第3話 実は〝最高〟だった
【遺伝子相性診断】の検査から、今日で一週間。
「――てっきり、担任から教えられると思ってたんだけどなぁ」
全ての授業が終わった放課後。
俺は校内の廊下を歩き、保健室へと向かっていた。
どうして保健室に向かっているのかというと、呼び出しを受けたのだ。
保健室の先生から。
今日は【遺伝子相性診断】の結果がわかる日。
だからそれ絡みで呼び出されたのは間違いないと思うんだけど、こういうセンシティブな話は担任から聞かされると思っていたから意外。
いや、センシティブな話だからこそ保健室の先生なのかな?
正確には養護教諭だけども。
なんて思いながら、保健室の前までやってきた俺だったのだが――
「「――あれ?」」
思わず声がハモる。
向こうも俺と鉢合わせするとは思っていなかったようだ。
保健室の前でバッタリ鉢合わせしたのは――なのかだった。
「なのか? なにしてるんだよ、こんなところで」
「私は保健室の先生に呼び出されて……。そういうハジメは?」
「え? 俺も保健室の先生から呼び出されたんだけど?」
「……どういうこと?」
思わず頭上に〝???〟を浮かべる俺たち二人。
なのかも呼び出しを受けた?
……なんで?
数少ない他の男子と一緒に呼び出されるならまだしも、女子であるなのかと一緒って……。
保健室の先生のミスだろうか?
ダブルブッキングってヤツ?
なんて、色々と考えていると――〝ガラガラ〟と音を立てて保健室のドアが開く。
「ん~? お、来たかお前ら」
保健室の中から現れたのは、白衣を羽織った黒髪の女性。
彼女の名前は黒月美鈴。
ウチの学校の養護教諭で、眼鏡が似合う大人の女性だ。
年齢はたぶん三十歳くらい。
美人でスタイルもいいのだが、身だしなみをあまり気にしないのか全体的に緩い格好をしている。
景気よくボタンが外されたシャツからは完全に谷間が露出しており、さらに丈の短いタイトスカートを履いているため思いっ切り太腿が曝け出されている。
まあ、ウチの学校って99%女子校って言っても過言じゃないからな……。
ほとんど同性しか相手にしないから、服装もそれほど意識しなくなっていくんだろう。
そんなズボラな服装の先生だが、良くも悪くも教諭らしからぬサバサバとした性格故に生徒からの人気は高い。
俺としても気安く付き合える大人なので、結構好きな先生だ。
とはいえ正直、あんまり緩い格好をされると目のやり場に困っちゃうんだけど……。
「……ちょっとハジメ、どこ見てるのよ」
「え!? い、いや別にどこも……!」
「ふ~ん」
ジトッとした訝しげな目でこちらを見てくるなのか。
ヤバい、黒月先生の胸元に視線が吸い寄せられたのバレたか……?
俺は仕切り直すようにコホンと咳き込み、黒月先生の方を見る。
「えっと……俺一人だけ保健室に呼ばれたと思ったんですけど……」
「ああ。お前と愛染、それぞれ一人ずつ個別に呼んだ。いいからほら、中入れ」
「はぁ……」
顔を見合わせる俺となのか。
廊下に突っ立っていても仕方ないので、俺たちは保健室の中へと入っていく。
俺たちが中へ入ったのを確認した黒月先生はドアを閉め、用意された椅子に腰かけるよう促してくる。
彼女もデスクチェアに座り、
「え~っと……確かお前ら、幼馴染なんだっけ?」
「は、はい」
「いいな~。男の幼馴染、私も欲しかったな~」
ハァ~、と深いため息を漏らす黒月先生。
「そうすりゃ、年増になる前に独身卒業できてたかもしんないのに~」
「あ、あの、黒月先生……? そろそろ私たちが呼ばれた理由をお伺いしても?」
なんだか要領を得ないので、なのかが切り出す。
黒月先生は「ああ」とやや気怠そうに返事すると、
「そうさな……今から話すことは、ちょいとセンシティブなんだが――」
椅子の背もたれにもたれかかり、話し始める。
「――【遺伝子相性診断】の結果が出た」
「「……!」」
「で、なんでお前らが二人一緒に呼ばれたかって言うと……〝最高〟だったんだよ」
「? さ、最高っていうのは……?」
「お前らの遺伝的相性が――文句なしに〝最高〟って診断結果だったって言ってんの」
「「え……ええええええええええええええええええええええええぇぇぇぇぇッ!?!?」」
――驚きの叫びが完全にハモる俺となのか。
黒月先生は机の上に置かれた二枚の紙を見比べながら、
「どの検査項目でも完全に、完璧に相性バッチリ。凄いな~、もうくっ付いちゃえよお前ら」
「いっ、いやあの! 〝最高〟って、そんな診断結果、普通出るものなんですか……!?」
「いんや、か~な~り珍しい」
ぶつけるように投げかけた俺の疑問に対して、黒月先生は気怠そうにしたまま答えてくれる。
「他の生徒でも〝良〟とか〝可〟って相性結果が出た男女はいたが、〝最高〟が出たのはお前らだけだ」
「そ……そうなん、ですか……?」
「同じ学校内の同じ学年で、ましてや幼馴染だなんて、もう奇跡みたいな確率だろ」
「あ、あの……! その、突然そんなこと言われても、正直心の整理が付かないというか……!」
「わーってる。だからゆっくり考えるといい。ま、私としては交際を勧めるがね」
……曲がりなりにも先生が生徒同士の交際を勧めていいのだろうか?
いやまあ、そもそも【遺伝子相性診断】自体がそういう目的のためにある物だから、おかしくはないのかもしれないけども……。
黒月先生は俺にそう言うと、チラリと視線をなのかの方へと移す。
「それに……お相手の方は、案外まんざらでもなさそうだぞ?」
「え?」
俺は顔を横に向け、隣に座るなのかのことを見る。
すると――俺の目に移ったのは、顔どころか耳たぶまで真っ赤に染め上げ、恥ずかしそうに俯く幼馴染の姿。
まるで「もう俺と目を合わせられない」と言っているかのような、そんな表情だった。
「養護教諭として、伝えるべきことは伝えたぞ。わかったらもう帰れ。年増に一服する時間をくれ~」
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