?」


「ギター兼ボーカル」



 苦笑しながら答える了斗に、瞳の輝きを増しながら未麗は、すごいな〜と憧れの目線を向けた。

 しかし了斗は彼女のその瞳に、どこか寂しさを感じた。



 そのとき、昼休みの終焉を告げるチャイムが鳴った。



「あ、終わりだね。いこっか♪」


「ああ……あ、そうだ」



 柵から放たれるように離れた未麗に、了斗は呼び止めた。



「よかったらさ、俺の友達のグループに入らないか?」


「え? この学校ってグループで分かれてるの?」


「いや、とりあえず一番話す相手と、勝手に作られてるんだ。だからといって別のグループと話しちゃいけないって訳じゃない」



 どうする? と、微笑気味に了斗は聞いた。う〜んと宙を見上げ考えた結果、



「いいよー。十聖君の友達なら馴染みやすそうだし♪」


「そうかー。まあ、多分そうなんじゃないかな? 俺から言っとくよ」



 あいつら喜ぶかな? と思っているなか、未麗が聞き返してきた。



「バンドのメンバーさんって、全員そのグループに居るの?」


「いや、ドラムの奴だけ放浪野郎だからさ。だから友達になれたって所もあるけど」


「そっか。じゃあ、いこっか十聖君♪」


「……あ」



 そこで、ふと彼女が自分を名字で呼んでいることに気づいた。



「こっちのグループじゃさ、相手を名前で呼ぶことになってるんだ。だから、俺のことは了斗でいいよ。十聖じゃたまにかむからさ」


「そうなんだ……じゃあ改めて、よろしくね了斗君♪」


「ああ、こちらこそな。未麗」



 非日常以外で、ちゃんとした日常の絆が出来たことに、お互いに喜びを感じて、握手を交わした。

 小さい手だなと了斗は思った。見掛けより大きな手だなと未麗は思った。






    * * *


「あ、戻ってきた―――」



 長めの茶髪を揺らしながら誠弥が了斗を見つけるが、隣に居る少女、未麗を見て固まった。他の“五人”も同様な反応だ。そして他のクラスメイトもザワザワとし始めた。



「んー、どうしたの?」



 現状の分からない了斗は、未麗の代わりに質問し返す。が、それが返ってくることはなく、代わりにいつの間にか追加されているもう一人に声をかける。



「おー公貴、暇つぶしにでも着たか?」


「あ、ああ。一応お前の経過も聞きたかったしな」



 と、了斗はグループに入ってないものの(その内誘おうと思っている)、微妙に動揺している親しい友人に声をかける。その少年はスポーツ系の短髪で、少し切れ目気味の瞳を持っている。彼が瀬之立 公貴(せのたち こう

き)である。

 ちなみに先に言った通り、了斗がボーカル兼ギター。誠弥がギター。圭がベース、そしてドラムの公貴という四人構成のバンドだ。

 バンド名は『Long Route』。今見える長い道をあきらめないで歩きたいという意味合いがこもっている。



「ああ……まあ、ボチボチだな」


「つまりもう少しってことだな。まあ、頑張れよ」



 頭を掻きながら苦笑する了斗に公貴は軽く肘鉄でつつく。それは初めて見る未麗でさえ

「親しいんだな」

と納得させられた。

 そして経過を聞いた公貴は、じゃな! と颯爽と教室を出て行ってしまった。



「……経過って?」


「ああ、歌詞作りのことだよ。俺が担当しててさ。結構悪戦苦闘中」



 あはは、と曖昧に笑いながら未麗に教える了斗を見て、



「……どうなってんの、了斗?」



 誠弥が動揺気味に質問する。が、



「あ、はじめまして。蒼蘭 未麗です」



 唐突なる自己紹介に面食らった。



「あ、ああ。よろしく。俺は篠原 誠弥」


「僕は立倉 圭。よろしく」



 すぐに平常状態に戻った誠弥と、もともと少々傍観者タイプの圭が自己紹介する。

 その二人の手を、未麗は握手のように掴んだ。



「うん、よろしくね。誠弥君、圭君」



 とニコニコしながらである。二人の頭の中は一瞬スパークしたが、それもすぐに我を取り戻し、ああ、うん、と返事する。かわいい少女に握手されて喜ばない男なんていないのである。

 未麗が手を離した瞬間、起衣璃がポニーテールを揺らしながら握手する。その瞬間に誠弥と圭は了斗を引っ張って教室の隅へ連れて行く。どうやら尋問のようだ。



「私は中山 起衣璃! 普通に起衣璃でいいよ」


「うん、よろしくね起衣璃!」


「んで、あっちは平崎 香。彼女も普通でいいよ」



 と、手っ取り早く友人の自己紹介をする起衣璃。それに応えてか香は未麗の手を握る。




「香です。よろしくお願いします」



 その言葉には、友達が増えたという純粋な喜びが含まれていた。それを感じて未麗も気持ちがよくなる。



「うん、よろしくね!」



 その間にも、了斗は二人に質問という名の尋問をしていた。幸いにも他のクラスメイトたちは寄って来ない。



(……で、彼女俺らのグループに入ってくれるのか?)


(一応、そう言ったけど。ダメか?)


(いや、僕達も彼女達もいいけど、どうやったの?)


(どうやったって、なにを?)


(……圭、コイツの“あれ”を忘れてた)


(……ああ、そうだったな。多分、どこかで二人きりになって君が話を持ちかけたって、そんなところか?)


(ああ、そうだけど)


(……よし、戻るか。聞けることは聞いた)



 正直、すばやく会話が終わったことに了斗は安堵していた。まさか“失踪事件の犯人は怪物で、彼女はそいつらを倒す力を持っていて、自分も持っているかもしれない”ということを話すわけには行かないからである。

 しかし、彼らの言う“あれ”というものが分からない。しかしきっかけもないのに考えても分からないので、潔く思考を放棄して未麗達のところへと戻る。



「じゃあ、未麗はうちらのグループってことで」


「決定です〜」


「よろしくね〜」



 早くも息が合っている女性陣に、了斗だけならず誠弥や圭も驚いた。どうやら相性の良さは最高らしい。

 そして始業を告げるチャイムが鳴った。いつも鳴るはずのそれが、了斗にはどこか別の始まりを告げるもののように思えた。




   * * *


 授業が終わり了斗、誠弥、圭、未麗、起衣璃、香は、校門を出るところだった。夕焼けによって様々な景色が昼の顔を赤く染めている。本来、このままどこぞへと寄り道をしたいところなのだが、



「今日は普通に帰らない?」


「そうです。未麗ちゃんもいるし、いろいろと教えてあげないと」



 起衣璃と香の息のあった投合により、すぐさま『喋りながら帰宅』ということになった。

 了斗の家は住宅街のほぼ中心の一軒家。そこを基準にすれば、誠弥の家は南よりの端っこにある古い屋敷(以外と名家である)。圭は東側のマンション。起衣璃は西側のマンション。香は圭と同じマンション。未麗に聞くと、



「連絡がついてから分かるようになってる」



 ということらしい。了斗達には昨日はビル街の近くのホテルに泊まったと告げておく。


 住宅、ビル、商店といっても、住宅にもビルにもデパートもあるし、商店街に住んでいる人もいる。だが商店街はいろいろと品揃えがいいことからそう呼ばれている。本類を買うためにはそこに行ったほうが当たるのである。

 学校はビル街の商店寄りの方にあるため、ゆえに住宅街側から登校する場合はそれなりに苦労するのである。

 五人は未麗に寄り道の場所、主にゲームセンターや複数のデパートを教える。わざわざ帰宅方向と逆の商店街に行くことは少ないので、そこは省く。そのせいでわりと話は早く済んだ。



「うん、華が一つ増えたことはうれしいものだな」



 と誠弥は了斗と圭に言った。思わず了斗はなんでだ? 聞き返す。



「一つより二つ、二つより三つだ」


「ふーん」



 誠弥の力説に、しかし了斗は素っ気無い反応を返した。圭は苦笑気味である。誠弥はこの反応を予想していたが、やはり寂しいものがあった。

 未麗と起衣璃と香はわりと話が合うようでさっきからいろいろと話し込んでいる。盗み聞きは悪いかなと思い了斗は彼女らに対してある程度聴覚調整を行う。しかし三人がこちらを見たのはなぜか。そのとき香が慌てふためいていたのがちょっとした印象である。



「……ふふっ、起衣璃が香の友達の理由が分かったよ」


「でしょ? しっかりしてるくせにほっとけなくてさー」


「う、うぅ〜……」



 その会話が妙に気になった。そのことを気にする暇もなく起衣璃が話題を持ちかける。




「未麗は、前に住んでいた友達とはメールでもしてるの?」



 




 彼女にしてみれば、それはなんでもない、ただ未麗がどんな友達を持っていて、そこでどんな生活を聞きたかったのだ。

 だが、少しばかり未麗は影を落とした。



「ううん……ちょっと事情があってね、学校にもあんまり行けなかったの。だから、友達は貴方たちがはじめて」


「そう……なんだ」



 少し重い答えに、場は気まずい沈黙にさらされる。これには未麗もしまったと思いフォローしようと思うものの、どう口にすればいいか分からない。

 だから、彼がフォローする。



「いいんじゃねぇの?」



 了斗は、空を見上げながら口にした。他の皆が彼を注目する。赤く映える彼の表情は、どこか引き込まれそうなものがあった。



「俺達がはじめての友達なら、過去の分なんて言わずに未来まで楽しくすればいいんだからさ」



 それに対して、圭は、コイツらしいなと思い、誠弥と起衣璃は、言うねーと口を揃え、香はニコリと笑う。

 想いを不器用に詰め込んだその言葉に、未麗は一瞬ポカンと呆け、はにかむような笑みを浮かべた。



「ありがとう!」



 と、その言葉を口にしながら。

 そして、六人は歩き始めた。




 だから四人が止まるなんて了斗と未麗は思いもしなかった。




「……!! 混沌領域!!」


「な、つまりそれって、ロストスピリッツがいるってことか!?」


「了斗君も感じたでしょ。この感覚はロストスピリッツが混沌領域を広げたっていう事実を」



 確かに了斗は、まるで世界の一部を見えない氷水で覆うような悪寒を感じた。自分はそれに身震いをしたというのに、未麗は動じず何かの陣を組んでいる。おそらく慣れているのだろう。



「よし、これで……」



 といい、彼女は宙に書いた魔方陣のようなものに力を吹き込む。いきなり青く輝き、その光は自分の友達を囲んだ。



「結界を作った。これで耐えれるはずだよ」



 と彼女は言った。その瞬間に結界に入らなかった了斗は見た。



 昨晩見た黒き体を。




 それは半鳥人と、



 虎と、



 熊の、



 三匹。



「…………」



 彼女はわずかに眼を瞑り、次の瞬間見開いた瞬間に、了斗は彼女の雰囲気が変わっていることに気づいた。

 それは、彼女の髪が煌きを帯びた。夕焼けの光ではない。それはまさに髪そのものが淡く光っていた。それが彼女が精霊魂の力を解放した証しだということがわかった。

 そして、どこからともなく流星のような輝きとともに彼女の両手に銀銃が現れた。



「……エターナルノヴァ」



 彼女はその銃の存在を確かめるようにその武器の名前を呟く。



 そして、彼女は精霊魂と恩恵により向上した身体能力で走り出した。




 ―――なんで低級がまだ太陽があるうちに……? ……まさか!?



 彼女の予感は当たっていた。



 どこかで、彼女の敵が見ていた。



 敵は、にやりと笑った。


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