第8話 クラスメイトの誘惑
「珍しいよね、ハジメくんが一人でお昼ご飯食べるなんて」
クラスメイトの一人がそう言うと、続けて他のクラスメイトたちも俺の下に集まってくる。
あっという間に、俺は三人の女子に囲まれてしまった。
「ねー、珍しいよね! いつもはなのかちゃんと一緒なのに!」
「朝も一人で登校してきたし、もしかしてなのかちゃんと喧嘩でもしたの?」
「い、いや、そういうワケじゃ……」
「せっかくならさ、私たちと一緒にご飯食べようよ!」
クラスメイトたちは開いている席を引っ張ってきて、俺の机とドッキング。
一人では寂しいだろうと、彼女たちなりに気遣っての行動なのかもしれないが――
「ハジメくん、好きな食べ物とかある?」
「お弁当のおかず交換しようよ! 実はコレ、私の手作りなんだ~!」
「あ~、え~っと……」
……勢いが凄い。
なんというか、ここぞとばかりに距離を詰めてこようとしてる感。
決して嫌なワケじゃないし、迷惑なワケでもないんだけど……このキャピキャピ感には付いていけそうにないな……。
「ハジメくんさ――やっぱりなにかあったでしょ」
「え?」
「朝から元気ないよ? もし悩み事とかあるなら、ウチらが相談に乗るからさ」
「そうだよそうだよ、私たちクラスメイトじゃん?」
「あ、そうだ! もしよかったら、気分転換に放課後カラオケ行かない?」
「いや、その……」
「個室が広くて全然音が漏れなくて、しかも外から部屋の中が見えなくて、オマケにウチの友達がバイトしてる場所だから。もうなにしてもOK!」
……なんだろう、その言い方だと心なしか不穏な感じがするんだが。
個室が広くて全然音が漏れなくて、外から部屋の中が見えなくて、オマケに友達がバイトしててなにしてもOKな場所って、それもう明らかに――。
……いや、これ以上深読みはしないでおこう。
ただ一度入ったら食われるまで出てこられない気配は、プンプンするなぁ……。
「ね、いいでしょ? ハジメくんが楽しめるように、ちゃーんとウチらで接待してあげるから」
――可愛らしいながらも、どこか妖艶さを含んだ笑顔。
意図してか意図せずか、彼女は第一ボタンが外されたブラウスの襟を指先で僅かにはだけさせ、首元の肌を見せる。
同時に、瞳の奥に舌なめずりをするような劣情が垣間見えた気がした。
……極端に数の少ない男って存在だからさ、俺って。
こういう女子からの視線に対して、嫌でも気付けるようになっちゃったんだよな。
勿論、俺だって雄だから。
彼女の誘惑に、ほんの一瞬だけでも心がグラリと揺さぶられたのは否定しない。
――でも、
「えっと……ごめん」
俺はクラスメイトの女子たちに対して、軽く頭を下げた。
「誘ってくれて嬉しいんだけど。放課後はちょっと予定があって……」
申し訳なさそうに、俺がクラスメイトの女子たちに謝る。
すると、その直後――
「――ハジメ」
教室の入り口の方から、俺が今一番聞きたかった女子の声がした。
声に釣られて入り口を見ると――そこには、幼馴染が立っていた。
彼女はどこか気まずそうな表情をしながらも、こちらを見て――
「ちょっと……いいかな」
短い言葉で、俺のことを呼び出した。
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