第6話 やっぱり負けヒロイン
幼馴染とあわや一線を越えかけた翌日の朝。
「……行ってきます」
俺は玄関で靴を履き、重い足取りでドアをガチャリと開けた。
……いつも通りの日常なら、玄関の前で身支度を済ませたなのかが待ってくれている。
俺たちは家がお隣同士で、ほぼ毎日一緒に登校しているから。
だけど――この日は、玄関の前に幼馴染の姿はなかった。
「そりゃそうだよね……」
あんなことがあって昨日の今日。
俺だって顔を合わせるのがなんだか気まずい。
昨日は結局有耶無耶な雰囲気になったまま、なのかはすぐに帰っちゃったんだよな。
流石にいつ部屋に入ってくるかわからない妹が帰ってきた状況で、そのまま続けるなんて色んな意味で無理だったから……。
かといって普段のように談笑なんてできようはずもなく……。
「……今日、なのかになんて声をかけよう」
ハァ、と俺は短くため息を吐いて、学校へと向かうのだった。
▲ ▲ ▲
《愛染なのか視点》
「――あれ~? なのか、今日は一人で登校したんだ」
私がクラスに入るなり、友人の田原美音が声をかけてくる。
彼女は私と同じくテニス部に所属しており、席も丁度目の前。
黒髪を短く切ったスポーティな外観とサッパリとした明るい性格から、知人も多い。
なので私とも仲がよく、親しい間柄。
私はそんな彼女のことをミネと呼んでいる。
「……おはよう、ミネ」
「おはよ」
軽く挨拶を交わし、彼女の後ろの席に着く。
そんな私を、ミネはジ~ッと見つめてくる。
「なのか、なんか元気ない?」
「……そう見える?」
「見える見える。ハジメくんと喧嘩でもした?」
「…………どうしてそこでハジメが出てくるのよ」
「そりゃだって、いつも一緒に登校してる彼と一緒にいないで、しかもやつれた顔までしてれば……ねぇ」
う……今の私、そんなにやつれた顔してる……?
でも確かに、家を出る前に鏡で自分の顔を見た時、だいぶ疲れた顔してるなって思ったかも……。
だけどしょうがないじゃん。
昨日はほとんど眠れなかったんだもん。
――結局あの後、私は逃げるようにハジメの部屋を出ていった。
もうどうしようもなく気まずくって。
すぐに家の自室に駆け込んでベッドの上で蹲ったけど、ず~~~っと悶々としたままなにも手に付かなかった。
夕食だってほとんど喉を通らなかったくらい。
お陰で家族にも心配されちゃった。
「……」
思い返すと、途端に恥ずかしくなってくる。
私――ど、どうしてあんなことしちゃったんだろ……!?
ハジメの匂いを間近で嗅いだ瞬間、自分が自分じゃなくなったみたいになって……。
まるで、頭じゃなくて身体がハジメを求めたような――!
普段の私なら、あんな積極的なこと絶対できないのに……!
――正直、後悔してる。
あんな形でハジメに迫っちゃったことを。
でももっと後悔してるのは――ちゃんと、ハジメと最後まで出来なかったこと。
結局、私は逃げちゃったんだ。
勇気が出なかったんだ。
ううぅ……あんな状況にまでなって逃げ出しちゃうなんて……。
やっぱり私って〝負けヒロイン〟だよぉ……。
それに、思い出しただけでなんだかムラムラしてきちゃう……。
私ってこんなにはしたない女だったのかなぁ……?
顔が火照るのを感じて、思わず机に突っ伏す。
「お~い、なのか~? ダイジョブ~? 保健室行く~?」
そんな私を心配してくれるミネ。
……とてもじゃないけど、幾ら親友にだって相談できないよ……。
大好きな幼馴染と遺伝的に相性が最高だったなんて。
ましてや――そう意識し始めた途端、自分の制御が出来なくなくなりつつあるだなんて……。
もし少しでも「面白い」と思って頂けましたら、何卒ブックマークと★★★★★評価をよろしくお願い致します!<(_ _)>
評価を頂けると、本当に嬉しいです……!