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第20話 なのかはムッツリ①


「ちょ、ちょっとなのか……痛いってば」


 グイグイと腕を引っ張られ、ショッピングモールの中を歩かされる俺。


 その間、腕を引っ張るなのかは少しも俺と目を合わそうとしないが――ある程度歩くと、ようやくピタリと足を止めてくれる。


「……なんて言われたの?」


「へ?」


「さっきの子たちに、なんて言われたの?」


 こちらに振り向くことなく、そんなことを聞いてくるなのか。


 俺は気まずさを感じながらも、


「補習帰りでイライラしてるから、発散に付き合ってほしいって……。ただのナンパだったよ」


「……本当にそれだけ?」


 ――本当はムラムラしてるからホテル行こうって言われました。


 でもそんなの言えるワケないでしょ!

 言ったら絶対なのか怒るじゃん!


 なにが悲しくて、初デートで恋人を怒らせなきゃいけないんだよ……。


「それだけ。――それよりなのか、不快な思いさせちゃってごめん」


 俺はなのかに対し、申し訳ないという気持ちをちゃんと伝える。


「さっきの子たちのお誘いは、なにがあろうと断ってたよ。絶対に」


「……」


「俺には大事な彼女がいて、今デートに来てるからって、本当のことを言ってさ。だから機嫌直してほしいな~、なんて……」


「……ハジメは――」


「?」


「ハジメは、私の彼氏なんだよね?」


「えっ、う、うん。なのかは俺の彼女だからって、今そう言って――」


「だ、だったら!」


 なのかはようやく――俺の方を向いてくれる。


「だったら余所見なんてしないで……私のことだけ見てなきゃ、ダメなんだから……!」


 彼女は実に不満気な――いいや、不安気(・・・)な表情で俺のことを見た。


 ……もしかして、嫉妬(・・)してくれてる?


 俺がギャルの子たちにナンパされてるのを見て、妬いてくれたのか?


「なのか……もしかして妬いてる?」


「知らない! ハジメのバカ!」


「あはは、ごめんごめん」


 俺は、俺の腕を掴むなのかの手にそっと触れる。


「俺の彼女はなのかだけだから。俺にはなのかしか見えてないから。だから安心して?」


「うぅ……」


 たぶん、なのか自身も自覚があるのかもしれない。


 自分があまりいい感情とは呼べない、嫉妬深い感情に囚われていることに。


 なら、彼女の不安を取り除いてあげるのも彼氏の立派な役目だよな。


「俺はどこにも行かないよ。それより、デートを楽しもう」


「……うん」


 改めて――俺たちは手を繋ぎ直す。


 どちらか一方が腕を掴むような形ではなく、手の平と手の平をちゃんと合わせて、お互いの気持ちを確かめ合うように。


 そして再びショッピングモールの中を歩き出そうとした――そんな時だった。



「――でさ~、そん時のテニス部の練習でさ~」



 ――なんだか聞き覚えのある声が聞こえてくる。


 声の聞こえてきた方向へ俺たちが目を向けると、


「……ミ、ミネっ!?」


 思わずなのかが驚きの声を上げる。


 なんと俺たちの視線の先には、なのかの友人であるミネさんの姿が。


 彼女は他の友人二人を連れ、ショッピングモールの中を楽し気に歩いている。


 今日は休日ということで、どうやら彼女たちもここへ遊びに来ていたようだ。


 まさかこんなタイミングで鉢合わせるとは……。


 ミネさんの姿を確認したなのかはアワアワと慌てて、


「ど、どうしてミネが……! ハジメ、こっちに来て!」


「え? ちょっ――!?」


 またもグイッと腕を引っ張られ、俺はなのかに連れられるまま最も近場にあったお店(テナント)に入っていく。


 なのかとしてみれば、そのお店の中に隠れるつもりだったのだろうが――俺にとってその選択は、完璧に最悪だった。


 何故なら……このお店〝女性下着専門店(ランジェリーショップ)〟だから。


 店内一面にズラッと女性下着が並び、どれもこれもファンシーな装飾の明るい色合いのデザインがなされている。


 つまり俺は今、可愛らしいブラやパンツに囲まれているワケで。


 ……ねぇなのか、知ってる?


 ランジェリーショップって、男にとってはこの世で最も身近にある禁足地の一つなんだよ?


 基本的に男人禁制の場所なんだよ?


 マジで居心地が悪いなんてレベルじゃない。

 下手なことをしたら通報されるんじゃないかって恐怖すら覚える。


 まあ恋人(なのか)と常に一緒にいれば、流石にそこまで白い目で見られることはない……と思うけど……。


「ねぇなのか、ここは流石に……」


「しっ、静かに……! 私たちがデートしてるなんてミネに知られたら、またなんてからかわれるか……!」


 ハンガーラックに掛けられて展示される下着の陰に隠れ、様子を伺う俺となのか。


 その後ミネさんたちは、俺たちのいるランジェリーショップの前を通りかかる。


「ん? ランジェリーか~」


「どしたのミネ? なにか買う?」


「いやさ、なのかもこういう派手なの着ければいいのに~と思って」


 そんなことを言いつつ、店頭に飾られてあったド派手な下着を手に持つミネさん。


 彼女が手にしたモノは色々な部分がスケスケとなっており、妙に艶っぽいというか攻めたデザインのランジェリーセット。


 それもブラのサイズが大きめに設定されてあるようで、まさになのかにピッタリそう……なんて思う俺は最低だろうか。


「なのかってばスタイル抜群なんだから、こういうのでハジメくんに迫ればイチコロだと思わん?」


「言えてる~。でもなのかってシャイだからな~」


「ね~。ハジメに引かれちゃうから無理~、なんて言って着られなさそう~」


「いやいや、そこはギャップ萌えですよ。それにホラ、なのかってムッツリだから」


「確かに~。なのかはムッツリだね~」


「絶対ハジメくんで色々妄想してるよね、なのかって~。スケベだな~」


 ハハハ、と他愛無い会話で盛り上がるミネさん一行。


 そんな彼女たちの会話を聞いて、なのかはギュッと握った拳を震わせる。


「ミ~ネ~……! 休日が明けたら覚悟しておきなさいよ……!」


 すっごい怒ってる。

 すっごい怒ってるよ、なのか。


 そりゃああんな陰口叩かれれば誰だって怒りそうなモノだけど。


 でも彼女たちの口調を聞く限り、やっぱりなのかって友達に好かれてるんだなって感じる。

 ミネさんたちも嫌味で言ってる風じゃないし。


 でもそれはそれとして……なのかがムッツリっていうのは、女子たちの共通認識なんだな……。


もし少しでも「面白い」と思って頂けましたら、何卒ブックマークと★★★★★評価をよろしくお願い致します!<(_ _)>

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