第21話 なのかはムッツリ②
「丁度いいから、もうちょっとお店見てこっか」
「いいね、賛成~」
「じゃ、誰が一番なのかに似合う下着を見つけられるか競争~!」
――談笑しながらランジェリーショップの中へと入ってくるミネさんたち。
それを見て「やばっ!」と焦るなのか。
「ハジメ、こっち!」
彼女は適当なランジェリーを手に取り、俺の腕を引っ張って店の奥へダッシュ。
「すみません、試着室お借りします!」
「はーい、どうぞー」
カウンターで退屈そうにしていた女性の店員さんに向かって一言声をかけると、そのまま試着室へ直行。
脱兎の如き速度で狭い試着室の中へと入り、カーテンを閉めた。
――俺を連れたまま。
「ちょっとなのか!? なんで俺と連れたまま試着室に入るんだよ……!」
「し、仕方ないじゃない! ハジメだけ放っておくワケにもいかないし……!」
いやまあ……確かに俺一人でランジェリーショップにいるのをミネさんたちに見られるのは問題ではある。
でも色々言い逃れの術はあると思うんだ。
俺って妹いるし、その買い物に付き添ってる~とか適当なこと言えば。
むしろ試着室の中に男女が二人で入るとか、そっちの方がよっぽど言い逃れできないような気も……。
「あ、この下着なんてなのかに似合うんじゃない?」
「いいね~。コレとかどうよ?」
「うわ~、ドスケベ~!」
店内の方からきゃっきゃと聞こえてくるミネさんたちの声。
どうやら完全に冷やかし客と化しているようだ。
……どうしよう、あの感じだとしばらく出られそうにないぞ……。
うむむ……と悩む俺。
それにしても――なんだかこの試着室、妙に蒸し暑くないか?
空調の配置の関係で、熱がこもりやすいのかな?
状況と相まって、なんだか汗かいてきちゃったよ……。
うぅ、汗臭くないかな……。
襟の辺りを掴んで、パタパタとシャツを仰ぐ俺。
一方――
「……」
「? なのか、どうしたの?」
「――ねぇハジメ。ハジメも……やっぱりこういう下着が好きなの?」
「え?」
――俺に背中を向けていたなのかが、こちらへ振り向く。
そして――彼女は俺に、手にしていたランジェリーを見せつけてきた。
「――! こ、これは……っ」
さっき、試着室に入るため咄嗟になのかが手に取ったランジェリー上下セット。
それは……途方もなくエロいデザインの下着だった。
全体的にフリフリのフリルが付いたピンク色で、下着と呼ぶにはあまりに主張が強い。
というかそれ以前に、まず根本的に下着であるにもかかわらず大事な部分を隠せるようになっていない。
具体的には……その……パックリと割れているのだ。
ブラで言えば〇首を隠す左右中央部分が、パンツで言えば股下の部分が。
これは……俗に言うアレだろうか?
〝勝負下着〟というヤツなのだろうか?
……なんで???
なんでこんなデザインの下着が、さも普通に置いてあるの?
ここソッチ系のお店とかじゃ全然ないよね?
え、なに、ランジェリーショップってこういうモノの取り扱いがあるのが当たり前なの?
わからん。
もうなにもわからん。
「クスッ、ハジメってば目が釘付けになってる」
俺が思わず下着をまじまじと見つめていると、なのかがからかうように微笑を浮かべる。
「ねぇハジメ、この下着……着けてあげよっか」
「は……はぁ!? なに言って――!」
――――はっ!?
し、しまった……これは……!
なのかの目を見て、俺はすぐに気付いた。
あの時と同じ目だ。
なのかは――〝暴走〟している。
……迂闊だった。
狭い試着室の中、
空調の効きが悪く蒸し暑い空間、
二人きりで限りなく密着――
そりゃお互いの匂いなんて、嫌でもわかるよねって。
なのかは、きっと俺の匂いに当てられたんだ。
緊張と蒸し暑さでちょっと汗かいちゃったし、俺の体臭も強まっただろうから……。
「な、なのか、落ち着くんだ……! 今キミは、俺の匂いでおかしくなって――」
「ハジメはさ、ちょっと憧れない?」
「へ……?」
「こういう試着室の中で……こっそりえっちなことをするの……♪」
妖艶な笑みを浮かべて見せたなのかは、そう言って――少しずつ、服を脱ぎ始める。
「ちょっ……!? な、なにして……!」
「ハジメが見たいなら……いいよ。全部見せてあげる」
どんどんと服のボタンを外していき――遂に彼女は、はらりとフリルブラウスを脱ぎ払った。
服の下に隠されていた肌が、露わになる。
俺は慌てて目を逸らすが、彼女の肉体が放つ官能的な美しさは、目を背けるという行為を難しくさせる。
……嫌でも妄想させられる。
綺麗な身体のなのかが、あの下着を身に着けた姿を。
あの下着を着けて、俺に迫ってくる光景を、
――マズい。
こうなったら、なのかはもう俺の言葉じゃ止まらない。
どうしたら――
『――すみませーん、お客様~?』
――その時であった。
カーテンの向こうから、さっきカウンターにいた店員さんの声が聞こえてくる。
『先程から、どうかなさいました~?』
「「――!!」」
突然声をかけられ、口から心臓が飛び出そうなほど驚く俺となのか。
たぶん俺たちの声が微妙に漏れていたのだろう。
できるだけヒソヒソ声で話していたつもりだが、会話をしてれば限度もあるよね……。
もしこんな場面を見られたら――っていうか試着室の中に男女が二人でいるなんて知られたら――
『ちょっと失礼しますね~』
――シャッと、カーテンが開けられる。
そして俺たち二人はもれなく、店員さんとバッチリ目が合った。
「「「…………」」」
沈黙して固まり合う、俺たち三人。
店員さんは「はぁ~」とため息を吐き、
「えっと……ウチはそういうお店じゃないので、他所でやってもらっていいですか……?」
「「す――すみません~~~ッ!」」
全力で頭を下げる俺たちカップル。
――この後、俺となのかは事の経緯と事情を説明し、とにかく店員さんに謝罪。
すると、店員さんは案外と優しい人で、二度とやらないなら学校や家には伝えないと言って許してくれた。
なんでも彼女曰く「こういうお店で働いてると、たま~にあるんですよね……」らしい。
こうして俺たちは九死に一生を得たのだった。
……いや、見つかった時点で九死に一生とは言えないかもしれないが。
ちなみに店員さんに見つかった時点で、ミネさんたちはとっくに店舗から去っていましたとさ。
第4章はここまでとなります!
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