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SPIRIT SOUL  作者: 天奏流離
1/4

prologue


 俺達はまだ世界のことを知らない。


 当然、それは俺がまだガキだからである。


 だけど、そんな俺でも、他の連中が知らない世界の真実を知っている。


 でも、その真実が俺に深く関わってるなんて、思いもしなかった……




SPIRIT SOUL 


スピリットソウル 〜精霊の魂〜






  :プロローグ:


 まず十聖了斗じゅうせい りょうとについて説明しよう。


 現在、浅葱市の県立高校の一年生。十五歳。身長は177センチ、わりと高め。性格は少々熱血な面もある。

  容姿も悪くは無い。少し長めのクシャクシャ頭がトレードマーク。実はさりげなく人気があるが、彼はある部分だけ極端に鈍いため、それに気づいていない。


 不良に絡まれることは無い。絡まれたとしても即行で倒すだろうが。線は細いがわりと身体能力は高く、腕力もある。


 学校の成績も悪くは無く、その姿は平均的に勉強して、少し能力に恵まれた、普通の高校生である。


 だが彼自身は絡まれても即行で絡んできたそいつを殴り飛ばすというおまけはついているが。


 そして、彼には秘密がある。


 それは、誰にも知られてはいけない秘密。


 今外国へ行っている父の十聖明人じゅうせい あきとも母の十聖秋子じゅうせい あきこも、友人達も、その秘密を知らない。


 そして、彼の秘密が、舞台の脚光に照らされるとき、


 彼の戦いは始まった。




 :失われた魂の嘆き:




五月一日。




 十聖了斗は今現在、鮭のおにぎりを頬張りながらの学校からの帰りである。

 太陽はすでに地平線の向こうへと落ち、あたりは昼間の明るい町を闇に染め姿を変えている。彼は鞄を肩に担ぎ、白いスニーカーに包まれた足で地面を蹴り飛ばし、家へと直行中である。まだ少し真新しい紺のブレザーの制服が彼が高校生になってまだ一ヶ月そこらということを証明している。

 部活もやっていない彼がどうしてこんな遅くになってしまったのか。

それは図書委員の話し合いと言う学生にとってほとんど無駄でしかない行為につき合わされ、その後図書室の片づけを強制労働されたのだ。しかもなぜかそのときだけに限ってごちゃごちゃになっていたため、どさくさに紛れて同じ委員の友人は逃げ帰ってしまい、他のみんなも用事だのなんだので、結局彼一人で無駄に時間を食ってしまったのである。


「あー……腹減ったなぁ」

 空腹に思わず独語が溢れた。

だが彼の両親は海外へと長期出張中である。

なので自宅である一軒家に帰っても誰も迎えてはくれない。当然家事は自分でやるしかない。それが当たり前だということはわかっていても、彼も悲しいながら人間である。腹は減るし疲れもする。だから下校途中にたまに寄るコンビニにておにぎりを購入したのである。だがたった今それを胃に収めた。育ち盛りの胃袋には全然足しにならなかったが。

次の角を曲がり、そしてまっすぐ行ってからさらに右に曲がれば自宅である。 だからそこを曲がり、



 彼は非日常の扉を開けた。




「――――!?」


 世界に違和感を感じ、彼の目は驚愕で見開いた。その視線は気休め程度の街頭に照らされ、そして夜の闇に慣れた目が、




 異形が人を粒子にして、その口にあたる部分からそれを飲み込んでいる光景を映し出した。




 その異形は、例えるのなら人と鳥を合わしたような姿の、ファンタジーに出て来る半鳥人、いや、それはすでにガーゴイルといっても差し控えない。それが人類であるはずが無い。夜の闇にくっきり浮かぶ成人男性の漆黒の体。背に生えたどんな動物にもはえることなどありえないほどの大きな双翼。両手足は異常に大きく、その指に生えたまた大きな凶悪な鉤爪。それがその存在が彼の知らない何かであるということを証明していた。



―くえええぇぇぇぇぇぇ!



 そして、人ではない声で鳴き声をあげた。まるで空腹に猛る我が侭な子供のように。周りの家の窓はピクリとも動かない。それがいっそう違和感を大きくした。



 異形はついに了斗へと標的を向ける。



 翼を大きく羽ばたかせ、風が舞う。同時に素足を大きく蹴りだす。めりっ、と言う音と共にコンクリートの一部は粉砕され、異形はとんでもない速さで了斗へと迫る。

 だが、だまって飲み込まれるほど、彼は人間ができていなかった。

 風を切る音が、恐怖とともに彼を我に返した。同時に頭の中がパニック状態ではありえないほどに、平常時ではありえないほどに、鮮明にクリアになる。先まで彼を苦しめていた空腹感すらどこかへ飛んでいってしまった。



「げ、うぉお!?」



 間一髪、鞄をその辺に放り投げ、身を投げ出して避ける。風圧の音が耳元で聞こえた。とっさに転がっている体の体勢を整えると、異形はすでに狙いを定めていた。

 彼はそれが残像さえ残る、人が反応してよけれるものではないということに気づいていただろうか。

 だがそれは同時にわずかな隙だった。放り出した鞄をついでだと言わんばかりにひっつかみ、了斗は全速力で駆け出す。

 しかしすぐさま右に跳んだ。同時にすぐ横を大きな何かが過ぎ去り、それにより生じた風圧がわずかに了斗の身体を弄んだ。だがすぐさま地に着きバランスを整える。

 刹那、 異形は彼に向かい凶刃を振り下ろした。



「ぐぅっ!」



 唸るような声を上げ、了斗は無理矢理身を捻り避ける。 彼はそれが不可視の速度で人など紙くずのように引き裂くそれであるということに気づいていただろうか。

 同時に捻りを利用し、異形の顔面に右拳を叩きつける。


「ぎぃ!?」



 異形は殴られたのがありえないとでも言うかの如く、悲鳴を零しわずかに仰け反る。


 しかしその疑問もどうでもよくなったのか、すぐさまその腕を薙いだ。

 とっさに了斗は後ろへと下がった。だが凶暴なまでの力を含んだそれを避けきることはできなかった。

 声を上げることすら出来ず、了斗は五メートルほど吹き飛ばされ、壁に叩きつけられる。バックステップをしていなければ―――もしくは他のことが要因でもあったのだろうか―――確実にどこかの骨が折れていただろう。

 しかしバラバラになるほどの衝撃を受けた彼の身体は、そのまま無様に重力に引かれ落ちる。それでも意識を保っているのは僥倖である。

 そして、彼を喰おう(?)と、異形は彼の眼前に立った。そしてそのまま口を開き―――




「―――させない!」



 少女の声と銃声が同時に響いた。



「ぎ―――ぎぎゃあぁぁぁぁぁ!?」



 異形の腹には、いつの間にか三つの小さな穴が開いていた。しかしそこから血は流れず、かわりにサラサラと黒い砂らしきものがコンクリートで補強された地面に消え落ちていく。

 一瞬の空白の後の異形の叫びは、悲壮に満ちていた。しかし突如として了斗の前に現れた影は、容赦など露ほど見せず、異形の額に銃弾を穿った。

 同時に、異形は叫ぶのを強制終了させられ、その身は砂となり、淡い夜風とともに消えていった。



「ふぅ……まさか低級ランクまで襲い始めてるとはね……って君大丈夫!?」



 大丈夫なわけあるか、と状況に関係なくつっこみたくなったが、それを出来るほど体力は残っていない。必死になって立ち上がると―――



 それだけで気を失いそうになった。



 自分より頭一つ小さい少女だった。だがこの場合身長は関係なかった。問題はその容姿だ。

 とても可愛い少女だ。

二重まぶたに収まる大きな瞳と、肩より長い髪は弱い街灯だけで星のように煌き、細いハーフパンツから伸びる足も、半袖のシャツから出る腕も、ガラスのように繊細で華奢で、それゆえの力強さもある。シンプルな服装がそれをさらに引き立てていた。ほとんどが闇の世界の中でも分かる肌の白さは、まさに月の光のようである。

 なによりも彼女の整った顔だ。幼さを残して、ゆえにその美しさは芸術的なものへと評価をかなり上げさせている。

 そういうことには全く疎い了斗にでも分かる、華麗と言う言葉は彼女のためと思えるような美少女だった。

 しかし、その小さな手で握るものに、了斗は不審に思った。

 それは二丁の銃である。少女の手に余りもせず小さすぎもせず、オートマチックのタイプに似た銀色の銃だった。余分すぎない装飾と銃身に刻まれてある白い線がそれの存在を引き立てる。

 ついに少女は、その美しい淡紅色の唇を開く。



「ねえ大丈夫? ねえ、その前に私の話聞こえてる?」


 その見かけとは思えないほど、幼さの残る口調である。しかしそれゆえに心配している様子が簡単に分かる。



「……聞こえてる。一応だけど……」



 なんとか少女の真摯な態度に応えようと、喘ぎながら了斗はなんとかこちから言葉を吐き出す。



「俺の家……そこまっすぐいって右行って、『十聖』って書かれてるとこだから……」





 聞かれてもないのに、了斗はそう言う。なぜか少女が聞きたがっていると思ったからだ。



「そっかそっか。じゃあ、あとはゆっくり眠ってていいよ……」



 少女は背伸びしてその小さな手のひらを了斗の額にピタッと添える。その心地よい感じに引かれるように、了斗は意識を手放した。少女は気を失った彼を背でおぶった。華奢な体つきでは信じられないことだ。



「……急がなくちゃね……でもなんでこの人、接触して動けたんだろう……」



 少女呟きながら、彼をわずかに引きずるように歩き出した。







 知らず知らず、十聖了斗は。


 自分自身の手で、扉を開けた。


 それは、非日常への入り口。


 それは、日常へのしばしの別れ。



  それは、長き道を進むための始まり。





どうもはじめまして。天奏流離(てんそうりゅうり)と言います。


これから頑張って行きますので、よろしくおねがいします。

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