第7話 ハジメくん取られちゃうかもよ?
《愛染なのか視点》
「それでそれで、結局ハジメくんと喧嘩しちゃったの? してないの?」
さらに身を乗り出してミネが聞いてくる。
どうやらちゃんと答えるまで、この話題を終わらせる気はないらしい。
「してないってば。でも、ちょっと気まずいことがあって……」
「ふ~ん。まあ事情は知らないけどさ、早く仲直りした方がいいよ?」
「え?」
「実はハジメくんのこと狙ってる女子が多いの、なのかも知ってるっしょ?」
「そ、それは……」
「ウチの学校の女子たちがハジメくんに告らないのって、なのかがいるからだかんね」
ミネは机の上に置いていた紙パックの豆乳を手に取り、チュ~ッとストローで吸う。
「ハジメくんとなのかが付き合ってるって、みーんな思ってるから。もし別れたなんて噂が流れたら――大事な幼馴染が取られちゃうかもよ?」
「う……」
――それはミネなりの、親友としての助言なのだと思う。
確かに、私もよく知っている。
ハジメのことを異性として気にかけている女子が、大勢いることを。
……私とハジメは、幼稚園の頃からずっと一緒だった。
遊ぶ時も、学校へ行く時も、学校から帰る時も。
小学校への登校も、中学校への登校も、そして高校生となった今だって、毎朝一緒に肩を並べて登校している。
私にとっては――ううん、きっとハジメにとっても、それはもう日課みたいなもの。
私たち幼馴染は、幼い頃からなにをするにも二人一緒だったのだ。
でも――もし私がハジメから離れたら、そんな日常が崩れてしまうかもしれない。
ハジメの隣が――私以外の女子の居場所になってしまうかもしれない。
……そう考えると、胸が苦しくなる。
耐えられなくなりそうになる。
独占欲なのかな、これって。
私って独占欲まで強い女だったのかな?
私は胸の前で、キュッと拳を握る。
「うん……そうだよね。ありがとうミネ、後でハジメのところに行ってくる」
▲ ▲ ▲
――俺となのかは、それぞれ別のクラスに在籍している。
俺がいるクラスは二年Aクラス、なのかがいるクラスは二年Eクラス。
教室の位置も離れているので、休み時間などに意識的に会いに行こうとしなければ基本的に顔を合わせることはない。
だから別々に登校して以降――俺は珍しく、朝から幼馴染の顔を見ていない。
そうしていつの間にやら時間は過ぎ去り、昼休みになってしまった。
「ハァ……なのか、どうしてるかな……」
俺は机の上で頬杖を突き、そんなことを呟く。
普段、俺となのかは昼食も一緒に食べることが多いのだが、今日ばかりは一人で弁当箱を開封することになりそうだ。
……なのか、怒ってるのかな?
それともただ気まずくって、顔を合わせられないだけなのかな?
…………これまでずっと一緒に過ごしてきた幼馴染なのに、彼女が今どんな気持ちなのかわからない。
我ながら情けないよ。
こんな状況になって、改めて自分って女心をわかってないんだなって思い知らされる。
――やっぱり、俺の方から会いに行くべきかな。
でも、もし逃げられたりしたらどうしよう。
話を聞いてもくれなかったらどうしよう。
……怖い。
そうなったら、もう立ち直れなくなるかも。
俺は恐怖心からなのかのいる二年Eクラスへ足を向けることができず、ただ悶々としていた。
すると、
「――ねぇ、今日はハジメくん一人でお昼なんだ?」
クラスメイトの女子が、俺に話しかけてきた。
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