婚約破棄された無能令嬢ですが、王太子に国家ごと溺愛されていました~今さら戻ってこいと言われてももう遅い~
一緒に生きて行きたいと思った人に婚約破棄されたから、仕方なく王太子と結婚します。
◆◇◆
「婚約破棄する。何も出来ないお前なんかとは結婚できない」
私、リアナ・セレスティアはエリオット・グランヴェールに婚約破棄された。
やっと婚約してもらえたのに。
夜会で出会った時に、公爵令嬢の私に声をかけられて恐縮していた、子爵令息のエリオット。
両親から正式に婚約の申し込みをして貰っても、恐れ多くて公爵令嬢とは婚約できないと何度も断られた。
「ははは、うちの子は公爵令嬢と言っても礼儀作法も身についていませんし、本当に何も出来ないんです」
「甘やかされてしまって、お恥ずかしい限りです。でも、エリオット殿と結婚すれば、リアナも覚えて行きますわ」
公爵と公爵夫人が説得しに行ってなんとか縁談がまとまった。
多分、謙遜してると思ったのでしょう。
でも、私は本当に何も出来ない。
エリオットと出かけても歩くだけですぐに疲れて、階段も上手く登れない。
食事もテーブルマナーなんて分からないし、フォークもナイフも上手く使えない。
人と話していても興味のない話を聞いている事が出来ないから、途中で質問されても何を聞かれているかわからなくなる。
エリオットはデートのたびに階段の前で私を抱き上げて、食事は細かく切ってスプーンで食べられるようにしてくれて、会話は無視された。
三ヶ月——続いただけでも立派だと、周りのものから褒められていた。
私は泣いた。
何もしなくていいとやらせてもらえず、好きで何も出来なくなったわけじゃないのに——。
転生前に出来ていたことが、今ではできなくなってる。
エリオットと結婚して、子爵家に入れば、色々と自分でやる必要があるから、ちゃんとできるようになれたのに。
チャンスも、もらえなかった。
そして、婚約破棄されて、出かける当てのない私のところに、彼が訪ねて来る。
◆◇◆
「リアナ、寒くない? 飲み物飲む? 一緒に踊ろうか?」
王太子シルヴェスター・クローヴェルが私の周りをウロチョロしてる。
私は無視して横を向く。
今日は王宮主催の夜会で、ほとんど王太子の婚約者のお披露目会のようなものだ。
ずっと逃げていたのに、私が王太子の婚約者になってしまった。
エリオットに婚約破棄されてなければ今頃は別の人が王太子の婚約者としてここにいたのに……。
有能で有名な王太子ならすぐに素敵な婚約者が見つかっただろう。
私は婚約者だったエリオットを探す。
私が王太子の婚約者になっているのを知ったら、嫉妬して戻って来いって言ってくれないかな。
「リアナ、何して欲しいの。俺の婚約者になってくれたんだから一生大事にするよ」
にこにこと私を見つめる王太子。
一生大事にされるのが嫌なのに、わかってくれない。
私は何も出来ないわけじゃないのに。
私がエリオットを探して何も言わないと、王太子は私をソファに座らせて、腰を抱き寄せて甘い言葉を囁き続ける。
「リアナ、愛してるよ。世界一大切な君のためなら、なんでもしてあげるからね」
「うるさい」
「やっと俺と話してくれたね。リアナ、愛してるよ」
「話してない、罵倒しただけ」
「ほら今話した。罵倒でもいいから俺のそばをもう離れないで……」
王太子の声が低く暗くなる。
「……別の男と婚約なんて、俺は辛くて死にそうだったよ。リアナは俺が国と心中してもいいの?」
いちいち言う事が重い。
想像してみる。
王太子が自分の魔力を使って王都の中心で自ら命を断つ。
出来るだけ周りに被害が出るように、持てる魔力を爆発させて……。
王太子と言うよりテロリストだ。
「……冗談でもそんな事を言う人は嫌いなの」
「本当に、あと一日でもリアナの婚約破棄が遅かったら、俺は死んでたんだよ。わざとじゃなくても周りを巻き込んでしまうよ、リアナがそばに居てくれないと」
「一人で死ねる場所に行って、好きにすれば」
「俺が死んだら、リアナを可愛がる人がいなくなるだろう?」
「……」
私は王太子を睨んだ。
本当に、エリオットに婚約破棄されて思い知ったけど、ここまで何も出来ない私を可愛がってくれる人なんていない。
「俺だけだよ」
そう言ってソファに身体を預けていた私に王太子は覆い被さってキスをする。
「邪魔よ。飲み物を取ってきて」
「うん、いいよ」
王太子は私に頼み事をされて、嬉しそうに飲み物を取りに行く。
「リアナ! なぜ君が王太子のシルヴェスター様の横にいるんだ!」
エリオットが声をかけてきた。
あ、私に未練があるのね。
「王太子とは幼なじみなのよ」
「……今日、一緒にいるということは王太子と婚約するんだろう。強大な魔力で自然災害から村を守ったりする有能すぎる王太子と、何故、君みたいな無能が婚約出来るんだ! 公爵令嬢というだけで、シルヴェスター様に押し付けたのか!」
そっちが疑問なの!?
「俺が……君を引き受けていれば、シルヴェスター様にこんなご迷惑はお掛けしなかったのに……!」
そっちの後悔!?
「はぁ」
私はため息が出た。
「こんなに王太子に溺愛されてる私の価値がわからないって、本当にエリオットは無能なのね」
でも、無能だから、私が手伝える余地があると思ったのに。
私とエリオットなら二人で出来る事を増やしていけると思ったのに。
私の価値を本当に分かってくれる人になって欲しかった。
結局、最初でつまづいて、ちゃんと話も出来なかった。
「わかるわけがないだろう。さっきから王太子になんでもやって貰ってばかりで、君は何もしていないじゃないか!」
ちょうど、飲み物を取ってきた王太子が戻って来る。
「……エリオット・グランヴェール! 俺の大事なリアナのそばで何をしている!」
暗い声で、顔は怒りに震えている。
「シーくん、そんな事より飲み物をちょうだい」
「リアナ! ごめんよ」
「私が最優先じゃないの、シーくんが言う事は嘘ばかりね」
王太子——シルヴェスター、愛称はシーくんが私に飲み物を渡すと、すっかりエリオットの事を忘れてる。
また私の機嫌を取るように、囁き始めるシーくんにエリオットが困惑の顔を向けている。
「何をやってるんですか、シルヴェスター様。そんな何も出来ない無能女の機嫌を取って何になるんですか」
エリオットが王太子の最愛の女性に大変失礼なことを言った。
「君は、エリオット・グランヴェールか。君が私の愛する女性との婚約破棄をしてくれた事は大変感謝しているが、今の言葉は聞き捨てならない!」
シーくんが本気で怒った!
私がどれだけわがままを言っても怒らない穏やかな王太子は、怒ると歯止めが効かなくなる。
「撤回しろ! さもなくば、ここで貴様を消す!」
シーくんの右手に魔力が集中して光の球を作る。
この魔力球を投げつけられたら、当たった相手は本当に消える。
けれど、それだけじゃ済まない。
私の計算によれば、エリオットを中心に十五メートルの範囲で全てのものが消失する。
シーくんと私は、シーくんの魔法無効化の力によって守られるけど、33人が巻き込まれる。
失われる調度品や建物自体の被害額と修繕費に、『王太子が王宮主催の夜会で招待客を消した』事による風評被害など。
シーくんにとっては取るに足らない労力でやれてしまう光の魔力球による攻撃で、とんでもない被害額が出る。
私が大きな声で直接の被害額をシーくんに教える。
スッと一瞬で光の魔力球が消えた。
私の方を向いたシーくんは涙目になっていた。
「教えてくれてありがとう、リアナ。俺はとんでもないことをしてしまうところだった」
私を抱きしめるシーくん。
王太子の光の魔力球に驚いていたエリオットは、私の様子に唖然とする。
「リアナの完璧な記憶力と計算力のおかげで俺はいつも助かってる」
シーくんが私を抱きしめながら言う。
「子供の頃から、君が俺の大きすぎる魔力の影響を瞬時に計算して教えてくれたから、この国の平和が成り立っている」
多分、私以外の人には大袈裟に聞こえたと思うけど、本当にシーくんには国を滅ぼせる程の力がある。
少しでもコントロールを誤ると大惨事を引き起こす可能性のあるシーくんの魔力を、事前の完璧な計算で、人助けにのみ使えるように設定しているのは私だ。
「君の精密な能力を傷つけないために、何もさせられない。俺を制御して、国の為に働かせるのに、君の能力は絶対必要だ」
そんな事を話していると、国王と王妃がやって来る。
私はソファにもたれ掛かったまま。
「息子の大事な君が壊れてはいけないから、ワシらから挨拶に来させて貰った。息子と婚約してくれて感謝している、リアナ殿」
「ええ、本当に、あなたがそばにいなかったらと思うと、この国はどうなっていたのか」
「シルヴェスター、これからもリアナ殿を大切にして、決して傷ひとつつけてはならんぞ」
「はい、父上!」
婚約するとは言ってないけど、完全に婚約者扱いだわ。
国王と王妃は、私とシーくんの横にいるエリオットに冷ややかな視線を向けて貴賓席に戻って行く。
私がシーくんと別の人、エリオットと婚約した時には、城中が大騒ぎだったらしい。
お父様お母様が、
「シルヴェスター様以外にリアナを大事に扱える人はいませんから、一度、やらせてみて下さい」
と言ったらしいけど、その通りになるまでの三ヶ月は厳重に監視されて、エリオットが根を上げるのを固唾を飲んで見守っていたそう。
実は、エリオットは本人の知らない所で国家の上層部から目をつけられている。
何かあれば、重い罰を下して、私に二度と近づけないようにするらしい。
「エリオット・グランヴェール、君は馬鹿だな。おかげで俺がリアナと婚約出来る」
エリオットが王太子を見て悔しそうに肩を振るわせている。
「俺に、見る目があれば、君を一生大事にしたのに。もう一度、チャンスをくれないか、リアナ、愛してる」
「今更遅いのよ、エリオット」
そして、空気も読めない。
私がシーくんにとってどれだけ大事で、この国にとっても必要だって話したばかりよ。
国王や王妃、国家機関のエリオットへの警戒レベルが最大になった。
排除作戦が実行される。
私がエリオットを見る事はもう無かった。
◆◇◆
夜会の後に、階段を登ってシーくんの部屋に連れていかれる。
シーくんがお姫様抱っこしてくれてるけど、全く疲れていない。
エリオットがすぐに疲れていたのと比べて、体力がありすぎる。
何も抵抗できないまま、ベッドに寝かされて、優しくキスされる。
唇から首筋を通って動くシーくんの唇は、フサフサの羽で撫でられるみたいに優しくてくすぐったい。
服が肌から優しく外されて、普段は見せない部分が露わになる。
恥ずかしいけど、シーくんの私を撫でる手が優しすぎて、目をつぶって心地よさを感じた。
ギュッとシーくんに背中から優しく抱きしめられて、眠っていたらしい。
シーくんも寝ていて、起きている時より腕の力が強い。
邪魔だからシーくんの腕を撫でてると、「うーん、気持ちいい……」と声がした。
私はシーくんの腕に噛みついた。
「痛い!」
シーくんが起きた。
涙目で何か言いたそうだけど無視して話す。
「シーくんのこと撫でたら気持ち良かったの? もしかして、閨のことなら、シーくんも私にして欲しい事あるんじゃない!」
私ができる普通のことがあるの!?
「そ、それは……」
恥ずかしそうにするシーくんをギュッと抱きしめる。
「さっきまでシーくんが私にしてた事をすればいいの?」
「そういうわけじゃ……」
「私にキスされるの、嫌?」
一瞬固まったシーくんを、ベッドに押し付ける。
私はその上に重なって、シーくんの唇を奪った。
「あ……」
シーくんから、とっても可愛い声がする。
「シーくん、可愛い……」
「リ、リアナ」
シーくんが頭を完全に横に向けて目を逸らす。
な、何これ可愛い!
私は突き上がってきた衝動のままに、シーくんの首筋に顔を埋める。
「可愛いわ、シーくん」
シーくんの胸の上に手を置くと鼓動が伝わって来る。
彼が私にしたように優しく撫でる。
シーくんの身体が跳ねた。
「気持ちよかった?」
「くすぐったいだけだよ。もうやめよう、リアナ」
ベッドの上で横を向いたまま、目だけで私を見る。
「恥ずかしがってる、シーくん可愛い」
私はまた首筋にキスする。
唇をくっつけたまま話す。
「シーくんがいつも私にくっついて可愛いとか愛してるとか言う気持ちがわかったわ。可愛すぎて、言葉が溢れてくるのね」
「リアナ! 俺の気持ちわかって……」
シーくんが興奮して、起きあがろうとする。
「ダメ、シーくんは私に可愛がられて!」
シーくんの両手に指を絡めてベッドに押し付ける。
「ん……」
またシーくんが可愛い声を出す。
唇を奪うと、また可愛い顔をしてるけど、シーくんはちょっと不満そう。
「リアナの好きにしていいけど、次は俺だからね」
精一杯のシーくんの強がりが可愛い。
私は閨でも有能令嬢になりました。
ただ、知っているのは王太子だけです。




